中学生団員29

これまで、誰も友達がいなかったかのように誤解を生む書き方をしてしまったかもしれないが、俺にも何人か友達はいた。



まず、A君。


A君は唯一、小学校から同じ中学に入学した子で、明るくて優しくて勉強もできて運動もできて、俺はA君のことを同級生ながら人類として尊敬していた。


両親に中学受験を勧められ、候補の学校をいくつか提示されて「どこを受験したい?」と聞かれたとき、俺はどこも受験したくなかったものの、どこかしら選ばなければいけないんだろうなという空気を勝手に読み取り、A君が受けるといっていた学校を選んだ。



ちなみに、中学受験をする子は受験の一週間前から学校を休んで家で朝から晩まで勉強に励み、志望校に受かるまで学校を休み続けるのが通例。

だったのだが、俺は前日まで普通に学校へ通い、夕方まで遊び、そんなものだから二月一日二日と受けた試験に当然のごとく落ち、なのに何故か平然と三日に登校した。


当然クラスメイトたちは、登校してきたということは受かったのだと思って「おめでとう!」と声をかけてくれたのだが、「あ、いや、落ちたよ」と言うと、急に真顔になり、何といえばいいのかわからないという、絶妙な空気が流れた。


皆さんは、小学生が全力で気を遣う表情を見たことがあるだろうか?
あれは、同じ小学生だった俺からしてもいたたまれなくなるものだった。


A君は当然合格して登校してきたのだが、同じ学校を受けて落ちたのに何故か俺が登校してきたせいであからさまに喜ぶこともできず、気まずそうにしていて、あれは本当に申し訳なかったと未だに思っている。今の住所がわかれば、カルピスの詰め合わせとか贈りたい。



で、なんやかやで俺も合格して、A君と俺は同じ中学校へ入学した。

A君とは同じ団地だったので、朝も待ち合わせて一緒に登校したり、遅刻しそうになったらA君のお父さんが車で法外なスピードを出して送って間に合わせてくれたこともあった。


A君はとにかくいい子なので、中学に入ってすぐにたくさん友達ができて、俺はA君の友達ということでそのA君の友達グループに入れてもらっていた。


A君とA君の友達たちと放課後も市民会館みたいなところへ行ってバスケをしたりする日々をしばらく送っていた。


A君とその友達たちは全員バスケ部に入った。


俺は、とある部活に入部して、俺が入部した直後に先輩が全員退部して、一人でコンクリートの狭い独居房みたいな部室で、ひたすら重りを上げたり下げたり、足拭きマットを超細長くしたみたいな布をお吸い物の輪っかになってるお麩みたいに楕円形にして、その輪の中に車輪を入れた、電力を使わないアナログ方式の地球に優しい自力ルームランナーみたいなのがあって、ハムスターがカラカラ走ってるやつみたいなシステムのそのルームランナーでひたすら走って、「走っても走ってもどこにも進めない、まるで俺の人生のようだ。俺はいったい何をしているのだろう。ハムスターも、こんな虚無感を味わっているのだろうか」と今もどこかの家で俺と同じようにカラカラ走っているハムスターに想いを馳せたり、という何の部活なのかよくわからない活動をしていた。



俺がそんなことをしている間に、A君たちはバスケ部で様々な技術を修得してきて、ドリブルしながら回転したりフェイントしたり股下にボールをくぐらせたりと球体を旧友のように扱い始め、そもそも俺は球技が得意ではないのに急にバスケ部で得た技術を素人の俺相手に試してくるみんなに遂についていけなくなり、気づくと俺は公民館に行くのをやめた。


それでも部活がない日はみんなで帰ったり、休みの日にハリー・ポッターの4作目あたりをみんなで観に行ったこともある。



だが、半年くらいして、だんだんと、俺は、薄々、気づいてきた。

A君たちの笑いのセンスがエグつまらないことに薄々気づいてきた。


いや、小学生の頃はA君の冗談に俺はゲラゲラ笑っていたし、だからバスケ部でA君たちは笑いの技術も上達させ、俺がそれについていけなくなっただけで、A君たちの方が面白くて俺のレベル低かったのだろう。



ただ、当時の俺は眼球を逆さまにして物事を見てしまっていたようで、A君たち側の笑いのレベルが低いと思ってしまい、あんなに面白かったA君がこんなにつまらなくなってしまうとは、あのA君がダークサイドに堕ちてしまった、と絶望した。


それでもしばらくは面白くない彼らの話に全力で作り笑いをして友達付き合いを続けていたのだが、作り笑いをする筋肉にも限界が来て、独居房みたいな狭い部室には狭いのにベンチプレスまでありハムスターのカラカラもあったし何の宗教かわからない神棚まで飾ってあったのに、作り笑いをする筋肉を鍛える器具は置いてなくて、俺はもうA君たちの前で笑えなくなっていた。

気づくとA君たちとは疎遠になってしまった。



そもそもはA君と同じ学校に行きたいという理由で受験したのに、1年も経たないうちにA君という友達を失い、この学校に居る意味も失ってしまったのだ。


2年生へ続く。

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