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◯◯思考で急成長中のVRスタートアップ、VizorのCEOにVR市場で勝ち抜く術を聞いてきた

VRスタートアップが盛んな国として名前がよく挙がるフィンランド。
そんなフィンランドに去年の12月にMESONのメンバーで視察にいき、様々なAR/VRスタートアップのファウンダーにアポを取って気になることを聞いてきました!

何回かに分けて、訪問したスタートアップの紹介と、MTGの中で得られた学びについて書いているこのシリーズ。

今回は、VR空間の制作ツールとして急成長しているスタートアップ「Vizor」。

Facebook VR APIの最初のパートナー英国ナショナルギャラリーがクライアントとして導入しているなど、すでに大きな実績を上げ始めているVizorのCEOのKaarloに、どうやって未成熟なVR市場でも市場に受け入れられるサービスを見つけたのか、どうやって競合との優位性を構築しているのかなどを聞いてきました。

今回は、ユーザーに使われるサービスをどう作り上げていくかというテーマでもあるので、VRやARに興味がない方もぜひ読んでみて下さい。

第一回目の記事はこちら。
世界で最もハイエンドなVRヘッドセットを作る「Varjo」のCMOに技術や戦略を聞いてきた


360度画像を組み合わせて超簡単にVR空間を作成できるVizor

VizorはVR空間を誰でも簡単に作成してシェアすることができるサービスです。
360度画像をアップロードしていき、画像同士をリンクさせて視聴者がシーン間を動き回れるようにしたり、特定箇所に説明の画像とテキストを表示させることができます。

自分も試しにひとつ作ってみたので、イメージを掴むために見てみてください。
https://vizor.io/kajiken0630/venice_demo


徹底的な「実験思考」でプロダクトを研ぎ澄ませてきたVizor

VizorのCEOと話していて一番おもしろかったのは、どうやって今のVizorのサービスをやるに至ったのかのストーリー。
彼らはとてもスマートに、徹底的な実験思考でプロダクトの方向性や戦略を意思決定してきたようです。

写真の左から2番目が今回インタビューをしたVizor CEOのKaarlo


まず、彼らが最初にスタートしたのは Patches というサービス。
これは、WEB上でドラッグ&ドロップで3Dモデルを操作しながら3D空間を簡単に作成できるというサービス。

3~4年前にWeb VRが発表されたタイミングで実験的にリリースしてみたところ、想像以上の反響があり、1万人以上のユーザーが Patchesを使って空間を作成して公開してくれたそう。

その結果を見たVizorのチームは、VR空間を簡単に作成できるツールという領域は可能性があると確信。
ただ同時に彼らが思ったのは、モデルの配置などの操作をして3D空間を作成をするという行為はどんなに手軽にしても依然複雑で、スケールしないということでした。


そこで彼らが行った次の実験は、Patchesとは正反対にもっとも手軽にVR空間を作成できるサービス、すなわち360度画像をアップロードするだけのサービス ThreeSixty を作ることでした。

ThreeSixtyでユーザーができることは非常にシンプル。
360度画像をアップロードしてそれをVRで見たり、URLを友達にシェアすること。
それだけ。

ただ、その手軽さがユーザーには受け入れられました。
具体的な数字は教えてくれませんでしたが、Patchesのときよりも圧倒的に多くのユーザーが ThreeSixtyを使ってコンテンツを作成してくれたそうです。

この実験から彼らが学んだことは、VR空間を作る手段、フォーマットとして360度画像が非常に良いということ。
360度画像は複雑な操作が必要なくシンプルであるにも関わらず、体験は非常にリッチでパワフル、したがって多くの人に使ってもらえる、ということでした。

そうして、上記2つの実験から学んだことを活かして、360度画像によるVR空間の作成にフォーカスし、Keynoteのような形で360度画像同士をリンクさせたり、アノテーションを追記できるようにしたのが今のVizorです。

非常にロジカルに、実験思考でプロダクトを作り上げてきたのだなと感心しました。

現在かれらはSaas型で主にToBにサービスを販売しているのですが、すでに英国ナショナルギャラリーなどのクライアントが導入してます。

また、Facebookのタイムライン上でVizorの機能、すなわち360度画像間の移動ができたり、特定箇所をクリックすると説明が表示されたりするというインテグレーションを実現しているそうです。
これはFacebook VR APIのパートナーになると可能になることで、VizorはそのAPIの最初のパートナーだそう。

これ本当にすごいので、ぜひFacebook上で見てみてください

The National Gallery Tour

その他にも色々と面白い話が聞けたので、質疑応答的な形でKaarloの返答を紹介していきます。


・VR系サービスはどこもユーザー獲得に苦戦しているけど、エンドユーザー(閲覧者)の獲得はどうしている?

さきほど話したインテグレーションを活かして、導入クライアントがFacebookに投稿したものを多くのユーザーが閲覧してくれている。
また、企業にはエンベット機能を提供しており、それを彼らが自社サイトに埋め込んでくれているので、そこでもユーザーの閲覧が起きている。


・VR空間を作成できるツールは複数ある中で、何が差別化要因なのか?

大きく2つ。
1つ目はUX、すなわち利用の簡単さ。VR空間をWEB上で作成できるというサービスはいくらでもあるが、そうしたサービスは操作が複雑で、ほとんどユーザーが定着していない。だが我々のサービスは利用が簡単なので、そうしたユーザーの離脱は競合サービスと比較すると圧倒的に少ない。

もう一つは、Facebookと提携できていることによるエンドユーザー(閲覧者)とのタッチポイントの多さ。これはまだ競合サービスが実現できていないことだね。


・KPIとしては、どういった数字を追っている?

VR空間の公開数を最も重要な指標として見ている。
あとはもちろん、登録数と継続率だね。


・ARに対しても何か準備はしている?

Web ARのAPIを使って色々実験はしているよ。
自分たちはARKitよりもWeb ARの方に注目している。なぜなら、アプリよりもWebの方が利用の拡大スピードが早いからね。アプリARはダウンロードのハードルが非常に高く、また拡散しづらい。


・色々と投資家陣が豪華だが、一番役に立ったアドバイスは?

「お金は賢く使え」かな。
調達したスタートアップはしょうもないことにお金を使ってしまう、もしくはお金を使うことに忙しくなってプロダクト開発などの本質的なことが疎かになるが、それは絶対に避けろと言われた。
それは強烈に意識しているかな。

・自分の会社以外のフィンランドのAR/VRスタートアップでここは有望だと思うところは?

Varjo!

そうだね笑。それ以外だと?

名前は忘れてしまったけど、VRで眼の治療をしているスタートアップ。
レーザーアイで手術をするような病気に対してアプローチをしていて、成功率が10%と低くて、レーザーだから値段高いしリスクもあるんだけど、そのスタートアップが提供する特別なVR映像を見せるだけで成功率5%くらいで治るらしい。安価でノーリスクという点でそのサービスは伸びているようだったよ。


・なぜフィンランドにはこんなにAR / VRスタートアップが多いの?

理由は2つ。
一つ目は、ノキアから優秀な人材が流出していて、その人材がAR/VR領域に入ってきている。Varjoもノキア出身者たちのスタートアップだしね。

もう一つの理由は、歴史的にゲーム開発者が多いこと。
フィンランドは寒いから、昔からボードゲーム開発者が多くて、その流れでゲーム会社が多い。アングリーバードのRovioや、クラッシュオブクランのSupercellなど。そうしたゲーム会社出身者がAR/VRスタートアップを積極的に作っているんだと思うよ。

以上が、VizorのKaarloと話した内容でした。


AR/VRスタートアップのファウンダーとして、サービスデザインを仕事にする者として感じた3つのこと

彼と話しをして以下の3つを強烈に感じました。

① まずVizorの実験思考で戦略やプロダクトの方向性を決めていく姿勢が非常にスマートだなと感心しました。

自分はサービスデザインやリーンスタートアップのコンサルもしているので、こういった実験思考でやりましょうという話をクライアントによくするのですが、ここまで地でそれをやっているところは珍しいので感動してしました。

AR/VRという未来の分岐が多く、変数が多い市場だからこそ、こういう実験思考を大事にするべきだよなと改めて気付かされました。

② 2つ目に、彼らがUXの重要性をしっかりと認識しているところも感心しました。

日本のVRの会社は言葉や概念としては知っていても、UXとスキンのUIデザインがひどくてユーザー継続率を悪化させているパターンが多いので、CEOがUXのクオリティに対してかなりコミットしているVizorはその点強いなあと感じました。

③最後に、AR/VRの領域の会社はリッチなアプリケーションベースに走りがちな中で、サービスをスケールさせることを大事にして明確にWEBにフォーカスしている点が非常にうまいなと思いました。

自分たちMESONのサービスもAR/VR市場に向き合っているものの、まずはWEBベースでサービスを出していくのですが、これは去年Kaarloと話をしたのが影響しているのかもしれません。

以上!総じて非常に勉強になったVizor訪問でした!


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