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遺品整理の仕事【8回目】

2022年6月9日(木)


8時半出勤。
グループLINEで今朝の体温を報告する。

この日は覚悟しておいた方がいいと聞いていた。

荷物量が20トンある一軒家の施行だった。

わたしが施行しに行った中では、荷物が少なめの一軒家で5トンくらい。通常の一軒家で7~8トンくらいだった。

それが20トンの量なので半端ではない。

作業員の目安は通常1トンにつき1人。
今回は社員2人、バイト3人、派遣11人のメンバーで挑む。

100kmの道のりを、1.5トントラックにバイト2人を乗せて運転する。

バイトの1人は初対面だったが、ちゃらいパーマ男だった。

パーマ男は「クラブよく行くー!ナンパもめっちゃするよ~」とナンパ成功体験を語りながら、EDMをかけ始めた。
この職場はEDM好きが多い。

到着するとズラっと11人の派遣の人が並んでいて圧倒された。
元々はさらに2~3人は来る予定だったらしい。

親族の方にあいさつをする。通帳など必要そうなもの以外はすべて処分してくださいとのことだった。

親族の方は家の中で作業が終わるのを待つそうなので、まだ作業の手をつけない2階で待機してもらうことになった。

家の中を一通り見渡したが、さすがの物量だった。
棚の上や、地面、ベッドの上、最低限の生活動線を残して積めるところには隈なく荷物を積み重ね、数多くあるタンスにはパンッパンに物を詰め込んでいた。

おまけに外にはえぐい物流の倉庫がある。
スペースとしては全体で10帖ほどで、全壁面に天井までの棚を作り、もちろんそれらは物で全て埋まっている。溢れた物が地面や屋根の上にまで積まれていた。

おおかたはカー用品で、あとは剪定道具やら清掃道具やら釣り道具やら、ホームセンター並に凝った品揃えだが、そのほとんどはホコリを被っていた。


作業に取り掛かる。

少し膝を曲げれば大人も余裕で入れるサイズの青い容器に、立花さんを筆頭にバカスカ荷物を放り込む。

小物入れなどの箱は、なぜかすべて近くの棚やベッドに括り付けられていて、それを外すのがめんどうだった。

今回もパッカー車(ゴミ収集車)業者が来ていた。

外に荷物を運び出し、パッカー車に遺品を入れ込む。

作業をしていて違和感だったのは、いつも優しい社員の藤田さんやバイトの人が、派遣の人に対して当たりがきついことだった。

「そこちゃうねん!」「これやっといて」「あいつ派遣のくせになんか仕切りだしたで、なんも分からんくせにきもいな」「そんなん派遣にやらせたらええねん」

違和感はあったが忙しさで深く考えられず、いつも優しいのに、そんな身内意識が強い人たちだったのかと思った。

和室やリビング、キッチンのものが少し減ってきたころ、倉庫での作業に狩り出された。

高く積まれた荷物を、わたしがハシゴに登って下ろして行く。

上に積まれた荷物はまたヒモのようなもので括りつけられていて、それを外すのがめんどうなのに加え、気づかなかったヒモに引っ張られハシゴから何度か落ちそうになった。

さらにホコリやチリやカスの粉が物を動かす度に降ってくる。

辟易しながらも必死に荷物を下ろす。

13時前、パッカー車(ゴミ収集車)は2台がパンパンになった。

もう1台お願いしているパッカー車(ゴミ収集車)が来るのは14時ごろとのことで、その間にお昼休憩となった。

社員の藤田さんがコンビニでアイスを買ってくれた。

アイスを食べながら社員とバイトで弁当屋に向かった。

弁当は、遺品整理を行っている家の近くの用水路で食べることになった。

唐揚げ弁当にするか、豚キムチ弁当にするか迷って豚キムチ弁当にしたが、豚キムチ弁当に唐揚げが入っていてテンションが上がった。

社員の藤田さんと立花さんは親子丼とクリームコロッケ弁当を頼んでいたが、意気揚々と食べ進めた割に量が多かったようで残りをもらった。

社員の藤田さんと立花さんは満腹で口に運ぶペースが遅く、伝えていた集合時間を過ぎていた。残りをもらったわたしも時間を過ぎた。

すると派遣の人が用水路まで来て「クーラーボックスにある飲み物は飲んでもいいですか?」と聞きに来た。
社員の藤田さんは「いやうちで持ってきたやつやから。あかんよ」と言ったあと、陰で「なんやねん自分で飲み物買えや。今回は交通費出したってんねんから」とキレていた。

いつも交通費出てないんかいという待遇も含めこわっと思ったが、ほかの派遣の人を見ると、必死に小さい手鏡で髪を整えていてちょっと面白かった。


午後からの作業再開。

持ってきたトラックがパンパンになったので、一便が100kmの道のりを走って遺品を捨てに行く。その後またここに戻ってくる。

遺品を捨てに行っている間、残った人間で荷物を家の外に出す。

ちなみにこの写真の真ん中にいるのがパーマ男。
暑いからと、やたらと腹を出してくる。
普段はシャツも捲って腹を出す。

その後も積まれた荷物をまとめて外に出し、タンスなどは立花さんが力技でバキバキに折り、ホコリやカスが舞う中作業を進める。

2階に上がると親族の方がイスに腰掛けていた。

タンスの中にはたくさんの着物やその他の衣類、押し入れには布団が10組以上、あとはアルバムが大量にあった。

置いている服やアルバムについて少し親族の方と話をした。

ベランダを見ると、プレハブの物置がある。

中にはキャンプ用品が入っていて、入り切らなかった薪や木炭がベランダ一面に積まれていた。

これにもまた辟易しながら荷物をまとめると、派遣の人がそれを外に運んでくれた。

すべての荷物を運び込み、掃除機、掃き掃除、拭き掃除などの清掃を行い、作業が終了した。

2階のベランダの物量は想定外だったようで、20トンだった見積もりに3トンが追加され、23トンの施行となった。

17人で施行を行い、作業時間は10時〜19時だった。

請求金額は180万円を超えた。

行きしなとは比べものにならないくらい重くなったトラックで、100kmの道のりを運転する。

事務所に戻る前にトラックに積んだ遺品を倉庫に捨てに行った。

バイトの2人は思い切り倉庫に遺品を投げ入れるのが楽しいようだった。

わたしは遺品を投げるということはしたくない。
だが、狭い倉庫でバイト2人がバコバコ遺品を投げ込む中、わたしだけ遺品を置くことはできない。そもそも倉庫は入口まで遺品で埋め尽くされていて、置くとしても遺品を踏み分けて奥まで行かなければならない。

なのでわたしは恐る恐る遺品を投げていたのだが、パーマ男に「いまの思い切り投げたらもっといい音なったのに~!もったいない!」と言われてムカついた。ちゃんと遺品だったのに。

事務所に戻りお風呂に入って、事務所を10時前に出た。

そこからなぜか立花さんと飲みに行くことになった。

そこで「仕事は続けられそうか」という話をされた。

みんな優しくしてくれるし、荷物をまとめたあと重いものは運んでもらえることが多いし、時間は聞いていたよりかなり長いが、まだ辞めようという気はなかったので「はい続けられそうです」と言った。

立花さんは相槌を打ったあと、こんな話をしてくれた。

「俺、ここに入って9ヶ月になるけど、社員は6人変わってるで。みんな1ヶ月持ってない」


衝撃だった。

「前の社員にも女の子いてさ、頑張ってたけどやっぱり、辞めたい辞めたい言うてたわ。」

「その子関東から来た子で、研修期間は事務所近くでホテル暮らししてたんよ。でもある日出勤せんくて。社員の藤田さんとホテル行ったら、机の上に制服と『辞めさせてください』って書いた置き手紙があったわ」

「やっぱきつかったんやろな。それ見て泣きそうになったわ」

「でも男の方がすぐ辞めるで。たぶん男に対しての方がみんな当たりきついんやろな」

「前の子は元気なかったけど、やましーは元気そうでよかったわ。体育会系じゃない見た目やから、ほんまは持って3日やろってウワサしてたけど、みんな頑張ってほしいって言うてるよ」

具体的にどのエピソードがあって辞めることになったのかは分からないそうだが「全員1ヶ月持たない」とは相当のところだろう。

いまのところはそこまで悪いところは思い当たらない。

「なんかあったら聞くから言うて」と言ってもらった。

気にかけて話をしてもらえてよかった。

目標は1年。せめて1ヶ月はこの遺品整理の仕事を続けようと思った。

案外余裕だろうと思った。

サポートしてもらえたらうれしすぎてヒョーー!!ダンスダンス!!!🕺🕺🏻🕺🏼 そのあとはサポートしてもらった画面をスクショして何回もニヤニヤします。