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デイトリッパーと休む

 人がよく死ぬ漫画と聞くとどのような漫画を思い浮かべるだろうか。そして、それが主人公がよく死ぬ漫画だとしたらどうか。本作品デイトリッパーは、ブラスという主人公が何回も何回も死を迎える作品だ。

 本作品は、各章に別れている。各章には冒頭に数字が書かれており、この数字は、ブラスが死ぬ年齢である。あるときは、28歳だし、あるときは32歳だ。1章から順番に年齢が増えていくわけではない。1章では32歳だが、2章では21歳であるし、3章では28歳である。そして、全ての章で、色々な理由で死ぬ。いずれも、わずかな選択の差や、いろいろなタイミングが重なって、ブラスの死は突然やってくる。しかし各章での、ブラスの死は、騒々しさがない。騒がしくないのは、作者の色彩感覚による部分も大きいのではないだろうか。下記のカットを見て欲しい。

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  本作品の作者はブラジルのサンパウロ在住の双子の作品らしい。上記のカットは、オレンジ色の夕暮れと、紫色の夜が同居する時間がなんとも綺麗に表現されているように感じる。このような彩色の美しさも、ブラスの死が静かである印象を形成しているのかもしれない。

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 後ろにぼんやりと見える女性は幽霊ではない。過去の記憶の中の女性を再現するため、女性を透過させているように見える。そして、部屋の暗さと外の雨が降る街との対比もよい。さらに、外の街がものすごく簡略化されて描かれているのもよい。部屋で誰かを思い出す時、おそらくその先にある物は見えているようで、見えていないのが現実ではないだろうか。そういう意味でこのカットはとてもリアルな描写に感じられる。

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 そして、最後の章のこの黄色を見てほしい。ものすごくきれいな黄色の使い方ではないか。なかなかこういう黄色は使えないと思う。おそらくは、太陽の光をこのように表現しているのだろうが、東京で暮らしていて、このような色で太陽の光を感じることは全くない。

 最後の章でブラスの死は明確に描かれていない。でもきっと、ブラスは、また、死ぬのだろう。しかし、最後の章のブラスは、その他の章のブラスと決定的に違うことがある。何が違うか、他の章でブラスがどのような死を辿るかは、是非本作品を読んで確かめてみて欲しい。ゆっくり死について考えて、生きることについて再考するにはうってつけの作品ではないだろうか。

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