ゲームの英訳をしてみた話

こんにちは。角刈書店のふわふわです。

ゲームマーケット2019春も終わったのでゲムマの振り返りまとめようと思いつつ、ゲムマ前に書こうと思ってはいたけれども全然手が出せなかった翻訳の話を書きたいと思います。

上にあるのは翻訳の話とは無関係な埼玉に降り注ぐ光を捉えた写真です。

誰のためのnote?

「ゲームの翻訳をしました」という話を書くのですが、その前にどんな人のために書くかということを記しておきたいと思います。

このnoteは自分の作品を日本語で作り、それを翻訳したい(もしくはしてもらいたい)という方の為になればと思っております。

どちらかというと自ら翻訳しない方の為に文章を書きたいと思っています。

以下にくじらだまさんのゲームの翻訳をした話を書きますが、友人のAprilやJames NathanやRandの手助けなしでは終えることができなかったと思います。この場を借りて改めて感謝したいと思います。感謝。

なぜWhy翻訳したか?

今回は角刈書店で出したデンポー!!ではなくてくじらだまさんが出してるCMYK!第2版NEBUTA BEATの翻訳をお手伝いさせていただきました。

全国のくじらだまファンの皆さんはすでにお気づきかと思うのですがCMYK!は既に翻訳されているのですよね。翻訳されているものをなぜ翻訳したかという話を始めるには過去編を少し挟みます。

そう確かあれはGWの二週間前...北海道ボドゲ博に行く人たちが大喜利をし続ける地獄のようなDMグループがあるのですが、そこでくじらだまさんが

「英語のルール、文章的に合ってるのかチェックしてほしい」

と言ったので前々から英語できるアピールをしてマウントを取り続けてた自分としては「チェックぐらいならできますよ〜」と言って微マウントを取りに行きたくなったのがきっかけです。

CMYK!はGoogle翻訳の後にチェック頼んでるものがあって多少の追加分がある、NEBUTA BEATはこれからGoogle翻訳と教えてもらいました。CMYK!はおそらく第二版で変更があった数行程度になるだろうし、NEBUTA BEATはルール把握していておそらく説明書短くなると分かっていたので気軽に翻訳のチェックと修正を引き受けました。

実際やってみたらサクッと終わりました。

はい嘘ですー。めちゃめちゃ苦労しました。CMYK!の翻訳はほぼ丸っと書き直したんですよね。何故かというとチェックして修正するよりも、文章を翻訳し直した方が説明書の翻訳として楽だったからです。

理解可能な説明書の条件として(1)文章として理解できるかと(2)全体として理解できるかという条件があるかと思います。

(1)は翻訳前の意味を損なっていなければある程度担保できるかと思うのですが(2)は全体を通して用語が統一されているかとか、矛盾して聞こえてしまうような文章がないかをみないとなかなか難しいと思います。

Google翻訳は前後の文脈を汲み取って翻訳しているわけでは無いようで、文章全体として理解するのがとても難しいと感じました。

これは英語が自分の第一言語では無いためそう感じるだけであって、英語を母語として話す人にとってはどうにか理解できるものなのかもしれません。

しかし、英訳する目的は英語を母語として扱う人のみではなく英語を話す人全般にルールを伝えるためにあるべきかと思い、CMYK!第二版はほぼゼロからルールを翻訳することにしました。CMYK!初版の翻訳を見てGoogle翻訳への期待がゼロになったのでNEBUTA BEATも丸っと翻訳しました。

翻訳の方法

一般的に文章を翻訳するときに何通りか方法があると思います。

(1)翻訳会社に頼む
これが王道なんじゃないかと思うのですが、コスト的に厳しい面がありますね。文章量にもよると思うのですが、コストをかけて翻訳しても元を取れるのかというところが非常に厳しいのではないかと思います。また、丸投げしてしまうと「この翻訳本当に合ってるの?」というのを確認するのが難しいかもしれませんね。

(2)(無料の)機械翻訳ソフトで翻訳する
コスト面的に最も現実的で、最も手軽に行われている方法かと思います。ただしこの方法は翻訳のクオリティとして不安が残ってしまう方法かと思います。Google翻訳をした説明書をつけたゲームを「英語ルール付き」と言って海外から来た人に売るべきなのかという話題を少し前にtwitter上で見かけましたが、ナシではないと思います。この話については後に詳しく書くつもりです。

(3)自分で翻訳する
最も手間のかかる方法ではあるかもしれないのですが、自分一人で完結できるという意味では、これができると最も楽ですよねー。そもそも自分で翻訳できる人はこのnote読まなくても(ry

(4)翻訳できそうな知人に頼む
くじらだまさんはこの方法でCMYK!とNEBUTA BEATを翻訳したわけですね。どのぐらいお願いするかによるのですが、自らもチェックする手間が有りますね。

(5)誰かが勝手に翻訳してくれる
そんなことあり得ないでしょ?と思われるかもしれませんが、ゲームマーケットで頒布されているゲームに関してはそんなことがあり得ます
人数は多くないのですが、ゲームマーケットで個人が出すようなゲームを楽しみにしている海外ゲーマーがいて、その人たちは自らプレーするために翻訳をして作者の許可をえてBGGにルールを上げていたりします。
正確にルールを把握しようとしているため、説明書の翻訳のクオリティは下手にお金を払ってやってもらうよりも良くなっている場合もあるようですね。
どんなゲームが彼らに選ばれて翻訳されているのかという話をDMでインタビューしたのでその辺りも後述したい気持ちが今あります。体力次第でそこは次回になります。

実際こう翻訳しました

CMYK!とNEBUTA BEATの翻訳は以下の手順で行いました!!

(1)角刈翻訳
(2)英語ネイティブの人にチェック・修正依頼
(3)くじらだまチェック・角刈調整

上の翻訳の方法であげていたものの(3)「自分で翻訳する」、(4)「翻訳できそうな知人に頼む」のハイブリットですね。何故こうしたかというと、自分だけで翻訳する説明書のクオリティに不安があったからです。

英語を学び続けて思うのはネイティブの人が書く文章と、そうじゃない人が書く文章は読み易さが全然違うということですね。ゲームの説明書のような母語(日本語)で書くことすら難しいものを外国語で正確且つ簡潔に書ける気がしませんでした。

ただし日本語は読めるし、英語はある程度話せます。なので(1)で日本語から英語になるべく正確に翻訳し、日本語がそれほど流暢ではない人でもルールを理解できるようにしました。

そして(2)で日本語はそれほど流暢ではないけれども、英語ネイティブである知人に英訳した文章を渡し、ルールを噛み砕いてもらい読みやすい文章に修正してもらうということをやりました。

(2)の変更をチェックして問題ないことを確認した後に最後に(3)でくじらだまさんにチェックしてもらいました。これお願いできるのかわからなかったので(2)のチェック厚めにしたのですが、作者さんチェックをしてもらえると最も確実ですね。日本語のルールを英訳した時点で抜けている、誤って追加されているものも見つかったりします。

具体的にはCMYK!第二版でタイルのオモテウラの概念がなくなったのですが、一版を見ながら翻訳を行なっていたので「ウラ向きで〜」という言葉を使ってしまっていたということがありました。

翻訳をやってみて

翻訳はやはり難しいですね。自分は翻訳家ではないので尚更そう感じたということもあったのですが、英語を話せるかどうかと翻訳できるかというのは全然別スキルになるなと改めて思いました。

今回くじらだまさんのゲームの翻訳をする際に「いくらぐらいかかります?」と聞かれたので「ねぇ、交換条件ってのどう?」と切り出しました。

13才で独り立ちね。私そういうの好きよ。という感じに話がまとまり角刈書店は翻訳を提供し、くじらだまさんにはTシャツの製造を依頼しました。

このTシャツはご自宅のミシンで刺繍してくださったのですが、これ縫えるのしゅごくない?(語彙力無

今回のゲームマーケットで角刈書店のスタッフは全員くじらだまさんが縫ってくださったTシャツを着て接客していました。

双方依頼したいことが会ったので引き受けていただけたし、引き受けられたのですが、気軽にボランティアでできるタスク量ではないかなと思いました

「理解できるように説明書を翻訳する」というのは大変なんですね。

ただNEBUTA BEATのルールを知った時に「これシンプルでめっちゃ面白いから翻訳されるべきだ」と思った部分もあり翻訳することになったので、お金や物が出せなくても翻訳を頼める道はあるのかもしれません。

機械翻訳(無料)ってどうよ?

自分で翻訳できない、他人に頼めない、予算がないという場合は機械翻訳意外の方法を選ぶのが現実的に難しいんじゃないかと思います。少し前に書きましたが機械翻訳の説明書をつけるのはナシではないと思います。

ナシではないのですが、全然推奨はできないですね

今年のゲムマ大阪でのフェドゥッティさんのインタビューで以下の一文が乗っていたのが印象的です。

機械翻訳で作られた英語ルールが入っていることがありますが,それだとルールがまったく理解できないものもあり,そのあたりが気になりました。

翻訳ソフト(特に無料)で翻訳された文章はまだまだ正確性とわかりやすさという観点で使い方が難しいと思います。簡単なルールであれば翻訳ソフトでなんとなく伝わるものもあると思うのですが、複雑なルールになるとなかなかそう上手く行くケースは少ないんじゃないかと思います。

ではなぜナシではないと書いたかというと、先日ゲームマーケット春で話した知人に「何も無いよりはマシ」と言われたからです。確かに日本語のテキストをまるっと渡されるよりは気持ちとっかかりがありますね。

ただし(日本語を読まない)買う側にとって無いよりはマシであっても、実際に人の手で翻訳されて人間がチェックしている説明書とは区別して欲しいとのことでした。

英語の説明書があるから買ったら意味わからなくて積んでるゲームがあるのは誰にとっても好ましくない状況ですよね。買う側としても機械翻訳と知って購入していたのなら読み辛くても納得感あるかもしれませんね。

具体的には英語の説明書がついていますではなくて機会翻訳の説明書がついてますと記載してあると良いんじゃないかなと思いました。

そもそも翻訳する必要って?

翻訳する目的に寄ると思うのですが、必要かと言われると難しいですよね。

海外からゲームマーケットに来る人の数は増えているように感じますし、Board Game Geek StoreやドイツのNice Game Publishingが日本のインディーゲームを購入して販売していたりするようですね。

手前味噌ですが、昨年秋に角刈書店で出した「花と吹雪」はBGGに英語の説明書をアップロードしてあり、その甲斐あってか16個ほど海外のお客様に買っていただくことができました。

これは大変喜ばしいことではあるのですが、目的を何にするかによって翻訳すべきなのか否かが変わってくるかと思います。

16個という数字。これで大凡の利益が計算できる方もいるのではないかと思います。この個数を販売して得られる利益で英語翻訳の労力+英語の説明書作成費用がまかなえるかというと、まぁ無理ゲーですね。自分で翻訳したとは言え説明書作るのめちゃめちゃ大変ですしおすし。

利益を伸ばすという目的だったとしたならば、「花と吹雪」の翻訳はあまり良くない選択肢でした。他に労力を使うことができたかもしれないし、そちらの方が利益を伸ばせたかもしれません。

花と吹雪というゲームを発表した直後に「英語の説明書あるのか?」という連絡がありました。海外のゲーマーから注目を得ているのは非常に喜ばしいことだったし、英語でもプレイできると思っていたので説明書を作りたいなと思いました。実際に遊ばれている様子などをSNSで見ると翻訳して良かったなぁ〜と思います。

ゲームマーケット春で発売したデンポー!!に関しては翻訳していません。英語でゲームできるかテストプレイしていなかったので、そこをクリアしてできそうだったら翻訳しようかなと思っております。

翻訳するかどうか考える際に
* 何故翻訳するのか?
* そもそも英語でプレイ可能か?
という2点については考察した方が良いのかなと思いました。

どんなゲームなら翻訳される

ここで唐突に翻訳の方法の(5)であげていた「誰かが勝手に翻訳してくれる」パターンがどう起きるのかゲームマーケットでゲームを買って自分用に翻訳している人たちにお話を伺ってみました。

どんなゲームを翻訳しますか?

Randさん

I translate things that I have bought, things that look interesting to me
I'm more likely to get stuff that has English rules, but there are some things that just don't yet but look amazing. I'm willing to put in some effort to play them.

自分にとって面白そうに見えて買ったものを翻訳してます。
英語の説明書が付いているものを買いがちですが、説明書なくてもすごく魅力的に見えるゲームがありますね。そういうゲームはプレイするために(翻訳する)労力を費やすことになっても厭わないです。

Jamesさん

For comparison, I haven't purchased a game from Origins or GenCon in at least 2 years. I haven't ordered or bought a game for myself at a game store in the US in nearly two years (I have purchased gifts.) But, I purchased around 25 games from TGM this year, ordered 9 from booth and similar sources earlier this year, and picked up 11 titles from the last TGM.
...
The more the game uses symbols to indicate card effects, etc., the smaller the hurdle. Language that needs translated on cards can be a deal breaker. Tenka Meidou, for instance, has icons on the cards that show their effect. Jumble Order though is a lot of text! (Though I make an exception for his games and bought it anyway.) 
...
So often I am translating them for my own purposes and the designer doesn't know. This year is the first time that we've worked close with the designers to help. (Nebuta Beat, Mitsuhama, Gossip and the City, Madrino). I've offered to help with Zimbabweee Tricks and Time Palatrix, but I haven't seen the PDFs yet, so I will do those when the games arrive.
ここ2年ぐらいアメリカ国内のショップやイベントからゲーム買っていないけどゲムマ春で25個、booth等から9個、昨年のゲムマ秋では11個買いました。

カードの効果がシンボルで説明されていればいるほど、翻訳が簡単になります。カードにたくさんテキストが書かれているものはやらないかもしれません。例えば天下鳴動はアイコンで効果が説明されていますね。ジャンブルオーダーはたくさんテキストがありますね!(例外ということにして買いましたけど)

よくデザイナー達の知らないところで(自分用に)翻訳しています。今年初めてデザイナー達と一緒に翻訳を手伝いました(NEBUTA BEAT、Mitsuhama、Gossip and the City, マドリーノ)。まだPDFを見ていませんが、ジンバブエトリックスとタイムパラドックスも手伝いました。この2つは受け取ったら最新のルールの翻訳をします。

どんなゲームが翻訳し易いですか?

Jamesさん

I also have strong feelings on the formats that rules are available in.
Rules may be available in (a) physical copy (b) an online image (c) an online PDF, but where I cannot copy and paste the text or (d) an online PDF and I can copy and paste the text.
It is many times easier to translate rules in format (d) than the others.
...
One other thing worth noting. We are blessed that so many of the designers are willing to answer questions, even when there is a language barrier. Often I can get 95% of the translation, but have a nuanced question on something and always the designers are very willing and patient to answer questions.
入手可能な説明書のフォーマットがいくつかあると思っています。説明書は(a)紙で印刷されている(b)オンラインで画像として公開(c)オンラインでテキストコピー不可なPDFとして公開(d)オンラインでテキストコピー可能なPDFとして公開。

ほとんどの場合は(d)の状態から翻訳するのが他のフォーマットから翻訳するより楽です。

1つ言っておきたいのは、幸運なことにゲームデザイナー達が言語の壁があるときでもすごく協力的に質問に答えてくれることです。ほとんどの場合翻訳の95%は自分でできるのですが、ニュアンスについて質問したりします。ゲームデザイナーは常に全力で質問に答えてくれます。

Randさん

I often use OCR software, whether Yandex or Google Image Translate. PDFs make it easier to go directly to translating.
And I second that about help from designers! The whole doujin community has been very welcoming and helpful as we have questions.
OCRソフト(Yandex, Google Image Translate)をよく使うけど、PDFが最も楽です。
直接ゲーム作者の手助けを借りたりします。同人コミュニティの作者達は質問に対してとても友好的に答えてくれますね。

お二人の話をまとめると以下の3点が出たかなと思いました。

* 魅力的で言語依存があまりないゲームを翻訳しがち
* テキストコピー可能なPDFがあれば自分で翻訳し易い
* 分からないところは質問していて、最大限答えてもらえるのはありがたい

自分で翻訳する道を探すよりか、実は自分のゲームが魅力的で翻訳したいと思ってくれる方が楽だったりするのかもしれませんね。日本語以外で遊べるか?というのも重要なのかと思います。

「自分で翻訳用意したいけどめっちゃ大変〜」という方は無理して翻訳するのではなくて説明書の画像ではなくてテキスト選択可能なPDFで公開すると翻訳してもらえる確率が上がるんじゃないかと思います。Google翻訳で満足して買っていく人にとってはPDFが公開されているだけでも良いのかもしれませんし。

まとめ

自分個人の見解としては翻訳したいけど出来ないという人は出来る人を探すのがベストだなと思いました。見つからない時はしょうがないのかもしれないのですが、労力かけて翻訳したけれども意味伝わらないものになってしまっていたら本末転倒ですし。各々に得意不得意があると思うので得意なことをやる、不得意なことは頼むが出来ると効率的に勝利点を稼げるのかなと思いました。どうしてもリソースが足りなくて不得意なことをやらざるを得ない場合もあるのですが。勝利点ってなに?

今回も長々と書いてしまいました。お付き合いいただきありがとうございます。「英訳したいな〜」という話を聞いていたし「でも実際どうすれば良いのか」と悩んでいた方とお話ししたこともあったのでくじらだまさんのゲームを翻訳して感じたことを書いてみました。誰かのお役に立てたのであれば幸いです。



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