見出し画像

自ら身体を運んで書店営業に赴くおもしろさ / 全国出版ツアー日記①

出版ってなんなんだろう。これは40歳で抱え始めた問いの種だ。

私はあまり考えすぎずに、まず形にすることを第一にしている。誰かに相談することはあっても、日々触れてきた社会の仕組みをベースに動き出すことが多い。言い方を変えれば、ほとんど説明書を読まないタイプだと思ってもらいたい。いつからそんな大雑把な性質になったのか定かではないけれども、自分の中で育っている「大体」や「適当」の感覚を大事にしたいのである。

「世の中にある定石が本当に定石なのか?」

まずここから疑いたくなる。なぜなら確固たる定石が信頼されるものだとするのなら、定石を踏んだ人間の失敗が生まれるはずがない。むしろ「これがいまの(自分がたまたま捉えた)定石かもしれない!?」の仮説に至るまでのプロセスにこそ経験値が宿るのではないか。

失敗してもいいと思えるのは傲慢かもしれない。それでも、大体と適当を駆使して挑んだ勝負から見えてくるものは、明確な言語化に踏み込む手前の「自分だけが信じられる勘」を研ぎ澄ましてくれる。

あえて出版社「風旅出版」を立ち上げた理由もそこにある。ただ本を書いて発売するのではなく、人類史の発明といっていい”出版の領域”に踏み込んで試行錯誤したかったのだ。バタバタともがいている時間は、苦しくも楽しい。何歳になってもこの感覚を宿らせることが、人生に飽きないポイントなんじゃないかと思う。

そんな矢先に『あしたから出版社 / 島田潤一郎』を読んだ。出版に至るまでの生き辛さ、ゼロから出版の門戸を叩いて関係性をつくる葛藤、作家さんやデザイナーを口説いて本を形にする過程、そして本を売るための地道かつ、泥臭い営業活動などなど…いわゆるハウトゥー本ではない一人の人間が仕事を通して役割を得るまでの物語だった。とてつもなくおもしろい。そして、とことん人間臭い。島田さんも「大体こうだろう」を積み重ねながら、失敗のフィードバックを受け止めて咀嚼し、諦めずに次へ次へと動いていた。

水が流れる方向に似ているな、とも思う。ぶつかったら違う方向へ。流れるエネルギーを殺さず、諦めずに、そのまま進むしかない。この状態を人間社会の中でどう抱えることができるのか。20代であっても、30代であっても、そして40歳になっても変わらない普遍的な在り方なんじゃないかと思う。

だから、私も全国の本屋さんを尋ねる出版営業活動を始めることにした。

取り扱い書店を訪ねてみる

オーナーの吉村さんと

大阪での出版トークイベントに合わせて、北浜にある『FOLK old book store』へ。生まれ育った大阪のことをほとんど何もしらない私にとって、近いけれど遠い感覚を持っている。泊まっている宿も近いし、チェックアウト後に訪ねてみたら、新刊や古本、CD、雑貨などが所狭しと陳列されていて「これは年月を感じるな〜〜!」と圧倒された。決して広くはないスペースだけど、本棚を睨みつける時間はちゃんと長くなってしまうラインナップ。

せっかくなので、本を購入する流れで「あの〜…すみません。こちらにおまえの俺をおしえてくれを仕入れていただいていて、著者の柿次郎と申します…」と声をかけた。しばらく長野の大自然に接していたら、元々の人見知りが蘇ってきてしまい、飛び込みで声をかけることも少し緊張してしまう。どうしたんだ、おれ。どうする、おまえ。それでも、声をかける。

最近の本を売るときの口癖は「いつか売れるんで!」にしている。そして「なんでもやりますんで」を一口アイスみたいに添えるようになってきた。そんな流れで在庫分の本にサインを書かせてもらった。

小さなことからコツコツと…現場の痕跡を残す

一度顔を合わせている人間に悪いことはできない。人間心理はそういう優しさを秘めてるんじゃないかと思っているので、ここでの行いはきっとポジティブになにかが動くはずだ。吉村さん、ありがとうございました。

さてさて、次は天王寺に移転し、リニューアルオープンした『スタンダードブックストア』へ。

一度訪れてみたかったのもあるし、よかったら『おまえの俺をおしえてくれ』を取り扱ってもらえないかな?と、営業マンの仮面をパカパカの状態で付けて出陣。一階はカフェ。休日なこともあって大賑わい。カウンターの中でせっせと働く中川さんはとても忙しそうだった。大きな荷物を引きずりながら、二階の本屋スペースへ。棚のテーマ設定がどれも好みすぎて、この本屋が天王寺あることを天王寺の民は誇ってほしいなと思った。一階のカフェでケーキと紅茶をしばきながら、中川さんが立ち止まる瞬間を待つ。

よきタイミングで声をかけて、「お久しぶりです。柿次郎です。実は最近、出版社を立ち上げて自分の本を出したんです」と立ち話に。3年ぐらい前に編集者の藤本さん、ライターの竹内さん、あとは中野さん、平山靖子(おかん)と飲んだ流れで中川さんとも飲んだことを思い出した。カウンターでこぼれた日本酒を刹那の反応速度で、ズズズッとすするカマしの芸を閃いてやってみたものの、さすがに大阪でもやや引かれ気味だったなぁ。

その後、味園ビルに場を移して、朝方まで飲んでいた。中川さんはふらりふらりとしながらも、「またな〜」と昭和の名優みたいな背中で立ち去っていたことを強く覚えている。なんてかっこいい飲み方なんだろう。出版を挨拶代わりにしてこうやって再会を生み出せるのは、とても楽しい。足で稼いで、本を置いてもらう。あしたから出版社で描かれていた世界に近づいているのかもわからないけれど、人間と人間の中に関係性を統合していくプロセスは自分に合っているな、とも思える。

梅田ラテラルのトークイベントはスーパー濃厚な内容に。またレポートをUPしたいと思っているけれど、6人のゲストを呼んで酒を飲みながら話し続けることは「トイレにいけない」ことを意味していた。この発見も大きい。忙しいなか駆けつけてくれたみなさん、そして登壇してくれた6人のスペシャルなTANYさん、Nobuさん、haskeyさん、たかちゃん、KOPERUさん、たいchangありがとうございました。


打ち上げは、人生で一番赤かった。終わり朝5時。大阪の夜は長い。


【今後の動き】
11/26(土) 福岡出版イベント@君の好きな花
12/4(日)札幌出版イベント@シーソーブックス


1982年生まれ。全国47都道府県のローカル領域を編集している株式会社Huuuuの代表取締役。「ジモコロ」編集長、「Gyoppy!」監修、「Dooo」司会とかやってます。わからないことに編集で立ち向かうぞ!