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我が子のケアと仕事と家庭と -斉藤学さんに聞く

子どもをケアするお父さん・お母さんに「自分らしい暮らしのコツ」について伺うインタビュー企画。

今回は、重度知的障がいの娘さんと軽度知的障がいの息子さんを持つお父さん「斉藤 学さん」にお話を伺いました。コンサルタントとして日々忙しく働かれている斉藤さんの育児やケアに関するお話や、仕事と家庭の両立するための秘訣から “自分らしい暮らし” のヒントを探ります。

■ 斉藤さんのプロフィール

大手通信会社にて海外金融機関・官公庁向けプロジェクトを経験後、2001年よりコンサルティング会社にて勤務。官公庁、大手民間企業を中心に社会変革に繋がるプロジェクトに従事し、これまでに50以上のビジネス・プロジェクトをコンサルタントとして支援。 また、業務の傍ら多数の社会貢献活動にも関わり営利非営利問わず幅広い人的ネットワークを有する。様々な業界・業種におけるプロジェクト推進の調査研究を手掛けるとともに、企業家向け研修講師、大学等教育機関での講義、各種イベントでの講演活動を行うなど、国内におけるプロジェクトマネジメント啓発・普及活動をリードしている。

家庭では、長女さん(23歳)、重度知的障がい(21歳)の次女さん、軽度知的障がい(16歳)の長男さんの3人のお子さんを育てる。


重度知的障がいと向き合う次女さんとの歩み

ーー重度知的障がいを持つ次女さんとの、これまでの歩みについて教えてください。

私には長女(23歳)・次女(21歳)・長男(16歳)の3人の子どもがいます。次女は、「ファロー四徴症」という心臓の病気を持って生まれました。生まれる1ヶ月程前に心雑音がするということで病気が疑われ、出生後に確定診断。根治を目指し、生後6ヶ月で手術をしました。術後は問題なく回復しましたが、首が座るのが遅い、周りの子ように上手に歩けないなど、徐々に発達の遅れが目立つようになります。そして、3歳児健診で「通常発達ではなく明らかな遅延です」と指摘をされ、療育センターを紹介されました。以降、療育センターに通うことになります。

「専門的な機関にかかれば良くなるのではないか」と希望を持って通いましたが、実際にはそう上手くはいきません。次女のできないことに対する指摘ばかりが耳に入り、次第に私と妻の心は折れかかっていきます。結局、長女を預けていた公立保育園に相談し、園長先生の理解があったことから長女の卒園後に年少から通わせて頂くことになりました。

その後、1年ほど公立保育園に通いましたが、入園後に園長先生が変わったことで内部の変化もあり、専門施設への転所を提案されました。妻とはかなり話し合いの時間を設けました。保育園に通い続けるか、療育園にいくか。これが、最初の大きな選択だったように思います。悩んだ末、私達は別の療育園に通わせることを決意しました。

療育園では同じような悩みを抱えている親御さんにも出会え、安心感は増えていったように思います。小学校は養護学校に入学。ここでも様々な壁にぶつかりながら、なんとか日々を過ごしていきました。

現在は、在宅でケアを行なっています。


軽度知的障がいと向き合う長男さんとの歩み

ーー現在16歳となる長男さんとの、これまでの歩みについて教えてください。

次女が4歳の時に、長男が誕生しました。長男は発語が遅く、3歳児健診の時に「もしかしたら、ちょっと発達遅滞があるかもしれない」と指摘を受けました。そしてその後、次女と同じく療育センターに通うこととなります。障がいは軽かったため、小学校は地域の学校の特別支援学級(支援級)に入りました。支援級は、地域の子どもと触れ合う機会があって良かったものの、多くの児童の中でなかなか専門的なケアは受けにくく、また、支援級は息子よりも障がい程度の軽い子が多く、積極的に行動することが少なかったと感じました。

色々と悩んだ末、中学校からは専門的なケアが受けられた方が良いだろうと養護学校に通うこととなります。しかし、養護学校は重度の子どももいるため、比較的障がいの軽い子はケアを受けづらい状況がありました。自分の子どものことなので多少色眼鏡で見てしまっているかもしれませんが、軽度の障がいと向き合う子どものケアの難しさを痛感します。


ーー息子さんは、日常生活の中でどんな時に難しさを感じることが多いのでしょうか?

息子は軽度知的障がいと自閉症があるので、トラブルが起きた時の対応が難しいです。例えば、電車を乗り間違えてしまったり、公共交通機関に乗る際の障害者手帳の操作に混乱してしまったりします。交通系ICカードは、通常はピッとしたらすぐに通れますが、障害者手帳を持っている場合は特殊な操作が必要となるのです。

イレギュラーに弱い人に通常より複雑な操作があること自体本来おかしなことのはずですが、社会にはこうした例は数多くあり、なかなか難しいものです。世の中、やはりどうしてもマイノリティは生きづらさを感じざるを得ない状況です。誰も悪くはないのだけれど、行き場のない思いを抱え過ごしています。

16歳になった長男に関する今の悩みは、「就労」です。職場まで行ければある程度作業はできると思うのですが、問題は移動です。パニックになるので、自由に乗り物に乗って移動することが難しいのです。

今後は、働く場所の確保と乗り物に乗れるようになること、そして、グループホームでの一人暮らしが出来るようになって欲しいと願っています。そうすれば、社会の制度に守られながらも息子はなんとか生きていけるのではないかと考えます。


子どもより、一分一秒でも長く生きたいと願って

ーー子育てをする中で大切にしていることがあれば教えてください。

私は親の在り方として、障がいを持った子どもが産まれた時、いわゆる普通じゃない状況になった時に「自分たちがどれだけ許容できるか」というのが大事になると考えます。障がいのあるお子さんの親御さん、特にお母さんの中には、お子さんに対して「ごめんね」という言葉をかける方が一定数いらっしゃる印象です。しかし、我々は一生責任をおって生きていくのか、誰のせいでもないことを思い悩み続けながら生きていくのか。それは、違うのではないかなと私は思うのです。

ーー 次女さんや長男さんの今後については、どのように考えられていますか?

今後についての悩みが増えるのは、私の実体験からして16歳以降です。これまで3歳児健診で何を言われるだろうかとか、6歳の時には学校にいけるかどうかなど悩んできましたが、16歳をすぎると年金や居場所など、人生の長い時間に関わる決断が必要になります。

ちなみに、障がい者年金がもらえるのは20歳からです。それをもらうにも診断書や複雑な申請が必要となります。また、診断書をもらうためには病院に通う必要がありますが、場合によっては数ヶ月〜半年前くらいから予約をとる必要があります。とにかく早くから動き始めることが大事だと思います。

長男は、障がい者雇用などある程度社会に守られながら生きていけるのではないかなと思っています。しかし、次女に関しては一生親が見れるわけじゃないので心配です。施設への入所も考えましたが、福祉施設での生活にはメリット・デメリットがあり、選択肢も多くはありません。それを思うと積極的に預ける気になれないので実状です。病気もある娘がいつまで元気で生きてくれるかわかりませんが、僕は、子どもより一分一秒でも長く生きたい。僕たちが元気な間は、福祉サービスも使いながらなんとか一緒に暮らしたいと思っています。

選択肢があることは幸せなことです。重度の障がいを抱えた方の選択肢も増えて欲しいなと、切実に感じています。


仕事との向き合い方

ーー斉藤さんはケアや育児をしながら、どのように仕事に向き合われてきたのでしょうか。

次女や長男の子育てをする中で、仕事のやり方はその時々で変えてきました。プライベートの時間を削りながら会社の部下の指導を行い、大きな仕事を受け持つ時期もありました。しかし、この働き方と家族のケアの両立は不可能です。長男が生まれてからは働き方を大きく変えることにしました。17年前には介護休暇も整備されていなかったので、1ヶ月休むとどうなるかなど会社に聞いてみたのです。

転職して3年目ということもあり、まるまる休職するのは厳しい現状でしたが、上司からメインの仕事を「在宅ワーク」に切り替えようと提案をいただきます。1ヶ月間給料をもらいながら、在宅で仕事を行いました。普段は仕事漬けだったので、子どもや地域のことを知れる貴重な時間となりました。

この体験を通して、仕事やお金のためであろうが、誰かが傷ついていたら意味がないということに気がつきます。仕事のやり方をもっと変えていくことはできないか、と考えるようになりました。

現在は、仕事の量や時間をある程度自分でバランスをとりながら働いています。会社の仲の良い方にも家庭の事情は伝えており、理解いただいています。また、育児・ケアと仕事を両立するために意識しているのは、「妻の体調不良に早めに気づく」ということです。私の仕事が増えると、彼女の負担が必然的に増え、家族から笑顔が消えていくのです。彼女が動けなくなると家庭が回らなくなる部分もあるので、仕事は彼女の様子を見ながら調整する必要があります。余裕って大事だな、と思う日々です。


きょうだい児のケアの重要性

ーー障がいを持つ弟と妹を持つ長女さん(きょうだい児)対して、斉藤さんはどんな思いをお持ちですか。

重度知的障がいを持つ次女は、夜は2時間おきにケアが必要など外から見てわかりづらい部分に大変なことが隠れています。施設の職員だと勤務時間があり交代できますが、家族はずっと付きっきりです。開放されることのない不安と出口のないケアに対するストレスが、周りにいる家族にはのしかかってくるのです。それは、親だけではなく兄弟も一緒です。

チャイルドケアという言葉がありますが、障がいを持つ子どもの兄弟のケアもとても大切になります。きょうだい児(長女)の人生に対する選択肢を奪っているのではないか。親として、彼女の人生の選択肢を狭めないためにはどうしたら良いか。私は常に考えています。

彼女には、自分らしい豊かな人生を歩んで欲しいと願っています。


私らしくいるために

ーー最後に、斉藤さんが「自分らしく暮らす」ために意識して行っていることや、大事にしていることなどあれば教えてください。

とにかく何をするにも「楽しむ」ということを大切にしています。さまざまな心配事はありますが、私の人生は1度きりです。どうやったら楽しくなるか、どうやったら不可能が可能になるか常に方法を考えます。

自分が楽しまないと家族も楽しくないし、お互いに苦しくなるんです。「こんなに一生懸命やっているのに」とか「周りの人に感謝されない」とか「身を削ってサポートしているのに」などと嘆くのは、私は違うと思います。子どものためを思ってやっていることも、全て自分のためでもあると思えないと辛くてやっていけません。

だから私は、全ては「自分のためにしている」と思いながら行動しています。子どもと出かけるのも自分のため。だから、自分の時間に責任を持ち、楽しむことを追求するのです。

「自分の楽しめるようにした方が、いい人生だよね」と思い、行動する。これが、私が自分らしく暮らすために意識していることです。



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以上、本日は重度知的障がいの娘さんと軽度知的障がいの息子さんを持つお父さん「斉藤 学さん」にお話を伺いました。

斉藤さんの貴重な声や熱い思いが、一人でも多くの方に届くことを願ってー。


斉藤さん、本日はありがとうございました。


ケアマガ
介護webマガジン「ケアマガ」では、それぞれの立場で体験した介護者の想い、記憶、経験などを当事者の方が綴っています。また、当事者の方をケアマガ編集部がインタビューをし、想いに迫ります。ケアに関わる方やこれからケアをする方の励みとなり、そして、灯火となりますように。



【取材・文=河村由実子】

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