東京、ギャルの爪。

おひさ旅行記。前回↓

なんとかゼリーフライにならずに命からがら埼玉を飛び出した。なんだったんだあれは…

埼京線に揺られて45分、もう東京だ。東京在住なので旅行と言えるのか?と思ったが、各地の東京への偏見が凄まじかったので弁明のためにも私にはノーマル THE TOKYO を発信する義務がある。

埼玉を迫害したりはしないしパリコレ最新鋭の服も着ていない、少し都会なだけでごくごくありふれた街であることを証明しなければ。

東京にはいつも通りスーツ6割カジュアル2割ギャル2割。ほら、他の土地となんら変わらない。
竹下通りとかにいくとさすがに触角やら尻尾やらやりたい放題だが、それ以外は普通なんですよ。

「ねぇお姉さん」
突然肩を叩かれ振り返る。

\\野生のギャルが現れた//

羽ばたくまつげに金色の髪、ポッキーのようなハイヒールとカラフルすぎる爪。

「あ、はい私でしょうか?」
陰キャ丸出しの「あ」が出てしまった。声が裏返らなかっただけよしとしよう。

「そうそうごめんね急に。ちょっとそこの100円取ってくんない?コレ(爪)のせいで取れなくて」
おしゃれは我慢とは言うが小銭ひとつ払うのにも苦労するのか。さすがギャル。それで生活をしようと思えるのがすごい。

「どうぞ」
「ありがとーまじ助かったー♡てか今のナンパなんだけど遊び行かない?」

ナンパだった!!恐るべしギャルのコミュ力!!
ちょっと不安はありつつギャルに悪いやつはいないというばあちゃんの格言を胸に、勇気を出して乗ることにした。

「ありがとうございます。喜んで」
「喜んでとか居酒屋以外で初めて聞いたウケる」

カラカラと笑うギャルに、なんだかこちらまでコミュ力が上がった気になりニタニタしてしまう。

「てかなんて呼べばいー?」
「萌です。呼び捨てで、大丈夫です」
「えー!風間くんのオキニじゃん!もえもえピピピもえピピピ!もえぴよろー」

ギャルはクレヨンしんちゃんにも精通しているのか。会話を広げるための努力を惜しまない生物。素晴らしい。

よし、試しに人生相談でもしてみるか。確実に勉強になるぞ。

「あの相談いいですか?」
「いーよースタバおごりな!」
一見厚かましい奢らせもギャルの手にかかればあら不思議、対価を払うことで相談の申し訳なさをグッと下げてくれるおまじないのようだ。

ギャルおすすめなんちゃかこんちゃか長い名前フラペチーノ色々増し増しを片手に本題に入る。

「私色んな人になめられやすいんですけど、どうすればいいですかね?」
自信に満ち溢れたギャルにこんな話は無縁か?

「んー、髪染めるとか?」

即答だ。さすがギャルと笑っていると、ギャルは笑いながら真剣な顔で続けた。

「いやまじで、変わるから。もえぴのそれまだ髪でしょ?あーしのこれ、たてがみだから。
染めるだけ百獣の王。痴漢とかセクハラとかまじ消滅すっかんね。ガオー みたいな」

限りなく白に近い金髪を指に巻き付けながら話すギャル。その堂々とした強さは自己防衛の上に成り立っている後天的なものだったのか…!

ギャルを改めて尊敬し、ギャルは皆天性の陽キャだと思っていた己の未熟さを恥じた。

「じゃあその長い爪も百獣の王の…?」
「いやこれは普通に武器」

武器?

「人間やっぱ目が一番狙いやすい急所じゃん?なんかあったらとりま目潰し。逃げることもできるし角度調整すればイチコロっしょ」

物騒物騒いきなり物騒。
ギャルのイチコロは恋の言葉であってほしいのよ。物理じゃん。メンタルだけでなくゴリゴリの物理戦もいけるのか。

「いやでも目を狙うなら最悪鍵とかでも…」

「汚れんじゃん!すぐ出せないし。しかもバレそー。目ん玉の傷に銅流し込んだらあーしん家の合鍵かんせー みたいな。ウケる」

ウケている場合ではない。回答がサイコパスに寄ってきている。目ん玉に銅を流すな。

「これチップだし、DNA残らんし汚れたらネイルオフで済むし。まぢ超便利だよ爪〜。気分もアガるしさ、もえぴもやってみ?笑」

ギャルなのに!DNAとか言わないで!気分が上がることが付属品扱いだなんて聞いてない。

「殺人の解像度高すぎですよ(笑)誰か恨んでる人でもいるんですか?笑」

「いやいない!笑」

その一言にホッとする。ギャルの明るさが戻ってきた。そうそうその感じ。

「今はね。あーしに恨まれたやつは存在できないからさww 即消しwww」


そこからはタピオカやTikTokなど当たり障りのない話をして解散した。あの一言から終始魂を握られたような感覚があり、「もえぴどしたー?笑」と心配されたが、味のしないフラペチーノをすすって精一杯の笑みを浮かべるしかなかった。


私の脳裏には、一本だけ綺麗にネイルオフされた左中指の映像が焼きついている。

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