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BC35「人間関係が苦手な僕がプロデューサーをやれている理由」

テレビ番組のプロデューサーの仕事で一番重要なのが、番組に出演する人を決める”キャスティング”という仕事です。

今回は、その『極めて人間力が必要なキャスティングという作業=プロデューサーという仕事』を僕がなぜやれているのか?という直球なお話です。

僕らテレビプロデューサーが通常ゲストをキャスティングするときには、大きく分けて3種類の方法があります。


1つ目は、普通にキャスティングする方法。

ゲストに出ていただきたい方を決めて、その方のマネジメント事務所に連絡する方法です。僕らは毎週スタッフ全員で行う番組の制作打ち合わせで、どんな人に出ていただくとおもしろいか?を吟味します。通常の番組ですと、ラテ欄を見たり、視聴率表を見たり、他局の動向(この番組はこんな人が出演していておもしろかった!等)をディレクターやアシスタントプロデューサー(AP)、構成作家を交えて話したりしながら、視聴率が取れそうなキャスティング案を煮詰めていくのですが、『オトナの!』(現在は『オトナに!』)の会議はちょっと趣が違います。スタッフ各自が今気になっている人や会いたい人をそれぞれ挙げていくのです。
『オトナの!』のディレクター陣は基本的にはフリーの制作会社のテレビマンなので、皆、他局も含め番組に複数携わってます。というか以前から述べているように『オトナの!』は独立採算番組です。カッコよく言えば独立採算番組、インデペンデンス番組ですが、カッコ悪く言えばそれは“お金がない!”ってことの裏返しです(笑)。なのでぶっちゃけ、番組専属のディレクターを雇えるほど、一人一人にお給金が払えません。むしろ他の番組も複数やってくれ!ってお願いしてます。その際僕はよくディレクター達には、「すまないけど、お金は他番組で儲けてくれ。その代わりこの番組では、あなたの会いたい人ご一緒したい人と思う存分仕事をしよう!」と言って説得しております(笑)。

ですので会議では各個人の好きな漫画だったり、映画だったり、音楽だったり、という話が結果多くなるわけです。そこから“今回の収録はこの方に出演交渉しよう!”となります。

ちなみに僕も含め各ディレクターもクリエイターの端くれですから、やはり他ジャンル含めクリエイターの方に俄然興味があります。出演が決まって事前取材にお伺いしても、どんなジャンルの方でも、「どうやって日々その作品(仕事)をクリエイトしているのか?」というところに関心が行きます。例えば俳優さんをキャスティングしても、通常の番組のように、俳優としてや個人としての日々の日常や所感を語ってもらうというよりも、クリエイターとしての俳優、その方がどうやって普段映画やドラマなどの映像制作にコミットしているか?というプロの観点で語ってもらうことが多くなります。このクリエイター目線での観点の違いが、『オトナの!』が通常のトーク番組とは一風変わったお話が多くなる理由でもあるのです。

2つ目のキャスティング方法は、いわゆる番宣ゲストです。

「番組内で宣伝してもよいので、ゲスト出演してください!」というキャスティング方法はどの番組でもお馴染みの方法です。でもこれも、この『オトナの!』は通常の番組とちょっと変わっていて、というのも深夜2時近くの番組ですので、ぶっちゃけ視聴率はあまりよくありません。高くても2%です。何を放送してもどんな方に出演していただいてもだいたい2%です。ですので、例えばドラマの番宣で出演していただいても、宣伝する方のドラマの方が通常視聴率が高くて、波及効果・拡散効果という意味で意味があるのか?という議論が湧いて、「この番組出て番宣しても意味ないだろ?」って結果出演不成立ってケースが考えられるわけです。
ちなみにそういうケースでご出演が決まらなかったケースが今までも過去に数回ありましたが、しかしそれでも『オトナの!』は番宣で出ていただけるケースは圧倒的に多いのです。というか最近ではむしろ『オトナの!』に出演したい!と逆にラブコールをもらうことが多いです。

先日もある大手芸能事務所の、今をときめく人気女優さんから映画の番宣のタイミングで出演のオファーがありました。僕はびっくりしました。そんなどの番組でも出演してもらいたい(普段バラエティー番組になかなか出ない)人気女優さんが、わざわざ視聴率2%の『オトナの!』に出なくても良いんではないか?

僕は担当のマネージャーに言いました

「彼女なら、ゴールデンのどの番組だって、出演OKしますよ!ていうかむしろぜひ出演してください!ってなりますよ」。
そうしたらそのマネージャーさん曰く

「はい、実際この映画の宣伝ですでに4本のバラエティー番組の番宣稼働は決まってるのですが、どれも似た様な話ししかしてないので、僕はもっと彼女が普通にクリエイターとしての女優の話をして、彼女の違う一面を知ってもらいたいんです。なのでむしろ『オトナの!』に出演させたいのです。」

もう僕は本当に感激してしまいました。そこまで言っていただけるなんてプロデューサー冥利に尽きます。その時は結果スケジュールが合わなかったのですが、まもなく出ていただくことが決まっております。楽しみです!

でもそれは一体なぜなのでしょうか?

答えはいたってシンプルです。

普通の番組ではしゃべらない(しゃべれない)ことをこの『オトナの!』ではしゃべってもよいから!なのです。それができるのも逆に言えば視聴率が良くないからなのです。
正確に言えば、“視聴率が良くないから”、というよりもむしろ“視聴率で番組の価値を判断していないから”、さらに正確に言えば“視聴率で番組の価値を判断しなくてもよいような番組スキーム=独立採算で番組を作っているから”なのです。視聴率にとらわれないから、法律を犯していなければ基本何を喋っていただいてもよいです。
以前電気グルーヴの石野卓球さんとピエール瀧さんがご出演した時には、ずーっと下ネタでした。電動バイブの話しを延々してました(笑)。

一方ASIAN KUNG-FU GENERATIONの“ゴッチ”こと後藤正文さんとBRAHMANの“鬼”ことTOSHI-LOWさんがご出演した際には、震災復興と原発の問題をお話ししていただきました。それらは全く趣は異なりますが、どちらも最高におもしろく最高に素晴らしいオトナのトークでした。僕はその何でもしゃべれる『オトナの!』という場所で、自分の今話したい思いを好き勝手に、そして時には自分を律して話すことができる人がオトナだと思っていますし、そんなオトナ方々に『オトナの!』へのご出演をお願いしています。ですので通常の番組ならよくある、収録後の編集に際して「ここをカットしたい!」「ここをカットしてくれ!」というようなやりとりもこの番組ではほとんどないのです。

そして3つ目のキャスティング方法です。それは“知り合い”です。

他の仕事やビジネス上で知り合った方や、その方の「あの◯◯さんはおもしろいですよ!」ってお話を通じて実際にお会いしてみた方とか、みなさんが普段の日常や仕事で行っているような、人との出会いから発展していく人間関係のつながり=縁です。ダイノジ大谷さんとマキタスポーツさんのご出演はこの“縁”がきっかけでした。この話も詳細は今度別の機会に書きますが、僕は実はそれまで大谷さんとは仕事をしたことがなかったのに、かわった“ご縁”で2ショットで飲みに行くことになったのです。

そしてこの3つ目のキャスティング方法“縁”というものこそ、最近僕が身につけたキャスティングテクニックなのです。これを身につけて僕はやっとプロデューサーになれた気がします。それは一体どういうことでしょうか?

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