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#010 『絵本とは何か』を読む。 -第2章 絵本の選択-

第1章に引き続き、第2章。
琴線に触れた部分を引用し、自分の思いや経験と結びつけて考えていきたい。


絵本の世界を体験する

 文学論や文学研究書あるいは批評はどれほど読んでも、所詮、文学は分かりません。文学の外側をぐるぐるめぐるだけです。文学を知ろうとすれば、文学作品の世界へまっすぐ自分で入って、体験してみる以外に方法はありません。絵本についても、同様のことがいえます。絵本というもの、あるいはその世界を理解し知ろうとするなら、自分で絵本を一冊一冊読んでみることがまず大切です。その上で、子どもに読んでみる。もっと明確にいうならば、子どもとともに絵本の世界を楽しむことがなければ、ついには絵本を理解し、子どもにとって絵本とは何かを認識することはむずかしいでしょう。

『絵本とは何か』 第2章 絵本の選択 p.87

絵本について学んでいくと、実際には手に取っていなくても、良い絵本のタイトルを知ったり、物語のあらすじを知ったりする。
批評文を読むことで、絵本に精通している方の考えを知ることができるし、様々な賞について調べることで、どのような絵本が社会で評価されているのかがわかる。

しかし、それでわかったような気になってはいけない。
実際に、絵本の世界に入ってみなければ、絵本の良さを理解することはできない。

幸いなことに、私には息子たち(5歳と1歳)や、学校で関わる子どもたちがいるので、子どもとともに絵本の世界を楽しむことができる。
絵本を手渡す存在として、しっかりと自分で体験して、感じたことを伝えていきたい。

子どもの側から、おとなの側から

 絵本には、子どもの側から発想されている絵本と、おとなの側から発想されている絵本とがあります。与えられる子どもの側の視点からえがかれているものと、与えるおとなの側の立場から語っているものとがあります。たとえばマリー・ホール・エッツの『もりのなか』『またもりへ』『わたしとあそんで』、ミナリックとセンダックの『こぐまのくまくん』や、中川李枝子と大村百合子の『ぐりとぐら』、加古里子の『だるまちゃんとてんぐちゃん』は、明らかに前者に属しています。 後者に属するものには、マンロー・リーフとロバート・ローソンの『はなのすきなうし』や瀬田貞二と寺島龍一の『あふりかのたいこ』、斎藤隆介と滝平二郎の『八郎』といったものがあげられます。

『絵本とは何か』 第2章 絵本の選択 p.102

初めて触れた考え方だが、なるほどなと思った分類。
引用した文章の後にも、前者に分類される、いくつかのタイトルがあげられていたが、どれも子どもの世界が見事に描き出されている作品ばかり。
子どもは、自分の世界と陸続きの世界だったかのように、すっと物語に入っていく。
大人の私が読むと、子どもの世界を見せてもらっているような気もちになる。
私は、このような絵本が好き。

例としてはあげられていなかったが、長男と最近読んだ絵本だと、『おふろだいすき』や『めっきらもっきら どおん どん』も前者に属するだろうか。
どちらも「きっと子どもはこのような空想の世界を楽しんでいるんだろうな。」と、子どもの世界を知ることができる作品でおすすめ。

『最近は、後者の絵本が多くなりました。』とも、書かれている。
(引用した文章の中で紹介されていた三冊は、子どもに喜ばれる成功した例としてあげられている。)
後者の絵本が多くなったということは、後者の絵本を購入する大人が増えたとも言えるだろうか。
後者の絵本を批判するわけではないが、子どもたちが後者の絵本ばかり手渡されているのだとしたら、少し残念だと思う。

文学的な書き言葉

 幼児の言葉の体験には、いろいろの質の言葉があります。たとえば、日常生活の中で、親や先生、あるいは友だちとかわす会話の中での言葉があります。テレビなどが話しかける言葉があります。絵本や童話を読んでもらったり、昔話を聞くときの言葉があります。この最後の言葉は、前の二つとは違う書き言葉で、多くは文学的な質の言葉です。このどれもが大切なのですが、三番目の文学的な書き言葉の体験をもっともっと大切にする必要があると思います。とりわけこの中でも詩による言葉の体験を豊かにしたいものです。

『絵本とは何か』 第2章 絵本の選択 p.99

意識して生活を過ごしていないと、文学的な書き言葉に触れる機会は少ない。
絵本や童話、昔話を子どもと読み合い、子どもが文学的な書き言葉に触れる機会をつくっていきたい。

本書の中で、詩の絵本として、紹介されている『かばくん』

朝になってもなかなか起きないかばくん。
かばの親子のもとへ、かめを連れた男の子がやってくる。
かばの親子とかめは、一緒に泳いだり、見物客を見に行ったり。
もらったキャベツは、かばくんの大きな口で一口。
お腹いっぱいになったかばの親子とかめはお昼寝。
かめと別れを告げて、夜にはまた眠りにつく。

かばの親子とかめ、男の子とのゆったりとしたやり取りにユーモアが感じられ、穏やかな気もちになる一冊。
精選された言葉とリズム感のある詩の文章は、他の絵本とは一味違う。
キャンバスを生かした絵からは、かばたちキャラクターの温かみが伝わってくるし、動物園へ来てスケッチしたかのような印象も受ける。

詩の絵本と聞いて、思い浮かんだのは『ことばあそびうた』

日本語の面白さを感じられる詩集。
リズムの良いものが多く、音読すると気もちがいい。
ついつい口ずさんでしまう、気がつくと覚えてしまっている。
赤・黄・緑と黒の線で描かれた版画を彷彿とさせる絵も、それぞれの詩の楽しさを際立たせている。
長男(5歳)も大好き。

まとめ

  • 絵本について学びたければ、自分で手に取ってみることが大切。

  • 子どもの側から発想された絵本と、おとなの側から発想された絵本がある。

  • 幼児が、文学的な書き言葉(絵本、童話、昔話、詩など)に触れる体験を大切にする必要がある。

他者の借り物の言葉ではなく、実際に絵本を手に取り、自分自身が感じたことを自分の言葉で伝えていく。
子どもの側から発想された絵本は、子どもたちを自然と惹きつける力があるので、是非手に取ってみてほしい。
関わる人に適書を手渡すことができるよう、これからも絵本を見る目を磨いていく。

第3章へ続く。

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