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23歳女が胃カメラを飲んできただけの話

きっかけは、2か月前からの胸の痛みだった。息をすると痛いし食道に物が詰まっている感もある。怖くなってスマホで色々調べてみたけれど、検索結果は”胃がん”や”食道がん”などの一生出会いたくもないワードのオンパレードで、余計に怖さが増すだけだった。忘れようと頑張っても、頑張っている時点で忘れられるわけもなく、意を決して病院に行ったのが先週の事である。

小学生のころから胃薬を持ち歩くくらいに胃炎に悩まされていたので、もしかしたら胃カメラを飲まされることになりかねないと思って、一応胃カメラの評判がいい病院にした。目尻に笑い皺がある優しそうな先生に、胃カメラの言葉を出されないよう怯えながら症状を伝える。胸が痛いってのがメインで来院したんですけど、まあ他に言っておくならば胃の調子もちょっと悪いかなあ、みたいな、まあ昔からなんですけどね、はは、ーと笑ってみせたが最後だった。パソコンの問診票に頻りに文字を打ちこんでいた先生がこちらを向く。と思ったら、とっておきの笑顔。
多分なんもないとは思うけど一応胃カメラもやっとこか。
ああ、やばい、とうとう恐れていた4文字が出てしまった。もう断れない。だって、言ったのは私だ。先生に返した笑顔もぎこちないままに、数秒前の無駄におちゃらけた自分を呪った。

まあ胃カメラは次回にして、今日は最初に血液検査、次に心電図、最後にX線やろう、と言われ、まだ恐怖の4文字を受け入れられないままに腕を捲られる。血抜くの、苦手?-まさに関西のおばちゃんって感じの看護師さんが腕に注射の前定番のあのゴム紐を私の腕にぐるんぐるんに巻き付けながら聞く。まず注射が無理です、でもとりあえず今回は頑張ります、と謎の意気込みを見せて笑った。初対面の人には特に陽気に対応してしまう自分が憎い。全然注射得意そうに思われちゃう。おばちゃんが注射のプロだったのもあってなんとか注射は乗り越えた。まじでこれまでの注射で一番痛くなかった。なんなら蚊に刺されたときの方が痛い説まで出てきたほどだ。心電図の検査を受けながら、おばちゃんに胃カメラのあれこれを沢山聞く。

胃カメラめっちゃ嫌なんですけど、きついですか?-大丈夫大丈夫!鎮静剤打つことになってるし(先生にそれだけはと懇願した)寝てるうちに終わってるわ。来週の火曜なら担当私やし胃カメラ火曜にしたら?-え。そうなんですか-うん。私は18年やってるけど他の子はまだ3か月とかの子もおるし-じゃあぜひ火曜でお願いします(即答)

って感じで早速地獄の内視鏡デーの日も決まり、X線も何の問題もなく、この日の診察は終わった。多分ストレスだろうな、と先生に仮診断を下された。会計を済ませながらおばちゃん看護師さんにさらに質問する。

胃カメラの順序ってどんな感じですか?-まず鼻にスプレーをして、次にゼリー状の麻酔を鼻に入れて、その後カメラと同じ太さのチューブを入れてどっちの鼻からカメラ入れるか決めんねん、で、鎮静剤打って、寝てる間に先生に検査してもらう流れかな。-え、鼻にチューブ突っ込むんですか、絶対痛いじゃないですか、、私インフルの検査ですら無理なんですけど、、-あれやったら先に鎮静剤打つわ。安心し。-まじでお願いします(即答)

ということで私の胃カメラ初体験はこのおばちゃんの采配次第になった。私があまりにも質問するものだから、おばちゃんはかなり親身になってくれた。同い年の娘さんがいるらしい。娘さんと違ってあまりの騒々しさに驚いただろうな。こんなに落ち着きのないやつおるんかって。ごめんなさい。この日はとりあえず胸の痛みを改善する対ストレスの漢方薬を処方されて帰宅した。検査までの一週間は毎日恋に落ちたみたいに胃カメラのことを想って過ごした。おかげで胃痛は増した。胸痛はというとびっくりするくらいに痛みのレベルが下がった。ストレスかあ。

とうとう悪魔の4文字検査と向き合う日がきた。病院に向かうため、段々と咲き始めた桜並木の道路をひとり歩いた。こんなに綺麗に咲く花を楽しむ余裕がまるで無い。今芦屋で一番憂鬱な人間は間違いなく私だとふざけた考えをしながら病院に着いた。良かった、おばちゃん看護師さんがちゃんといた。バックレられてたらどうしようかと思った、そんなわけないのはよく分かっているけど既にパニック状態になっているのでしょうがない。胃の内部を見やすくするために若干甘い消泡剤を飲み、先生とおばちゃんによろしくお願いしますと挨拶して診察台に仰向けになる。言われた通り鼻にスプレーされる。怖い怖い言いすぎたのか、このスプレーでしんどかったら言ってねとかなり優しいおばちゃん看護師さん。苦いけど全然大丈夫だった。泣いたらいかんから、とティッシュを数枚握らされた。かなりの子ども扱いである。最高だ。こんなにちやほやされるとは。怖いやら嫌だやら言いまくって良かった。次に麻酔のゼリーを鼻に流された。これも、かなり慎重にやってもらったから平気だった。事前に説明してもらったので驚きはしなかったけど、麻酔の効果で喉が腫れたような感覚になって、唾も飲み込みにくくなって軽く焦った。すごい、これが麻酔か、と少し感動した。いよいよチューブを入れるときがきた。覚悟していると、おばちゃんが、インフルの検査で怖いくらいやから先に鎮静剤打って訳分からんようにやったげるわと神の一声をくれた。注射だって怖いけどおばちゃんめっちゃ打つの上手いから案の定痛くなかった。でも、針を刺された感覚はあったのに抜かれた感覚はなかった。

目が覚めた。うわ、寝てたんだ。てかやばい、胃カメラ入れられる前に起きてしまった。まじでもうだめだ、やらかした、と絶望した。けど、なぜか鼻にガーゼが詰め込まれている。涙を拭くように握らされていたティッシュも無くなっている。もしかして、もう終わった?え?鎮静剤凄すぎない?本当に記憶がない。カーテンの向こうのもう1つの診察台で男の人が鼻に麻酔ゼリーやらを入れられている声がする。次はあの人が胃カメラ飲むわけか。つまり私はもう検査を終えた説が濃厚になってきた。うっそ。鎮静剤さまさまじゃん。おばちゃんがカーテンを開けて、鼻の詰め物を取ってくれた。どうやら本当に検査は終わったらしい。まだ少し体がふらふらする。おばちゃんにお礼を言って、先生の説明を少し聞いて、胃炎は確かにあるからピロリ菌がいるかどうか検査に出しとくと言われてこの日は終わった。昨日のことである。昨日の間は無限に鼻水は出るし少し出血しているし鼻はツンとしてほんの少し痛かったけど今日はもう大丈夫だ。あの病院でよかった。先生にももちろん感謝だが機転を利かせて先に鎮静剤を打ってくれたおばちゃん看護師さんにも感謝だ。本当にあれがなければかなりトラウマになっていたと思う。

とりあえず今は検査結果待ちだ。ピロリの奴、いないといいな。あいついると何かと困るからな。ということで、23歳女が胃カメラ検査を受けてきた話でした。皆さんも胃カメラを受ける際にはぜひ鎮静剤を処方してくれる病院へ。帰宅したあとも眠すぎて3時間ほど爆睡することになりますが。

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