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535 83歳の日々

(10)男達

 歩いて5分のところに、行き付けのクリニックがある。
血圧の薬を貰いに出かけた。
住宅は静かだが、どのオタクも何かしら花が咲いていて、つい見とれて立ち止まったり。ツツジが見事に咲いているのに、スマホを取り出しにかかったが、やめた。
 一人の男性が歩いてくる。
あら!一人暮らしで年も同じくらいのひと。奥様がいらしたときは、家と裏表なので行き来があったが、最近は道で会うときの立ち話くらい。近況報告は似たりよったりだが、何時も締めは、まあ、元気にやりましようと。
 病院の先生は、今日、私の認知テストをやった。初体験。多分、地域包括センターで事を勧めだしたことで、家庭医の一筆もいるからだと思う。くすぐったいような妙な気分で難なく終えた。
腰がきゃっとして、危ない感じだったので言ってみたが、いつも通り湿布だけ。まだ若くて、くだくだ余分なことは嫌いだと思える応対、もう慣れた。薬が欲しくても、なかなか出してくれない。
痛むのが嫌で、市販の高い痛み止めを買ったりするのも忌々しいが、どうしてなのかなあ?!
隣の薬局では若い薬剤師がニコニコと柔らかい話しぶり、医師のコトバ足らずをこちらで補ってくれるような塩梅で
気持ちが和む。お大事にのセリフも、温かで、ホッとする。
帰り道、友人のお連れ合いが車から降りるところ。体を壊されたが、畑をやりに行ったり、散歩をしたり。リハビリ兼ねて動いておいでだ。丹精のお野菜をいつも頂いている。軽く挨拶のみで行き過ぎる。
もう少しで家につくところで、お早うと声がかかる。
私はこんにちわと返す。
玄関先にチェアを出し、風に吹かれたり、涼んだり。どうやら、スモーカーのこの人は、奥さんに言われてか、自らの行動か、とにかくよく外にいる。気が向いたり時間にゆとりのあるときは、私も結構話す時間も多い。
過去の仕事のこと、遊びのこと、やんちゃだった人だと丸わかりで、面白がって私が聞いていると、次から次へ話題特に思い出の武勇伝は収まらない。大人しくて、近所の人ともあまり喋らない奥様の静かな表情が思い浮かぶのでついにやりとする。
きりがないので、いつも話の終わりは、私が決めて分かれる。
帰宅してやれやれ! 
 あれっ?声がしたかな?家のピンポン、また壊れて、用をなさない、耳は良い私が、聞きつけ玄関に出る。
冬の間お世話になる灯油のお店の方だった。今季最後の請求書をお持ちくださる。
柔和な眼鏡の顔が親しげに笑っている。若くても年取ってても、ちょっとした話で馬が合うのは互いにわかる。
あら、これが最後ですね。11月からのことはわからないし、取り敢えずお礼を言って、先はどうなるかわからないけど元気にお仕事なさってねと挨拶。いつもより短めの談笑のあと、二人は丁寧にお辞儀して、私は彼の背中を見送った。
後で封筒を開けると、請求書電子化の案内とアドレス登録お願いの用紙が入っていた。
 たった1時間余の、行って帰っての間に、6人の男性と言葉をかわした。仕事をしているひと3人と、高齢老人3人。
 優しき男たちと行き過ぎた僅かな時間。 
 みんな生きている。
 
#静かに行き過ぎた男たち
#女性の声を聞かない日



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