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シモダテツヤと柿次郎の「経営者の孤独」

BAMPで連載している「経営者の孤独」が、7月13日にポプラ社から書籍になって発売された。WEB連載から書籍へ。これは当初から思い描いていたストーリーで、この連載の一応発案者となっている私にとってはあらゆる感情が幾つも織り重なった”手に取れる物質”ともいえる。


経営者と社員の関係性

この企画を思いついたのは、前職の株式会社バーグハンバーグバーグの元代表であるシモダテツヤ(以下、あだ名のしもやん)を間近で5年以上見続けたことがきっかけだった。

自ら立ち上げたメディア「オモコロ」から出世魚のように誕生した法人組織「バーグハンバーグバーグ」は、オモコロスタッフだった仲間たちを少しずつ社員として誘っていった。その内の一人が自分。立ち上げ3人の強固な礎の後、4人目のメンバーとして入社した背景がある。

当初は経理、総務、広報といった裏方の仕事が役割だと思って、誰もが少しめんどくさがるような業務に身を投じていた。現在、経営者/編集者として現場主義を掲げる自分からは想像もつかないような時代。当時の仕事は全部できなくなったし、実務能力が日に日に落ちてる…。なにこの状態…。

ただ何者でもない、自信もなかった29歳〜31歳の自分は、とにかくしもやんがやりたいこと、できないこと、そしてバーグハンバーグバーグが苦手とすることを価値として動き続けていたように思う。これは上京直後のスタンス同様に、ひたすらにめんどくさいことを全部引き受けるマインドだった。

在籍は5年。いつからだろうか。会社が大きくなっていくにつれて、しもやんの様子が少しずつ変わっていった。ワンマンプレイヤーから経営者へ。会社のブランディング・プロ意識のコンテンツづくりを徹底しつつ、外の経営者と飲み続けて、社員全般にも事細かやかに気を配る。

それは経営者として正しい場所へ連れていく使命感もあっただろうし、社員とその家族を食わせて守る責任感もあったと思う。暑苦しい「俺たちは家族だ」という台詞も、自分たちの会社が世の中にインパクトを与えている実感と共に笑顔でみんな飲み干していた。もっといける。絶対いける。それまで会社の真似事のような体制にも、一般的な正しい在り方や常識を導入していって、より力強くも柔軟な組織になっていたのは間違いないだろう。

同時に私自身は心境の変化が大きくあった。成長する会社としもやんの変化。今思えばただの成長痛に過ぎないような出来事や違和感も、尺度と物差しを自分自身に向けたときに「このままこの会社に居ていいのだろうか。自分が主体となって仕事を作り、金を稼ぐ手段と実力を身につけるべきなんじゃないだろうか」と考えることが増えた。

当時32歳。節目となる35歳と40歳のことを想像したら、35歳までに外に飛び出すべきだと次第に思い込むようなったタイミングともいえる。

「お前、今日のことは全部忘れろよ」

この決断をしもやんに話したときは喧嘩になった。ひどい口論になって、互いに酒を注ぎあって朝方まで飲み続けた。朝5時の戸越銀座商店街に一人泥酔してタクシーから降りた私は、アスファルトにゲロをぶちまけてそのままへたりこんだ。


一度目の上京は23歳。二度目の上京は26歳。その二回ともきっかけを与えてくれたのはしもやんだった。恩人であり兄貴分。経営者とクリエイターの二足のわらじを履いて、新たな価値を想像する姿勢と謙虚さはずっと尊敬している。だが、家族のような距離感の中に「経営者と社員」という関係性が、本来まっすぐに投げ合えばいい言葉を迂回させていた。お互いが酒を飲まないと本音が話せない関係。会社の机は隣同士だけど、微妙な距離感が生まれていたのは社員全員が認識していたように思う。

その後、何度も同じような喧嘩を繰り返した。いま振り返れば、自分の態度や姿勢、言葉の使い方もよくなかった。反省…! 自分が経営者になってから気づくことがあまりにも多いし、経営者にならないとずっとわからないとも思う。

「自分でリスクを取って、その分稼ぐ」

それでも止められない心の衝動と外に飛び出したい欲求が、グルグルグルグルと頭の中で回転して疾走するためのエネルギーになっていったんだよなぁ。村から町へ。町から都市へ。あらゆる人の環に飛び込んで顔を売り、目の前の人たちと対話し続けた。糞みたいな東京的なパーティにも顔を出したり、いけ好かない金持ちに雑ないじりをされたり、社内でも独自路線を突き進んだり…揺れ動いた分の心の距離をエネルギーに変える。その大きな軸なったのが「ジモコロ」であり「ローカル」の世界だった。

経営者になってから気づいたこと

しもやんとの心の溝は埋まらなかったものの、いつしか「経営者と社員」の関係のなかで辞めるべき時期とそれに伴う交渉の場を重ねて、しっかり筋を通して退職したのは2016年12月27日。そして翌年の2017年1月20日に株式会社Huuuuを立ち上げて現在に至る。

そして2018年3月20日にこんなツイートをしたのがきっかけで、本題の「経営者の孤独」は誕生した。

この投稿は自分自身が経営者となって、その営みの難しさを痛感したこと。そしてバーグハンバーグバーグ時代のしもやんの変化と感情を重ね合わせたんだと思う。埋まらなかった心の溝。日々感じるストレスや誰にも話せない悩みを抱えて、経営者は言葉を飲み込んで生きている。脊髄反射で感情をぶつけない。わかってくれるであろう人にだけ使う言葉の引き出しができることも知った。全部の責任を負い、信頼できる仲間とクライアントを増やし続ける経営ロールプレイングゲームは面白さと不安が表裏一体となっている。

自分の決断とはいえ、独立してからしもやんと顔を合わせることはほぼなかった。一度、表面上の飲みをした。ヨッピーさんの結婚式で再会したこともあった。前職の元々友だちだった同僚とも距離が生まれた。その背景には「会社を飛び出た以上は全く違う領域で結果を出し、一人前として認められなければいけない……」と思いこんでいたことが大きい。それぞれの信じる環境でかっこよく生きていれば、いつかまた会える。どちらか片方が歩み寄るのではなく、共に会いたいと思える機会を待つしかない。

この連載のゴールは、私自身がしもやんと向き合って「経営者の孤独」について語り合うことだった。それが素直に向き合える再会の場だと考えていた。

残念ながらボタンの掛け違いでそこは叶わなかったものの、作家・土門蘭という素晴らしい書き手、経営者でありながら強く頼もしい編集者である柳下恭平、さらに仲間である友光だんご、ポプラ社の天野潤平の最強チームによってこの連載は積み上げられていった。

手前味噌ながらめちゃめちゃ面白い内容だし、世の中に必要な言葉があらゆる角度から切り取ってある。社員にとっては経営者の気持ちが分かる本になり、経営者にとっては社員に伝えたい法人格を背負う覚悟が詰まっていると思う。そこには多種多様な孤独の価値観があり、経営者によっては孤独を感じないと語る人もいた。「あ、そうなんだ。全員が全員ではないんだ」と驚けたのも連載ならではの発見だ。

初期段階から私は発案者としてにぎやかしに徹して、一番のファンとしてひとりの読者として「経営者の孤独」に触れてきたが、前職在籍時にこの連載を読んでいればもっと素直になれたかもしれない。もっと彼の孤独に向き合えたのかもしれない。でも、それはただの結果論なんだろう。なるべくしてこうなったと思うほうが健全なんだと思う。

いまを生きる人間にとって「たられば」も「if」も「過去」も「未来」も存在しない。私自身が経営者になり、孤独を感じ、人生の穴を埋めるべく奔走し、新たな領域の仕事でこの連載が生まれただけに過ぎないのだろう。「個」のきっかけに対して、前述の素晴らしいチームが「円」となってこのテーマを深く深く、地べたを這うような重い足取りで経営者たちの言葉を拾いあげてくれた。感謝しかありません。

生みの苦しみは土門さんのこの手紙に詰まっている。

「わたしは書きたかったけれど、それ以上に読みたかった。わからないことを知りたくて、そのために書いているんだなと思いました。ただ、わからないことを知ろうとするのは、体力と根気と勇気がいる作業です。それでも最後まで続けられたのは、ずっと応援してくださった読者のみなさんのおかげです。あなたのおかげで、書ききることができました。ありがとうございます」

ジモコロ、BAMP、Gyoppy!も、すべて「わからないことを知ろうとする作業」だからこそ、この言葉に強い共感を覚える。そしてHuuuuの編集の姿勢は「わからないことに立ち向かうこと」だと思っている。むずかしいことをわかりやすく、表面上のわかりやすさに逃げず、実行動に繋がるような何かを今後も作り続けたい。

大事な告知(買ってくれよな!)

ぜひ、書籍を購入して感想を教えてください。Amazonレビューに書いてくれたら最高ですし、SNSでハッシュタグ「#経営者の孤独」をつけた投稿でも大歓迎です。

また、8月3日(土)は銀座蔦屋書店で土門蘭、徳谷柿次郎、柳下恭平による公開インタビューを行います。土門蘭 VS 徳谷柿次郎。人間の心の「穴」に興味津々な二人が、互いの心を剥がし合うデスマッチみたいな時間になるかもしれません。今から怖い、でも楽しみ。あと8月31日(土)にも都内でイベント実施予定。どちらか予定空けといてください!


エピローグ

しもやんとはインタビューでの再会は叶わなかったものの、なんとなく連絡を取り合って8月下旬にベトナム・タイ旅行することとなりました。しかも書籍「経営者の孤独。」が発売となったタイミングで。もしかしたらこの本を作り上げたことで、ひとつの区切りがついたのかもしれません。

積もる話は異国の空気の中で、薄いビールを飲みながら。海外旅行の面白さを教えてくれたアジアでほぼ二人で旅をするのは今から楽しみです。


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1982年生まれ。全国47都道府県のローカル領域を編集している株式会社Huuuuの代表取締役。「ジモコロ」編集長、「Gyoppy!」監修、「Dooo」司会とかやってます。わからないことに編集で立ち向かうぞ!