#私が美容室に行く理由

「髪切った?」と聞かれるのが嫌い。

なんでわざわざ見りゃわかることを聞くのか、といつも腹立たしいのだけど、「今日はいい天気ですね」とか「グッと冷え込みましたね」みたいないわゆる会話をスムーズに進めるための潤滑油的なことなのはわかっている。あとタモリの影響。

だけど私はなぜか幼い頃からそういった「型通りの」コミュニケーションが苦手。「朝起きたらおはようといいなさい」「ごはんを食べる前にはいただきますといいなさい」という教育は当然受けているのだけれど、1桁歳の頃から「でもここで起きたからって”おはよう”って言ったらなんかオモウツボで負けた気がするよなぁ」と強く思っていた。だいぶひねくれた子どもだった。そして頑なに言わなかった。マナー的にはNGだ。

で、「髪切った?」「そうなの~春らしくちょっと短くして」みたいな会話もその延長線上で苦手。わざわざ見ればわかることを聞かないでほしい。というかなんか恥ずかしい。私が小顔効果を意識して丸みを帯びたスタイルにしつつ内側にちょっとレイヤーを入れて軽さを出しつつもコテで捲いた時にいい感じになるようなカットを美容師さんにオーダーしているところを想像されたくない、というか。


だけどね、髪は切りたいのよ。ビジュアルは常に自分史上良い状態を保ちたいので。変化なく常に良い状態を保ちたい。理想は「誰も私が髪を切ったことに気づかない」だ。


しかし美容室に行けば、当然美容師さんたちは「来てよかった!効果を感じた!」と思ってもらうべくゴリゴリ「変化」をサービスしてくださる。「流行なんすよ」と大胆にえりあしらへんをバリカンで刈られたこともある。

そこで攻防が始まる。私は事細かに「変化」の出ない指示を出す。しかしそのあとも問題が生じる。私は「美容師さんとのフリートーク」が苦手なのだ!

取材は得意。初対面の人とでも仲良くなってその人の人生の山あり谷ありを聞きだすことができる。ただ、1~2時間過ごすだけの初対面の美容師さんに対しては何を話せばいいのかわからなくなってしまうのだ。(ほら、いい天気ですねとかそういう会話嫌いだし)

そしてフリーランスの私はだいたい平日の昼間に美容室を訪れるので「えっ、今日はお仕事おやすみですかぁ~?」なんて聞かれる。そこでもなんて答えるかめちゃめちゃ悩む。「フリーランスなので」というと「えー、なんかカッコイイですねぇ~なにしてるんですかぁ~?」と話が私のことを深堀する方向に行ってしまう。人の人生は深堀するくせに、自分の人生をよく知らない人に深堀されるのは苦手なのだ。つくづく面倒な私である。

そんなもろもろからできれば美容室には行きたくない。一時期は自分で切っていた。前髪は余裕だ。横の髪もそれなりに切れる気がする。しかし後ろはどうにも無理だ。そしてそれなりに切れる気がしていた横の髪もやっぱり美容師免許を持っていないからなのか空間図形が苦手だからなのか、自分でやるからなのか(全部だな)やっぱり結果的にはアンバランスな仕上がりになってしまう。いろいろ空間を計算してカットする美容師さんてすげえんだなと改めて思う。


苦肉の策で、最近編み出した手法はこうだ。

伸びた髪を切りそろえる(整える)のは10分1,000円のカット。数センチ整えるくらいなら技術的には1,000円カットでも全く問題ない。10分なのでトークもない。そして安い。唯一のデメリットはおじさんたちばかりの中並んでカットされるのでちょっと浮くということくらい。しかしこれはまぁ私にとっては大した問題ではない。

ストレートパーマやトリートメントが必要となる4~6か月に1回は美容室に行かざるを得ないが、ホットペッパービューティーでネット予約をすることにする。そこで備考欄に「フリートークが苦手なのです」と書く。そうするとだいたい美容師さんは「スン」と押し黙り話しかけてこない。気をつかわせているのは申し訳ないけれど……

最初にはもちろん「変化をつけない」事細かな指示を出す。そして黙って雑誌を読む……


ストレスになることを取り除き、こだわりが実現すれば美容室はとても居心地がいい。シャンプーは気持ちがいいし、マッサージをしてくれることもある。美味しいお茶を出してくれることもあるし、普段はdマガジン派なので紙の雑誌が読めるのも良い。リラックス効果抜群だ。

こうしてメンドクサイ手法をゴリゴリに駆使しながら、私はプロの技術とリラックス効果だけを享受し、そして翌日は誰も私が髪を切ったことになど気が付かないのだ。

ずっと憂鬱だった「美容室フリートーク&翌日タモリ大量発生問題」だが、自分なりの解決策を見つければ楽しみなものに変化することに気づくことが出来た。大人になるとこういう「ちょっとずるいけど自分の願いを叶える方法」が見つけられるようになるよね。

大人になるのも悪くはない、そう気づかせてくれたのが「私が美容室に行く理由」かもしれない。

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