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「模型はかく語りき」

いまでこそ、スミ入れやドライブラシは当たり前のテクニックということになっていて、フィルタリングやら様々な汚し方が作られてきていて、模型の塗装方法は少しややこしくなった。ただ、「自分がなにをしたいのか」が明確になっていなければ延々と無駄な時間を費やすことになりかねない。表現上様々な名前をつけられているのではあるけれど、ようは「その本物が目の前にあったら今、どう見えてる?」が全ての考え方の基本といって間違いはない。
別にスミ入れしたくなければしないでいいし、ドライブラシをカーモデルでやっている人は僕くらいなきがする。
全ては、自由なのだ。もしかしたらもっと手っ取り早くて美しく仕上がる塗装方法が生まれるかもしれない。少なくとも趣味で作る分にはいろんな方法を試して新しい未来を創り上げて行った方が楽しめるのではないか。

今は多色成形(色プラ)に一枚のランナー上にクリアパーツまで混在させられる射出成形技術まで生まれた。そのうちパーツごとに塗装されたランナーが生まれたりしそうだ。
しかし考えてみると、これらの技術はプラモデルを作る上でかなりの敷居を下げて門戸を開いたものの、「ほぼ誰が組み立てても同じものが出来上がる」、いわば模型メーカーとしては多分理想のアウトプット状態を提供できるようになった反面、誰が作っても同じなら僕が敢えてやらなくてもいいのではないかというジレンマさえも生み出してしまった。作る価値観の問題である。

その塗装や仕上げを見たら「誰が作ったのか解る」くらいの技術を全員に会得して欲しいとは思わないけれど、開封して2時間で完成してしまったのでは少し、味気ない気はする(たまにはいいけれど)。

それを回避するためには「塗装」してしまうのが一番なのである。塗装ほど奥深いテクニックはない。塗料の選定から筆やエアブラシのチョイス。下地作りの基本テクニック抜きでは美しい塗装表面は得られないから、どちらかというと塗装は下地整形技術が成功の大半を秘めていると言ってもいい。下地整形となると繋ぎ目を消すための接着から磨きのテクニックまで範囲は及ぶため、接着剤の乾燥&硬化の理論を接着剤の種類ごとに理解しなければ永遠に繋ぎ目は消えることはないし、さらには表面処理に使うサフェーサーの種類や吹き方、削り落とし方にも基本テクニックがそれぞれ存在する。
誤解したくないのは、それは無数にあるテクニックは必要に応じてチョイスすればいいだけの話であって、別に「塗らなくても満足」というパターンもあるため一概には言えないし押し付けをするつもりも全くない。

ただ、「わぁ、こんな風に仕上げてみたいな」という気持ちは常に待ちたい。
中学生のころ、模型店「ニイタニ」に飾ってあった完成品に施された美しい塗装表現は、当時中学生だった僕には「どうやって塗ったらこうなるのか全く理解できない」し、そんな事が書いてある本や指南書なんて存在していなかったから知りようがなかったのである。

幸い、模型雑誌「ホビージャパン」が学校の図書室に毎号買ってあって、当時友達が一人もいなかっな僕は、中学3年間のお昼休みを図書室で過ごすことになり、必然的にそれらのテクニックは理論とともに実践を経て体にインプットされて行った。上級生からのイジメや無視も毎日のことだったからその頃はとてもしんどかったけど、親にも兄弟にも先生にも、一言も相談をせずに3年間を耐え抜けたので今になって思えばかなりの耐久力をその頃に備えたことになる。考えようによってはお得な結果だった。

少し話が逸れたが、そんなわけで僕の子供時代はホビージャパンで鍛えられて今に至る訳である。高校生になって大人になり、仕事をするようになって25年以上前からホビージャパンを買う事はなくなったけれど、今でも10年分くらいのホビージャパンはそのまま屋根裏倉庫に保管してある。懐かしい想い出。


現代は本よりもインターネット配信の動画が大人気だ。昨夜「プロフェッショナル 仕事の流儀」で、新しい仕事として「YouTuber」の「HIKAKIN」さんの活躍が特集放送された。圧倒的な存在感と個性、内容の面白さでHIKAKINさんは人気を誇っており、ファンを集めた握手会まで開かれているという。見れば、その辺にいくらでも居そうな「普通のお兄さん」なのである。「普通に居そうな普通のお兄さん」のイメージを大切にされているらしい。際立った内容、激しい表現や内容で視聴数を伸ばす方もおられるが、HIKAKINさんのそれは真逆のアプローチらしい。「普通に誰でもできそうだから親しみやすい」のが売りなのだと。

これは自分の模型にも当てはまることだと思った。「美術館に寄贈するような仕上がり」や、「雑誌ライターレベルの仕上がり」を、個人レベルで継続するのはあまり現実的ではない。そもそも、プラモデルは作る過程を楽しむものなのだと思っているから。結果的にいいものができることはウェルカムだけど、そのために寝る時間を削ったり、体調に不調をきたしてはなんのためにやっているのか、趣味としては崩壊してしまうだろう。
しかし、現在の模型雑誌はほぼ。そのような内容のものが多く少し残念だ。「これ、俺にもできるんじゃね?」という感覚。ちょっとキット買いに行こうかな?という気にさせてくれる感覚。もちろん多色整形で塗装いらず、短時間で完成できるスタンスは今の時代にマッチしているのかもしれない。だが、「その先に」あるものを是非、掴みに行ってもらいたい。みんながそうなってしまうと僕の仕事が無くなってしまうかもしれないけれど、それは物作りを趣味としてスタートし、仕事にしている自分にとっては本来の望ましい未来の形に近づいている気がして、清々しい満足感に包まれた光が見えるような気がするのだから。

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