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知的財産権と保護対象をざっくり

前回のロゴとフォントの保護についての記事では有名判例の著作権に関する判断に注目し、商標・不正競争防止法については補遺という立ち位置にしていました。今回は著作権以外の知的財産関連の法律について整理していきます。

注意
本稿では各知的財産権の保護対象を大まかに整理することを目的としますので「具体的な権利内容」「保護を受けるために必要な事務手続きの詳細」は扱いません。

著作権以外の権利

以前書いた「著作権概観」noteで著作権については大まかな整理をしました。

思想又は感情を創作的に表現したものであって、文芸、学術、美術又は音楽の範囲に属するもの

著作物の定義

これの意味のするところははデータや事実、アイディア、工業製品が保護の対象外になるということを示していました。ではそれらはどのように保護されているのでしょうか。

まず代表的な知的財産権をリストしましょう。

知的財産権

  1. 特許権

  2. 実用新案権

  3. 意匠権

  4. 商標権

  5. 商号権

  6. 著作権

  7. 回路配置利用権

  8. 育成者権

今回は太字でハイライトした「特許」「意匠」「商標」をメインに扱います。リストのほかの権利はさらっと触れるにとどめます。これは太字の3つが特に重要だからです。

これらの「特許権」「意匠権」「商標権」はそれぞれの保護対象が一定の基準を満たしているかの審査を剛作しなければ権利を取得できません。著作権のように作成したらすぐ権利が得られるわけではありません。

審査の詳細については冒頭に書いたように今回は扱いません。


特許権

まず特許権について整理します。

特許権はアイディア(発明)を保護します。アイディアといっても頭の中で考えています、という状態の物は保護されません。一定の形式で形が与えられているアイディア(発明)を保護します。

特許権の対象となるアイディア(特許発明)の要件

1. 自然法則を利用している
2. 技術的思想である
3. 創作性がある

特許法における「発明」の要件

このほかに「高度であること」というのがあるのですが、これは後述する実用新案と区別するためのもので「発明」かどうかの判定にはまず影響しません。

自然法則を利用している

これは、数学を除く自然科学の分野の法則を利用したものであることを求めています。これに該当しないものとして次のようなものがあります。

  • 自然科学分野の法則(エネルギー保存則など)それ自体

  • 数学の公式、定理

  • 社会科学、人文科学分野の法則

  • ゲームのルールのようなもの

技術的思想であること

これは特許法はあくまで産業のための技術を対象としていることを意味します。投球方法や走るときのフォームなど個人の技能や、絵画、彫刻などの美的創作物、機械の操作方法のマニュアル(単なる情報の定時)は技術的思想ではなく、特許法の対象ではないとされます。

創作性がある

ここでいう「創作」とは「単なる発見ではない」程度にとらえて構いません。

単なる発見であり、創作性が認められない
自然にある新元素の発見

創作性が認められる
人為的に単離精製した化学物質

特許として認められる要件

特許として認められるには、それが特許発明であるだけでは足りません。

特許発明の要件を満たしたうえで特許を受けるための要件も満たさなければなりません。

特許を受けるための要件

1. 産業上の利用可能性があること
2. 新規性があること
3. 進歩性があること
4. 既存の発明でないこと
5. 公序良俗に反しないこと

特許の要件

これらの要件が求めているのはつまり、「現在(登録時)の第一次、第二次、第三次産業において利用可能な全く新しい革新的な発明」であることです。

既存の物とほぼ同じようなものだったり、まったく新しいものでも産業で利用できないものであったり特許発明は特許法の保護を受けません(特許として認められません)。

新規性と進歩性というのは詳しく踏み込むと非常に複雑ですが、簡単には、「同業の人が唸るような新しさ・先進性」ということができると思います。

たとえば、アイスの雪見だいふくは特許として登録されていますが、これは大福のようにアイスを包める、冷たくても柔らかい餅という部分に新しさがあると評価されています。


意匠権

意匠権は主に工業デザインを保護します。より正確にいうと、 

物品(物品の部分を含む)の形状、模様若しくは色彩若しくはこれらの結合、建築物(建築物の部分を含む)の形状等又は画像であつて、視覚を通じて美感を起こさせるものをいう。

意匠法第二条第一項抜粋

と定義される「意匠」で、「意匠権の登録要件を満たすもの」を保護します。

「意匠」の定義について

意匠法第二条第一項を整理すると次の三点になります。

1. 物品、建築そのものの形状である
2. 肉眼で認識されるものである
3. 視覚を通じて美しいと感じさせるものである

1 については例えば、ネクタイの結び方のような物品を変形させた結果は含まれないという意味です。

2 については、顕微鏡で見ないとわからないような微細な構造は考慮の外であるという意味です(構造色のことも考えると、外観の差別化に必要付加可決なら微細構造も認められると思います)。

3については、機能を実現すると必然的にこうなる、というような形状や、全体としてまとまりがなく煩雑な印象があるだけのものはこの要件を満たせません。

意匠の登録要件

1. 工業(第二次産業)上の利用可能性
2. 新規性
3. 創作性
4. 公序良俗に反していない

特許の要件に非常に近いですね。特許権は技術、意匠権は外見と保護対象が違うものの、新規性や創造の難しさを基準している点で非常に似ています。少々正確性に欠けますが、特許の時の記述(「現在(登録時)の第一次、第二次、第三次産業において利用可能な全く新しい革新的な発明」)と比較したまとめ方をすると、 上記の 4 要件は次のようにまとめられます。

「ある種の物品の、現在(登録時)の第二次産業において実現可能な、より美しく、より使いやすい創造的な意匠」 

つまり、大量生産する物や実用性にスポットが当たるデザインは意匠として保護するということになっているのです。


商標権

商標権は商いをする者の表示に関する権利です。

商標権は消費者に商品やサービスの提供・販売元を明確に伝えるための物です。販売元を明確にする性質から転じて企業のブランディングに重要な役割を担っています。商標権は提供するサービス、商品と自社との関わりの保証をしています。 

商標として登録できるものを見ていきましょう。 

商標の種類

商標の種類とその内容・例

文字商標というのはフォントやロゴなどの外観を抜きにした文字列としての情報です。企業名、製品名のような文字情報は文字商標で、企業ロゴなどの見た目は図形商標、記号商標、あるいはそれらの結合商標(複数の種類の商標を組み合わせたものを結合商標といいます)で保護します。


その他の知的財産権

実用新案権

実用新案権は、特許発明のなかで物品の計上、構造または組み合わせに関するものに限定して保護する権利です。物自体や物の生成方法、アプリケーションなどは特許の領域であり、実用新案の扱うところではありません。

また、登録は必要なものの審査はされない(無審査主義)のため、特許のような強い権利ではありません。

実用新案の例:シャチハタ社のXスタンパー

商号権

商売をする人が自分の名称を登録(登記)することで、一定の範囲でその名称を独占的に使用できるようにするという権利です。商標権と重複して利用できる権利です。

回路配置利用権

集積回路に関する権利。著作権ではプログラムが保護されますが、こちらはハード側を保護する権利です。

育成者権

品種改良された植物の育成に関する権利です。最近シャインマスカットの種流出などで話題になりましたね。


まとめ

最後に今回扱った知的財産権とそれが保護する物を一覧しましょう。

知的財産権

  1. 特許権                 :新技術

  2. 実用新案権          :物品の創造的な組み合わせ

  3. 意匠権                 :工業デザイン

  4. 商標権                 :商品・サービス名とブランドのつながり

  5. 商号権                  :会社名(屋号)

  6. 著作権                   :著作物(表現)

  7. 回路配置利用権     :集積回路

  8. 育成者権                 :種の育成



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