ショートショート「"当たり"の花びら」


 この学校の桜には、"当たり"がある。

 それは、この小学校の生徒なら誰でも知っている噂だった。


 校庭にある一本の桜の木。その桜の木は毎年春になると鮮やかな桜色に染まるが、その花びらの中に一つ、金色に輝く花びらがあるらしい。

 それが"当たり"の花びらだ。毎年、桜が咲き、やがて散る季節になると、桜の木の下にたくさんの生徒が集まる。皆、今年こそは金色の花びらを見つけようと必死に花びらを集めて歩く。

 一年生の時に先生から噂を聞いて、クラスのみんなで一緒に当たりの花びらを探した。しかし、当たりの花びらは見つからなかった。

 それから毎年、私は当たりの花びらを探し続けた。学年が上がるにつれ、噂は噂に過ぎないと理解する生徒が増え、一緒に探す友達は減っていった。しかし私は下級生に混じりながら必死に探し続けた。

 そして、六年生、卒業の年。桜が散り、小さな下級生たちさえも探すのを諦めてからも、私は当たりの花びらを探し続けた。今年が最後のチャンスなのだと思って、必死に。日が暮れ、先生に校庭から追い出されるまで探し続けたのだった。


 しかし、当たりの花びらは見つからなかった。


 小さい子と一緒になって探すのが恥ずかしくたって、それを友達からバカにされたからって、私は当たりの花びらの存在を疑わなかった。しかし、見つからなかった。

 私はあれほど好きだった桜の木をうらめしく思い、泣きながら家に帰った。


 涙を流し、目を腫らして帰宅した私を見て、母は驚いた。そして、遅く帰った我が子を咎めるより先に、「お風呂に入りなさい」と言ってくれた。泣くと体も心も寒くなるから。それが母の口癖だった。

 花びらを探したせいで汚れた服を脱いで、私は湯船に体を沈めた。温かさにほっとして、でも、当たりの花びらを見つけられなかったことが悲しくて、また少し、涙が出た。


 その時だ。


 透明な湯船のお湯の中で、なにかが瞬いた。そしてそれは、ゆらゆらと揺れて、やがて湯面に姿を現した。それは、金色の花びらだった。当たりの花びら。いつの間にか体にくっついていたらしい。

「あった! あった!」そう叫びながら裸でお風呂を飛び出した私を、母は笑いながらバスタオルで包んでくれた。



***



「みんな、がっかりするでしょうね」

職員室の窓を開け、校庭を眺めていた同僚が声をかけてくる。

 教師として戻って来たこの学校の校庭には、昔と同じように桜の木があった。しかし、今年は異常気象の年であり、早咲きの桜はすでにその花を散らしていた。

 いつも満開の花びらで新入生を迎えて来た桜の木。明日の入学式でもその姿で生徒と親たちを喜ばせるはずだった。

 同僚がため息をつき、窓を閉めた。



 入学式当日。職員室の窓から、同僚の教師たちが口をポカンと開けて校庭を見つめていた。

 校庭にある桜の木。今年はすでに仕事を終えたはずの木が、満開の桜を咲かせている。


「当たりの花びら」には秘密があった。よく、駄菓子などで「当たりが出たらもう一つ!」というものがあるが、あれと同じ。

 当たりの花びらを押し花にしてずっと持っていた私は、昨日のうちに桜の木の根元に当たりの花びらを埋めておいた。そして、当たりの花びらは、もう一度桜の木を桜色に染めたのだった。


 校門を通って子供たちがやってくる。思い思いの色をまとった、個性の塊。跳ねるようにして歩く子供、縮こまって歩く子供。そのどんな子にも、鮮やかな桜色が映えている。


 この場所であの子たちと共に過ごす時間を思うと、胸が踊った。

 これからあの子たちになにを教えよう。

 最初にする話は、もう決めていた。

 

「この学校の桜には、当たりがあるの」
 



(終わり)
 


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コメント2件

当たりの花びら!素敵です!
石王さん、ありがとうございます! 素敵なキーワードをいただきまして、ありがとうございました!
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