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勝負に”絶対”はないのだから 第5節マンチェスターユナイテッド戦

1.試合結果


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スタッツを見て分かる通りほぼ試合内容はほぼ互角。この試合でMVPに選ばれたのはベンラーマ。攻撃面ではウェストハムに足りないバイタルでの積極的なプレーでゴールを取り、守備でも自分の仕事をきっちり遂行したベンラーマ。この試合で彼がスターであることは証明したのではないでしょうか。

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ゴール期待値ではかなり上回られたものの、流れの中で決められたゴールはなく、自慢のブロックでほとんど攻撃をシャットアウト出来ていました。

2.前半

・モイーズが徹底させたマグワイアへのプレッシング

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今宵のウェストハムは4‐4‐2の陣形。ヴァランがボールを持つとウェストハム2トップはボランチへのパスコースを切る事優先であまり出て行くことはなく、ワンビサカにボールが入れば毎度の如くサイドハーフが牽制。中央を封じ、サイドに誘導する。行き詰った所を狙う。

ですがこの試合のマグワイアに対するプレッシングは少し工夫したウェストハム。ヴァランが持つ時とは違い、マグワイアへボールが渡ると、2トップは縦関係になり、ボーウェンはマグワイアの横からプレッシングをかけ、ヴァランへのパスコースを切る。ベンラーマはフレッジを抑えにいくディフェンス。片方のマクトミネイに対してもヴラシッチが絞って見ることでマグワイアに対する選択肢を絞りミスを誘います。前半16分には功を奏しマグワイアからボールを奪いチャンスを迎えるもゴールならず。

・ウェストハムのビルドアップの精度向上。

サウサンプトン戦に引き続き、今回はアントニオ不在もありショートパス主体のビルドアップを基本としたウェストハム。ユナイテッドは前線のロナウドがほぼ守備参加しないのでウェストハムもそれなりに時間とスペースに余裕を持つ事ができた。

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ショートパス主体のビルドアップの決まりごとはこんな所でしょうか。ライスがDFラインに落ちてソウチェクの横に必ず2列目の選手が入り、サイドの選手が中に陣取り、パスの出し手と受け手の枚数を増やし、距離間を狭め、ボールの循環がしやすくなります。そして右サイドではフォルナルスが中に入ることで大外のツォウファルが空き、このツォウファルを起点とした攻撃が多かった。

・ウェストハム先制のシーン

ビルドアップの場面でも記載した通り、この試合ではツォウファルを起点とした攻撃。ビルドアップの際に2列目の選手が降りて来る約束事でベンラーマが3列目に移動。ブルーノに対して2v1を作ります。この時ソウチェクはライスがドリブルで持ち運んだことで2列目へと移動。ライスはベンラーマを使わずにそのまま空いている右サイドへ展開。

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ここからが得点のシーン。2列目の流動性から生まれた見事なゴールです。

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右サイドでツォウファルにボールが渡ると中に陣取っていたフォルナルスがマグワイアを引き付けるサイドへのランニング。一瞬空いたように見えたボーウェンへのパスコースですがツォウファルからはこのパスは出てこず。ですがこれで終わることなかれ

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ここからもう一度アクション。今度はサイドに流れて旋回したフォルナルスが出し手。ボーウェンがサイドに流れ、マグワイアを釣る。そして先ほど中に切り込んだツォウファルがこのボーウェンのランニングに合わせて入ってくる。今回のパスの出し手はフォルナルス。先ほどは出なかったパスですが、今度はボールが出てきます。それを見たボーウェンをサイドに流れたままだと思わせて急転回し、中にスプリント。ツォウファルもこれにヒールで合わせボーウェンがバイタルに侵入。お見事。

この流れを見て中にターゲットとしてPA内に入るソウチェクが裏に抜ける動き。DFラインは下がり、ボーウェンに対するカバーリングでマクトミネイが出てきた。そうなると空いてくるのはバイタルエリア。受け取るのはベンラーマ。右足を振りぬいたシュートはディフレクションでゴール左端へと流れ、これにデヘアは反応できずウェストハム先制。ツォウファルを起点にした狙っていた形。ディフレクションはあってもこのゴールは必然。

・ウェストハムのブロックvsユナイテッドのフィニッシュ

ユナイテッドは主にブルーノ、時には反対サイドのポグバも右サイドに移動し、ボール保持。右に人数をかけて左サイドの1対1を演出。アイソレーション要員はルークショーでした。ですがウェストハムも普段左サイドに置かれることの多い守備意識の高いフォルナルスを右に配置。ルークショーとの1v1で戦えるフォルナルスはショーにサイドチェンジでボールが渡ってもスピードアップさせず、素早く仕留められなければウェストハムのスライドは速いので、あっという間にブロック再形成。左でも停滞。ウェストハム陣地に押い込むも思い通りにいかないユナイテッド。

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それでも前線にはクリスティアーノ・ロナウド。押し込んだ形からアーリークロスをガンガン上げる。この試合でユナイテッドは33本のクロスを上げました。ですがここでウェストハムの2CB。ズマとオグボンナが際立ちました。視野内に入ってくる相手やボールに対しては余裕のクリアリング。さらに自陣ゴール方向に走りながらもルークショーやワンビサカ、ブルーノが上げて来るクロスボールに対する圧倒的な処理技術でこれらをシャットアウト。二人のクリア数はオグボンナは7回、ズマは12回。特にズマは高さ勝負ではロナウドに完勝。彼が入っただけで相当信頼できるDFラインになりました。1回だけマクトミネイに一瞬隙を突かれ、ロナウドにボールが渡った時に少し小走りになっていましたが、ツォウファルの頑張りでロナウドのボールタッチがずれたおかげでズマがギリギリ間に合いクリア。諦めがちな部分はありますが、ツォウファルのこのプレーを見て何か思うところがあれば尚良い。

ですが勝負は一瞬。

完璧なオフザボールに完璧なパス。化け物2人でゴールを取られ同点。

前半は1-1。互角の内容で終えます。

3.後半

・試合終盤に待っていたドラマ。両監督の交代策が光る。

前半で書きすぎたので後半は要点のみ

後半になり少し前からのプレッシングが弱まったユナイテッド。そうなるとズマが自陣から持ち運んで縦パスを入れたり、さらにシンプルな形でクレスウェルからのロングボールでヴラシッチが裏に走ったり、ヤルモレンコを投入して0トップ気味に使ったりとやり方を少しずつ変えて工夫しているウェストハム。一方ユナイテッドはロナウドへのベクトルが強めの攻撃の展開が続き、ウェストハムからしたら展開が読みやすく、守りやすくなっていた後半。ライン間にボールが入っても慌てず陣形をコンパクトに維持することで大崩れはしませんでした。

そしてスールシャールはここでサンチョ、さらにリンガードを投入。ウェストハムサポーターは拍手でこれを迎えます。

そして15分後の88分にフレッジに代えてマティッチ投入。この交代策が功を奏した。89分にマティッチがウェストハムのブロック外でボールを持つと、ほんの一瞬サイドに気を取られたソウチェクの横を刺す縦パス。PA内で受けたのはリンガード…

ズマが対峙するも、パーフェクトな仕掛けからパーフェクトな右足でのフィニッシュ。ユナイテッドに逆転弾をもたらす。

僕含め、ウェストハムサポーターは静まり返りました。最愛のスター選手に試合を決める完璧なゴールを叩きつけられたのだから。

ですがウェストハムの選手たちは全く諦めていません。そしてこちらも交代で入ったヤルモレンコがPA内右サイド深くでボールをキープすると、ショーのハンドを誘うクロス。試合終了直前、主審はPKを指差しました。

この場面、残り交代カード1枚でモイーズが切った最後の1人はミスターウェストハム。クラブの象徴であり、公式戦PK本数42回中38回成功のPK職人のマーク・ノーブル。相手は5年ほどPKを止めれていないPKが苦手なデヘア。

まさにドラマチック。非常に見応えある90分。

今季のプレミアリーグベストゲーム筆頭。

ウェストハム、沈黙の日曜日。

全てを出し尽くしたウェストハム。試合内容は満点でした。モイーズがノーブルにPKを蹴らせたのもデータを見れば100点満点な決断なのは明らか。それでも負けてしまった。選手たちは懸命に走りました。ですが勝ち点は1も手に入りませんでした。でもそれがリアルでしょう。選手たちが挑戦しているのはそういう場所。そしてそれは選手たちが一番わかっているはずです。僕たちに夢を見せてくれる彼らは本当のプロフェッショナル。まだたった一回負けただけ。この試合は無駄にならない。まだプレミアリーグは始まったばかり。

あとがき

・ソウチェクの攻撃参加の頻度低下について

昨季の攻撃参加の頻度が減り、今季はより本来の3列目でプレーしているソウチェク。ここ最近はショートパスで組み立てる場面が増えてきたため、ライスがDFライン位落ちるプレーが多発。よって中盤の舵取り役、ネガトラ時のカウンターケア、ビルドアップの降りて来る2列目のケアテイカーとしてプレー。リンガードの後釜としてヴラシッチが入り、ベンラーマが覚醒しそうな今年。2列目の流動性に可能性を見いだせそうなウェストハム。ソウチェクが上がるとどうしてもカウンターを食らう場面でピンチを招きやすいですから、彼が高い位置まで顔を出す頻度は減りそうです。今季は3列目の位置でビルドアップ+カウンターケアでの役割が任されそう。それでもある程度相手を押し込んだ状態になれば昨季のようにクロスに合わせるターゲットとしてPA内に侵入する場面も。彼の高さが必要な局面に当たれば昨季のような攻撃参加も見られるでしょう。

・ファビアンスキ復活か

ここ最近年齢による衰えが若干見え始めていたファビアンスキですが、それを払拭するパフォーマンスでした。彼のビッグセーブがなければ試合は壊れていたかもしれません。アレオラとの世代交代の時期がますます難しくなりました…

・ヤルモレンコの意外な役回り

ユナイテッド戦とカラバオのヤルモレンコをチラッと見た印象は、本来のウインガーの役ではなく、どちらかというと0トップ的な?役回りをしていたように見えました。周りを活かしつつ2列目でのリンクマンとして彼はかなり高い水準でやれていたように見えます。モイーズの新たなオプションに入ったのでは?ですが彼は守備のやり方が少しチームとずれている印象。この試合ではモイーズが常々ヤルモレンコが守備時に相手がサイドにボールを持った時に、中盤へのパスコースよりもDFラインへのパスコースを切るのを優先するのに少し憤りを感じている様子を見せました。なので彼がモイーズが描く守備組織を理解できるまでは信頼を勝ち取る事は出来ないのかなと思います。

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