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ミクとの喧嘩と仲直り

ーーそれは君のじゃない返してもらおうーー

初音ミクと初音ミク使いの関係は複雑なものが多いです。
彼らはよく喧嘩をします。

ボカロの枠からも飛び出して活躍する初音ミクは、今やトップアイドルです。
初音ミクの力が強すぎる故に、ボカロPは初音ミクに名前負け、力負けすることが少なくありません。
曲の主導権ですら初音ミクに握られていると錯覚しますし、リスナーも大抵それに疑問を抱きません。
しばらくすると、それが怖くて初音ミクから離れよう、初音ミクから逃げようとする人が一定数出てきます。
ミクPがよく別名義を作ったり、ボカロを離れてシンガーソングライターデビューをしようとする理由の一角はこれです。

今日は、そうやって一度ミクを突き放したボカロPたちの、喧嘩と復縁の話をしましょう。


ryoさんの場合

ミクとマスターが喧嘩して仲直りする曲として、有名なものがひとつあります。
ryoさんの、ODDS&ENDS (以下オズエン) です。

https://m.youtube.com/watch?v=iOFZKwv_LfA&ebc=ANyPxKqMeVghAUki2cZhhGdladkUNNvFtOQtD2l80GZgu9mmUVu_CV3Oy9-P5dlXQsTji1iSNnEKz5pkRDppa1MnacPxuJDEtg&time_continue=311

これはミクと、そして僕の話。

このコメントからも分かるように、ryoさんはこの歌を経験したのでしょう。

ryoさんは最初期からボカロ文化を盛り上げてきた人物の一人です。
つまり、OSTERさんや後に説明するcosMoさんと同じく、どこへ行くにもボカロの名前がついてきた人の筆頭となります。
特にryoさんはボカロ、特に初音ミクを語ろうとすると、多くの人の口から真っ先に名前が出てくるような人物です。
アイマスとのコラボにはボカロ曲代表としてメルトとワールドイズマインが収録され、ボカロの説明PVにもみっくみくと並んでメルトが高確率出てきます。
アニソンを書き下ろせば「あの初音ミクの」と言われていました。
それは、クリエイターとしてどれほど苦しかったことでしょうか。
ryoさんは代表であるが故に、作品も作者も見てもらえず、その先にある初音ミクという大きなものを見られてきたのです。

「もう機械の声なんてたくさんだ、僕は僕自身なんだよ」って
ついに君は抑えきれなくなって あたしを嫌った

しかし、代表となってしまった彼には嫌うことすら許されなかったのです。

君の後ろで誰かが言う 虎の威を借る狐のくせに!

初音ミクを使って有名になったのは確かだけれど、そう、この時点で、誰もryoさんを見ていなかったのです。
正確には見ている人はいました。
しかし、それは同じボカロPや一部のクラスタ系リスナーで、多くのリスナーはryoさんの曲を使って初音ミク全体を見ていたのです。
ryoさんも初音ミクを有名にした立場であるにも関わらず、です。

それでも彼のミクは知っていました。
彼の苦労も、彼の功績も、君のものだよと言って、ryoさんの心が再び初音ミクに向いた時、彼らは仲直りを果たします。
ガラクタと半端者として、ひとりとひとつとして。

cosMoさんの場合

多くのPが一曲の中で喧嘩別れと仲直りを描いている中、彼は3曲、いやもっと多くの曲に渡ってそれを表現してきました。
いいえ、正確には表現ではなく体現だと思います。
その期間はざっと4年間。
ボカロが10年続いている中の4年間という長い期間でした。

彼はボカロを捨てなかった。
1年たりとも引退しませんでした。
しかし、引退せずに

ボカロ曲を作るが初音ミクを使わない

という最も残酷な方法で初音ミクと決別したのです。

2013年8月『終点』
初音ミクオリジナル曲 「終点」
http://www.nicovideo.jp/watch/sm21552463

彼は以前から「初音ミクの消失以外で語られるようになりたい」と言っていました。
彼の曲の中で最も伸びているこれは、2008年4月の曲です。
初音ミクを聞くリスナーにとって消失シリーズは避けては通れない道でしたし、必然的にcosMoさんを代表する曲でありました。

しかし、彼にとって既に初音ミクの消失は『過去の栄光』でした。
新曲や新シリーズが、勝てるはずのないこの曲と比較され、どんどん踏み潰されていきました。
初音ミクを使えば「消失シリーズはまだか」と言われていました。
ボカロ以外を使えば「ボカロを使え」と言われました。
彼を初音ミクは、正確には初音ミクの消失は縛り付けていました。

2013年5月、彼は黒猫アンティーク名義で曲を作っていました。
cosMoという名前が消失シリーズから切り離せないと思ったのかは定かではありませんが

僕は以前3つほど世界を作った
いずれも他の理の介入を許し
最終的に僕一匹ではどうしようもないものになった
だから黒猫アンティーク
これだけはどうしても守り抜きたいのだ

PV中のメッセージ、この3つの世界の中に消失シリーズが入っていること、彼が最後の希望を持って別名義である黒猫アンティークに逃げたこと、この2つは確かなのです。
しかし、黒猫アンティークに逃げたcosMoさんを襲ったのは、無慈悲な追撃でした。

「黒猫なんとかとか言ってないで消失シリーズ作れよ」
「消失シリーズしか能がないのだから」

誰が言ったのかまでは覚えていませんが、あまりにも腹立たしかったコメントなので覚えています。
それも一件や二件じゃありませんでした。
これを受けて初音ミクの切り捨てを決意したのか、8月に投稿された終点でのお別れ以降、彼は11曲に渡り初音ミク以外のボカロのみを使ってきました。

初音ミクfeat.cosMo@暴走P

終点にクレジットされたこの文字は、もはや自分と初音ミクの立場が逆転してしまったという、最後のメッセージになっていたのかもしれません。

リアル初音ミクの消失も語ろうとしましたが、思った以上に長くなりそうなので省略します。
ひとつ言えるのは、リアル初音ミクの消失は、やっとcosMoさんが『逃げ』から『攻撃』に転じたものだということです。
実は初音ミク停止期間に、彼はずっと憧れだった音ゲーにて名を馳せる活躍をしていました。
やっと、彼を初音ミク以外で理解してくれる界隈ができたことで、攻撃の手段に出てきたのでしょう。

いざとなったらやめられる

cosMoさんは逃げ道を確保できたことで再び初音ミクと向き合うことができるようになります。
最初は別名義DJもちよからのスタートでしたし、理不尽に叩かれましたが、彼はそれを乗り越えてついに仲直りを果たします。

2017年3月『いままでも、このときも、これからもーー』
http://www.nicovideo.jp/watch/sm30829059

君はだいぶ優しくなった
この世界を許すようになった

誰よりも傍で見てきたからわかるよ

オズエンと同じです。
ミクは最初からマスターを許していた。
受け入れていて、世界と自分を許したマスターが帰ってくるのを待っていたのです。
そして、マスターが目を背け続けていた間も

ミクは隣で見ていた
苦労する姿を見て一緒に悲しんで待っていた

オズエンも、これからもダッシュも、両方仲直りの方法が同じであることに注目です。
それでは3例目に行きましょう。


wowakaさんの場合

今からアンノウン・マザーグースの話をするわけですが、この曲の場合は少し特別です。
恐らくですが、この曲の中にwowakaさんは出てきません。
とりあえず貼りますね。

アンノウン・マザーグース
http://www.nicovideo.jp/watch/sm31791630

気になったのは、『残されたあなたがこの場所で今も涙を堪えてるの如何して、如何して』の文面です。
wowakaさんは残されていない。
むしろ残していった側なのですから、この歌のミクは別のマスターをモデルにしています。

『ガラクタばかり』『誰もが彼をなぞる』『見境ない〜叫ばせて!』

『繰り返す使い回しの歌』『残されたあなた』『どうやってこの世界を愛せるかな』

アンノウン・マザーグースは、いろいろな家のミクが、仲直りまでマスターを待つ間の感情になります。
私はここにいるよ、と言っていますし、これは間違いないでしょう。
ところで、その歌詞のモデルですが、上がオズエンミク、下が終点〜これからもダッシュのミクです。

きっとwowakaさんはこの2人、もしくはそれ以上のミクとの喧嘩と仲直りを見ていました。
アンノウン・マザーグース、マスターが見ていない間の初音ミクの感情を、歌にならない部分の言葉を紡ごうとして生まれた曲、私にはそう聞こえました。

初音ミクはいつでもそこにいる
あなたのとなりにいる
だからいつでも帰ってきていいんだよ
初音ミクは全てを許すのだから

3人のボカロPがそれぞれに違う境遇と思いで出した、喧嘩と復縁の曲。これが共通解です。


ところで鏡音になるとまたややこしくなるんです

鏡音Pははっきり言いますと、鏡音に調教されています。
逃げるなんて考えをリンレンに排除された人種で、ミクPと比べると引退や名義変更はほぼほぼしません。
その話もまたしましょうね。

今日はこの辺りでしまいFaceTimeですが、私がオワタPの話をしていないのも変なので、オワタPノルマだけ回収しておきます。

オワタPはねこです

以上です。

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