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第149段「異化の侵入」

今日は大学で履修してるある授業での僕の発表の番だった。

ある課題について話すのだが、せっかく社会人25年目で大学に通ってるわけだから、普通の若い学生が話すこと以上に、僕はその課題について「その課題と私」というテーマで(敢えて)自分のことを付け加えて話そうと思い立った。

それは、その課題だけを研究して分析して話すのでは、僕がせっかく社会人として大学にいるにしては平凡だと思ったし、その課題と自分が25年間どう触れ合って、どう人生に影響されて、それが今の仕事にどう繋がってるかを話すことは、僕が若い学生たちにむけてただ普通に発表するのより、その学生たちへの人生のヒントくらいにはなるだろうと考えたからでもあった。

ちなみに作って配った資料の最後には「異化の侵入」と記した。

異化とは、見慣れたものを“見たことのない変なもの”に変える力。

その課題が「異化」と符合するテーマでもあったから、若い学生の中に侵入した異色な存在である中年の僕がいて、その僕の話す特異な内容が普段の授業に侵入して、敢えて異化的な存在になることで、むしろ本来のこの課題自体にも実は符合していると思ったからでもあった。

実際、発表中はその課題について当てはまるトピックも交えて話したつもりだ。
自分のことやテレビのことを確かに話してるけど、決してこの講義の趣旨に逸脱するようなことは話していないつもりだし、実際僕の個人的なエピソードは、全部その課題に結びついてるような話ばかりを心がけたと思う。

学生たちはかなり真摯に聴いてくれた(と思う)。
普段僕が講演とかトークイベントでやってる以上に、僕にはある種の手応えを感じたくらいだったから。

そして僕の話が終わって、教授が言った。
「角田さんのことはよくわかったから、課題についても話して欲しいんだけど・・・。」

そうか。
どうやらこの異化の侵入は教授にはお気に召さなかったみたいだ。
僕は「すいません。」と言い、その後少々、その課題自体の再説明を加えて、すごすごと話を終えた。
僕の話の後に、各学生が討論する。
東大の学生たちは、流石に頭が良いので、その教授のお気に召さなかった雰囲気を慮り、その後はその課題だけの討論が続いた。

僕は、その討論を聞くふりをしながら、結構落ち込んでいた。
授業時間が終わるまで、なんかぼーっとしてたと思う。
一生懸命やった分、なんか無力感を感じたし、むしろ自分の至らなさを感じたりもした。
教授にしたら、いい歳した僕のやったことは、どうやらこの授業には要らないものだったんだろうな。なんか邪魔だったんだろうな。なんか気に食わなかったんだろうな。

結局、異化は要らないってことなのだ。

授業時間が終わり、そそくさと部屋を出た。
すると廊下でひとりの学生から声をかけられた。
「今日の角田さんの話、めちゃくちゃおもしろかったです!」

ああ、やっぱ響いてる人には響いてるのだ。
よかった。
僕にとって、その学生の感想がとても嬉しかった。



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