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魔女から見たミッドサマー感想

神話宗教の歴史大好き。悪魔学研究家、魔女見習い、そんな私から観たミッドサマーの感想です。


ミッドサマーはインスタ映えするサバト

ミッドサマー...昨年から気になってたのですが、日本で公開された途端
Twitterで「山田と上田のいないトリック」だとか「酔ったまま迷い込んだヒエロニムス・ボスの絵画の中」だとか、
めちゃくちゃ気になるキーワードが出てきていたので勇気を出してみてきました。
ホラー苦手なのに。

結論から言うと 「全然怖くなかった」
そしてとても見たことある展開だった...これは...完全に、
インスタ映えするサバト!!

*以下ネタバレ含みます。

ミッドサマーを見てて思い出したのが、数年前に見た映画『ウィッチ』でした。
赤ちゃんが行方不明になったのをきっかけに少女が家族に魔女なのではないかと疑われ、一家が狂気にのまれていく物語。
最後は少女が悪魔と契約し、魔女になって終わるのですが、少女にとっては開放の物語になっているんですよね。ミッドサマーと同じメリバ展開です。

薄暗く、ザ・ホラーな色合いの映画でミッドサマーみたいにインスタ映えはしてないんですが...この酷似する内容でミッドサマーはあの彩度の高いキラキラ画面...
本当にすごい。あんなインスタ映えする恐怖映画がつくれるなんて...。

そもそもサバトとは?〜悪魔の集会について〜

以前、こちらの記事にも書きましたが「サバト」とは

魔女が行う「悪魔崇拝の集会」のこと。

悪魔と契約してまじないを行う魔女は月に一回、または年に1~2回、自身の体に軟膏を塗り付け、ほうきで空を飛び、
悪魔バフォメットの主催する集会に集まります。

(バフォメット...ヤギ頭のあの、悪魔界隈では有名な絵です。)
そこで何が行われたかは色々な説がありますが、主に一般的イメージ、そしてホラー映画で使われる要素は以下のような点。

・鍋で煮詰めた軟膏(ドラッグ)を体に塗り、魔女たちは裸で踊る。
・バフォメットやサタンといった悪魔と性交する。
・乳幼児を生贄に捧げる。生贄の儀式がある。

儀式の前にハーブ(薬草)を調合して飲むドラッグ。
裸の女性たちの前で儀式的に行われる性行為。
捧げられる生贄...。

ホルガ村の祝祭...果てしなくサバトじゃないですか??

特に「最高に気持ちの悪いセックスシーン」と言われた、あのホルガ村の女性たちに囲まれて行われる儀式的な性交。
処女を捧げる女の子の下に敷き詰められた花。

あれ、魔法陣だったらサバトだったよね?
クリスチャンが熊じゃなくてヤギでも被って(バフォメットを模して)あの儀式に挑んでたらもう完全にサバトでしたよね??

お花満載、インスタ映えするカラーリング、みんな大好き北欧モチーフ
それなのに...こんなに悪魔の匂いがするのなんなんだよ...。

疑問に思いつつ、この記事を書くにあたり他の方の考察記事も読んだんですが。ハッとする情報がありまして…

上記考察記事で気になった部分はこちら

こちらの記事で詳しく記述しているが、この伝承は、踊れ踊れおばさん(?)の言った話と完全一致している。
メイポールの側に輪となって踊るという夏至祭の伝統に、現実のホルガの民間説話を混ぜた。それから、ホルガローテンの記事のバフォメット(=黒き者)がヴァイオリンを持っているように...

『ミッドサマー/ミッドソマー』考察、解説ᛞᚱ

(考察記事中の「こちらの記事」↑以下は抜粋です。)

フィドルを持った怪しい男が暗闇から現れた。その男は大きな黒い帽子をかぶり、目には燃え盛る炎をまとっていた。
男はフィドルを構えると、今まで誰も聴いたことがないような妖しげな旋律を奏で始めた。若者たちはすぐにメロディを気に入りダンスを再開したが、踊りだした後で、皆ある異変に気が付き始めた。踊り始めたのはいいものの、止めようと思ってもダンスを止められないのだ。>
<たった一人の女の子は、怪しげなフィドル奏者の正体にいち早く気が付いていた。よく見ると男の足はヤギのヒヅメになっており、それはヤギの体をもった(キリスト教における)悪魔のバフォメットだったのだ。

ホルガローテン Hårgalåten

バフォメットじゃんかお前...!!!!

女王を決めるダンス悪魔界のパーリーピーポーバフォメットのDJダンシングじゃないですかこれ!

サバトだ!!これ!北欧の皮を被ったサバト!!!!

逆にお花敷き詰めることでここまで悪魔の気配を消せるのに感動したよ!!
みんな、騙されないで!これ、北欧の伝統的な祭りじゃないから!

どっちかというと悪魔信仰に近いから!!!
「酔ったまま迷い込んだヒエロニムス・ボスの絵画の中」と言う意味がよくわかったわ!!
*ヒエロニムス・ボスは悪魔画家として有名。悪魔の絵をたくさん描いてブレイクした。赤黒い地獄カラーのほか、ミッドサマー的な配色もうまい。


悪魔を北欧に置き換えるのは実は魔女がやってきたこと

ミッドサマーの評価する点はこの「使い古された悪魔崇拝や邪教ホラー」を、今人気のインスタ映えする北欧モチーフに置き換えたことだと思います。

確かに...私も眼から鱗だったんですが...両者は相性がいいのです。
悪魔崇拝も北欧神話も魔女には身近なキーワードだからです。

そもそも、近年に伝わる魔女のイメージとは...
罪なき陰キャ女性に、魔女狩りを執行するため、汚名を着せようと妄想された風評被害の塊。

例えば災害や疫病が起こったとき、原因不明の大惨事に人々の恐怖が高まり、その不安を払拭するために、ある人を魔女だと言うことにして、災害や疫病を起こしてる犯人に仕立て上げ、火炙りにすることで街の人たちは安心感を得ると言うことが起こるのですが。

その時にできあがったデマがサバトの集会であります。

そんな魔女の風評被害を払拭しようと、魔術(占いやスピリチュアル系のセラピーなど)に携わる近年の女性たちは、メディアやイメージ戦略を活用し、

・魔女は悪魔と契約しているのではなく、古くから土着にあった神々(北欧や古代ギリシャの神)を信仰しているだけである。
・悪魔信仰ではなく自然崇拝だ。
・キリスト教によって古き神々は悪魔とされてしまったがそうではない、あと、むやみやたらなセックスも生贄の儀式もしていない!
(牛や豚は供えることがあるが特に人間は供えてない!!いや、大体は蜂蜜とかお酒だから!お供え!)

といったように、風評被害を取り払うようここ100年邁進し、
人気の北欧デザインにあやかって北欧式魔術も取り入れ(ルーン文字を使うやつですね)
今ではインスタやSNSを活用しキラキラ魔術を前面に押し出してイメージの向上を頑張ってきたのですが...。

ここにきてミッドサマーである

悪魔崇拝をインスタキラキラ北欧ライフスタイルにする...今まで世間の印象をよくするように魔女がかけてきた 100年がかりの最大の魔法。
これを悪魔的ホラーに使われるとこれまでの魔女界のイメージチェンジの努力が全て水の泡に...む..むごすぎる、これが魔女にとって、1番のホラー。

魔女を日本人も笑ってはいられない

「ははは、魔女は大変だなぁ」と思ったそこのあなた、
我々日本人も笑っている場合ではないかもしれません。
とおーくひろーい意味では、日本もうっすら風評被害に遭っている(かもしれない)のです。

サバトがもたらす風評被害は魔女だけにはとどまりません。
悪魔の集会のサバトは(キリスト教から見た)異教徒の祭りの凝縮でもあるからです。
"唯一の神"以外を信仰する他の民族の畏怖がたっぷり込められてるのがサバト!
そんなサバト(異教の祭)ベースの北欧風祝祭のせいか、ホルガ村の祭には日本人としては「あーわかるわー」というポイントが何点かあります。

・ホルガの祝祭では各儀式において、重要な役割を担う人物が何かをするとみんなそれを真似する。
*ペレがクリスチャンに「いつ座っていいの?」と聞かれ、ペレは「座る時だよ」というが、日本人としてはすごくわかる。
・アッテストゥパンは姥捨山と共通項のある出来事で、ショッキングなシーンなのですが見たことある感がすごい。
*アリ・アスター監督も、「今村昌平の『楢山節考』に影響を受けた」といっていたようで、日本の映画にも影響を受けているのがわかる。

・マークが御神木に立ちションをしてそれがきっかけで殺されるが、御神木を粗末にしたら無事でいられないのはすごい納得してしまう。
・ジョシュが聖典を撮影禁止なのに夜中に写真を撮りに行ってしまい、それがきっかけで殺されるが、御神体を写真撮影したら無事でいられないのもすごく納得してしまう。

以上、行き過ぎな表現ではあるんですが、日本人としてはホルガ村寄りの気持ちになってしまうと言うか...アメリカ人の主人公たちにはタブーの稜線がわからなく、さぞ気持ち悪い出来事なんだろうな、日本人的にピンとこないけど...と言う感じがします。

他には...

・アッテストゥパンで命を落とした二人が火葬されるが、火葬はキリスト教圏では忌み嫌われる埋葬方法である。
キリスト教の思想としては最後の審判で肉体が復活し、神の国に行けることになるので遺体は損傷を少なく土葬で埋葬しないといけない。
魔女が火炙りにされるのは遺体を残さないことで永久にこの世から消し去るためである。
ちなみに、あんまり敬虔なクリスチャンではないベルギー人の友人も「火葬されるのは嫌...」といっていたので、多分生理的に嫌なんだと思う。

*ホルガ村は輪廻転生の思想があり、ヒンドゥー教や仏教のように火葬がベーシックなんだと思われる。

・女王になったダニーがニシンをまるごと食べさせられそうになり嫌がる。
SUSHIが浸透してきたとはいえ、生の魚を食べるのは生理的に無理感があるのだと思う。
日本人的には魚の踊り食いなども日常的に見ているのであんまり気持ち悪さが伝わらない。
(あのニシンは流石にでかいと思うが...せめて酢でシメてあって欲しい。もしくは塩漬け。)

など、なんだか日本人には恐怖として伝わりにくいところが多い
このあたり、逆にアメリカ人には気持ち悪いと思われてんのかな
となんともいえない思いを抱きました。

そしてこれらの表現のせいで、
外国のホルガ村だけど日本の田舎の奇祭を思い浮かべてしまう。

=山田と上田のいないトリック

と言う意味がよくわかった...。

トリック...簡単に説明すると超常現象否定派の学者とマジシャンが山奥の奇祭(どちらかと言うとカルト集団)の心霊現象&超常現象を暴いていくコメディドラマ(?)です。(人は死にまくる。)

がんばれ北欧神話勢

魔女と極東日本の風評被害について語ってきましたが、
似たような事象はいろんな世界で起こっており、歴史にも残っています。

たとえばケルト、ケルトは古代から風評被害に晒されてきました。
古代ギリシャがケルトについて人身供養にまつわる記録を残してており、
「ケルトの奴らマジ野蛮でやべぇ」と行った感じの話があると古代ギリシャ研究家シシンさんに聞きました。

ケルト人社会の祭司であるのドルイドは今も古代ギリシャなどが伝える人身供養のイメージに悩んでいると言う話も小耳に挟んでいます。
(もう何千年も経っているのに!)

内部資料が残っておらず、外部からの記録のみだと偏見を基にした、奇妙な文化(もしかしたら話が盛られているかも)の記録しか残されないと言うことは大いに起こり得ます。

ケルト神話は古来の文章資料が少ないためこのようなことが起こっているのですが、それは北欧神話も似たような状況かと思います。

そんな中のミッドサマー...なんというか、
北欧神話勢は強く生きてほしい!!

あと悪魔が迷惑かけてごめんね...。
みんな悪魔のせいにして悪いイメージを一蹴してほしい、悪魔はそのためにいるのだから...。

と...様々な方面に波紋を呼びそうなミッドサマーでしたが、

悪魔もインスタ映えする可能性がある

と言う気づきを与えてくれたのが私には何よりの衝撃でした。
そしてオカルトホラーとしては流行を抑えている!!
悪魔学研究家としては見逃せない作品でした。

<参考文献>


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