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遺品整理の仕事【15日目】

2022年6月19日(日)

8時半出勤。

朝出勤すると、新しいバイトの人がいた。
腰くらいまで綺麗に髪の毛を伸ばした男の人で、それをマンバンにまとめていた。
丸メガネをかけていてなかなかに雰囲気があり、一目見た瞬間「この人は絶対に面白い」と思った。

作業着に着替えたあと、社員の藤田さんから「山下さんの名刺できたから」と名刺を渡してもらった。

準備をしてトラックに乗り込む。

わたしは今日新しくバイトに入った鷹野さんと、何度か一緒に入っているカー坊さんと一緒のトラックになった。

運転席に座りエンジンをかけようと、車のキーを回したのだがエンジンがかからない。

車のキーを抜き差ししてみたり、エンジンブレーキやレバーを触ってみたりして、なんとかエンジンがついたものの、10分ほど時間をロスしていた。

そして現場に7~8分遅れた。

社員の藤田さんや立花さんが、あからさまに白い目でこちらを見ていた。

「到着遅れるとかありえへんから。依頼時間に間に合わんとか、ないで」と言う社員の藤田さんの目が痛い。

謝罪をしたが、もちろんそれで収まるものではなかった。

施行が始まる。

エレベーターの昇降速度が遅く、あまりスムーズに作業が進まない。

タンスや家電製品を外に出していく。

今回は箱物が多かったので、荷物をまとめる作業が減ったことはありがたかった。

現場にはパッカー車(ゴミ収集車)も来ていたのだが、今日はいつもパッカー車に乗ってくる「ほっしゃん」とは違う作業員だった。

ほっしゃんは遺品の中身を確認せず、全てパッカー車に突っ込む。だが今回の人は中身をきちんと確認して、パッカー車で回収できない遺品をこちらに返却していた。

みんなが「パッカー車ほっしゃんがいいわ〜」と言っていたのはこういうことかと思った。その方がこちらの作業が格段にラクだし、あとこちらが持ち帰る遺品が減る。

今回の施行現場から出てきた着物の買取を買取業者にお願いして、作業は終わった。

遺品の量は5トンほどだった。

すぐさま次の現場に向かう。

<2件目>

2件目の現場は道の両脇から緑が生い茂る、山奥にある一軒家だった。

細い道を進んでいく。

今度はわたしの運転技術不足で現場に5分ほど遅れた。

社員の藤田さんと立花さんは白い目から呆れの表情になっていた。

なぜこう続いてしまうのだろう。

いつもは運転があまり上手くないため、余裕を持って出発するようにしていた。
今回はどちらの現場も時間が迫っていて、どちらにも間に合わなかった。

やはりわたしには向いていないだろう。もう知らん。トラックの運転慣れてないし、こんなにカツカツにスケジュール詰められてもそのスケジュール通りに動くとかわたしには無理やわ。

施行が始まる。

この一軒家には現在もご家族の方が暮らしているため、不要と選ばれた一部の遺品を引き取ることになっていた。

袋にまとめて持ち運びやすいようにしてくれていたのでありがたい。

デカいタンスと、土が入ったままの花壇が15~20と、本格的な園芸用品を持ち運ぶのが大変だった。

作業を進めるにあたり、社長がおこなった見積もりについて確認事項があり、それをバイトリーダーの人が確認してくれた。

すると以下のようなLINEが来た。

朝から指摘が続いていたため、ここで気力を失った。この時のわたしの顔は通常時と明らかに違ったらしい。
施行が終わりトラックに乗り込むと、鷹野さんから「さっき、サバンナに住むシマウマみたいな顔してましたよ」と独特な比喩表現をされた。

続けて鷹野さんは「北極に住みたがるライオンはいませんよ。他に山下さんが輝ける職場はありますよ」と独特な言葉がけをしてくれた。

17時を過ぎてコンビニに到着し、遅めのお昼休憩を取る。

鷹野さんはサンドイッチを小分けにして食べていた。

わたしはお昼を食べ終わったので、今日の遺品を倉庫に置きに行くためにトラックを走らせた。

倉庫に到着した時点で鷹野さんは小分けにしたサンドイッチを食べ終えておらず、一気に口の中に突っ込んでいた。

なぜかみんな倉庫に遺品を投げ込むのが好きで、例にもれず鷹野さんも楽しそうに投げ込んでいた。

倉庫からは亡くなった人の血液のにおいがした。

鷹野さんとひょんなことで話しが盛り上がり、仕事終わりに飲みに行くことになった。

事務所に戻り、事務処理をする部屋に入ると初代社長をしていた社長のお父さんがソファに座っていた。

事務処理の部屋には社長のお父さんとわたしの2人だけだった。

わたしがなにも話しをしなくても、社長のお父さんは次々に話しをしてくれた。

「この仕事は徐々に慣れて要領つかんだらいいんや。重いものは持たしたらいいしな。すぐ逃げ出したらあかんで。耐えて楽しさを見出すんや。だってこんなおもしろい仕事はないんやからな。人の家見れるって1番面白い仕事やろ。1回な、四畳半で10トンの荷物がある家があったわ。そんでドアと玄関の入口の間で男の人が亡くなってたんや。夏場ですごい臭いがしてな。まあ、あれもようよう慣れるわ。わしはな、21日から肝臓ガンで入院なんや。もう死んでも構わんねん。娯楽は近所のパチンコ屋に行くことだけや。まあなんかあったらわしに言いや」

ゆっくり立ち上がって社長のお父さんは帰って行った。
たしかにこの仕事は楽しい。でもここで仕事を続けるかに関しては、ほんの1週間ほど前に「1年続けよう」と思っていた熱量が急激に下がってしまっている。社長のお父さんはいい人そうだったので申し訳ないけど。

バイトの給料計算と経費計算を行う。

社員の藤田さんに事務処理や明日の施行について確認を取ることがいくつかあった。
だが、今日のことを引きずっているようで、ほとんど無視をされた。犯罪を犯した人に向けるような冷たさだった。こういう様子だから人が1ヶ月も続かないのだろう。

この場に社員の藤田さんしか確認を取れる人がいないので作業に苦労する。

わたしが事務処理をしている間、今日わたしと同じトラックに乗っていたカー坊さんが「モノボケで4人中2人笑うまで帰れんから〜」と社員の藤田さんや立花さんに絡まれており、カー坊さんが延々とモノボケをさせられていた。

そしてみんな全然笑わない。

カー坊さんが「じゃあお手本見せてくださいよ」と言うと、みんなキョドキョドしだし、結局なにもしなかったのでしょうもな、と思った。

事務処理が終わり、鷹野さんと飲みに行った。
今日初めて会ったときから絶対面白い人だと思っていたが、鷹野さんは想像以上に面白い人だった。ここに来てくれて良かったなと思った。

サポートしてもらえたらうれしすぎてヒョーー!!ダンスダンス!!!🕺🕺🏻🕺🏼 そのあとはサポートしてもらった画面をスクショして何回もニヤニヤします。