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BC36「デジタル作業がテレビ番組をつまらなくした!?」

深夜のトーク番組『オトナの!』は2012年の1月スタートですので、現在の『オトナに!』まで6年が経ちました。深夜番組が6年以上続いているというのは、なかなか珍しくて、これもひとえに見ていただいている皆さんのおかげです。今日はそんな『オトナの!』をはじめとするテレビ番組のデジタル作業についてお話したいと思います。

みなさんも薄々感づいていると思うのですが、テレビ業界というのは、一見デジタルな感じがしますが、実は特に現場は極めてアナログな業界です。今でもタレントさんにスケジュールを伝える時にファックスでやりとりしている芸能プロダクションもあります。収録現場では出演者に見せるカンペと呼ばれるスケッチブックはマストアイテムですし、台本は“紙”でできています。なので、収録の前日はADさんが一睡もできずに、台本を何十部もコピーし、その台本を見ながらひたすらマジックでカンペ書きをして、寝ないで翌日の収録に臨むのです。

とはいえ、僕自身がADをやっていた20年前と現在では、同じような作業でもデジタル化されたことも多くあります。例えば台本は昔は構成作家さんが原稿用紙に手書きで書いたものを、ディレクターが修正しそれを印刷屋さんに前日の深夜に入稿して、印刷して製本してもらって翌朝届けてもらっていました。やがてワープロ専用機が登場し、自分たちで文字を打つようになりました(ちなみにTBS局内は東芝のルポを使っていました)。そしてその後経費削減のあおりを受けて、印刷屋さんを使うことも減り、コピーと製本を自分たちでするようになりました。ちなみに今でもドラマだったり大きい特番だったりとかは印刷屋さんにお願いしてちゃんとした立派な台本を作っている番組もあります。
ということはですね、現在はデジタル化して便利になったとも言えるのですが、昔は原稿が修正して完成すれば、あとは印刷屋さんが台本を完成状態にしてくれたわけですから、ADの仕事は印刷屋さんに前日深夜に原稿を預けるまででよかったのです。しかし今はその後にコピー機の前に張り付いて何時間もコピー作業をしなければならなくなり、結果作業がものすごく増えたわけです。人間の作業を軽減していく目的が技術革新だと思うのですが、技術革新の結果人間の作業が増えていくという、矛盾の典型です。

同様なことは、編集作業でもありまして、字幕を入れるテロップスーパーというのは、僕がADだった頃は紙焼きでした。ディレクターが、その画面に入れたい文字のテロップ原稿を何枚も書いて、それを写植屋さんに入稿して、白黒の紙焼きに字幕を一枚一枚印字してもらうのです。その紙焼きを使って編集室で画面にスーパーインポーズ(多重焼き付け)するわけです。ちなみに編集は夜通し翌朝までやっているのですが、写植屋さんは、深夜11時頃の終電までには帰ってしまいます。なので、ADはディレクターに原稿を写植屋さんが帰るまでに、書き上げてもらわなければならず、さらに写植屋さんには帰らないで原稿が上がるのをひたすら待っていてもらわなければなりませんでした。なので普段から写植屋さんに無理がきくように良い人間関係を作っておくのがADの大事なアナログな仕事です。僕はスタジオ収録時の弁当が残った時はよく写植屋さんにこっそり差し入れてました。ちなみに、ロケバスやタクシーの配車係の方にもよく残った弁当こっそり差し入れてましたね(笑)。
こうして写植屋さんに入稿できて、どうにかテロップ原稿が完成すれば良いのですが、ところがテロップ原稿は何枚にもわたるわけですが、編集作業をしているとディレクターは急に追加でテロップ字幕を入れたくなるわけです。でもその時点ではもう写植屋さんは帰ってしまっていて、追加でテロップを発注することはできません。そこでADはどうするかというと、ハサミとノリの登場です。今まで使ったテロップの中から、使いたい文字たちを見つけて、ハサミで切って、ノリで貼って、お手製のテロップを切り貼りで作ったものです。でもどうしても見つからない文字があったりして、なんとその時は・・・手書きしてました(笑)。究極のアナログ作業です。書きたい文字を大きく拡大して線引きと鉛筆で書いて、それのアラがばれないように縮小コピーして、白黒反転コピーして、他の文字の中に貼り付けていました、なつかしい!


では、現在ではどうしているかというと、編集室にテロップを入力するPCとソフトがあるのです。その“テロップマシーン”を使って、ADがキーボード入力します。いつ何時、どんな文章を入れることも可能です。なので最近の編集作業では、テロップ原稿を書くということもなく、そのまま編集作業をしながら、出演者さんが言った言葉フォローや、ディレクターが考えた解説等をそのままその場でADが文章を打って入力していくことが多いです。そういう意味では写植屋さんが帰らないように配慮するというアナログ仕事は無くなったものの、結局AD自らが大量の文字を打たなければならないわけで、ADの時間的物理的作業は圧倒的に増えたと思います。

そしてデジタル化で一番変わったことは、編集作業自体がだいぶ変わりました。それはMacの“ファイナルカット”の登場です。編集作業というのは通常、事前にディレクターが自ら行うオフライン編集作業と、その後ポストプロダクションと呼ばれる編集室で編集オペレーターと一緒に完成させる本編作業に分かれます。以前は、収録したテープ素材を、一旦VHSテープにダビングして、それを“出し”にしてディレクターがVHS編集機で使いたいところを抜き出していくオフライン作業をしていました。例えば60分番組で、収録した素材が120分あれば、それを70分くらいまでざっくり編集するのがオフライン作業です。そしてその荒く編集した“荒編”を見ながら、ポスプロの編集室でオペレーターと一緒に本当の収録素材を“出し”に使って、60分の“完尺”にし、さらにエフェクト(特殊効果)作業やテロップ入れを行い、本編編集していたのです。


ちなみにその時、テープ素材のどのシーンを使ったのか目で見て分かりやすいように、VHSにダビングするときにタイムコードというものを画面に入れてダビングして、それでオフライン作業するのです。よくアダルトビデオの流出モノとかで、画面の上部にタイムカウンターみたいなのが表示されているのを見た経験をされた紳士の方もいらっしゃると思いますが(笑)、あれがこれです。なので、タイムコードが画面上にあるアダルトビデオは、本当に“荒編”が流出した可能性が高いものです(笑)。
ところが今は、このオフライン作業をディレクターがMacの編集ソフト“ファイナルカット”でやることで激変しました。収録した素材をデジタイズしてファイル化したものをディレクターがMacで編集します。ファイナルカットではカットしたり付け足したりが簡単なので、荒く編集するというよりも、むしろオフライン作業の段階で、完尺(OA時間に合わせたもの)まで仕上げてから、ポスプロ作業で、難しいエフェクト作業やテロップ入れのみを行うようになりました。腕がいいディレクターによっては、エフェクト作業やテロップ入れもファイナルカットで自分で仕上げてしまうので、編集室では最後に放送局に納品するテープにダビングするだけくらいって場合ももはやあります。ファイナルカットでまさにファイナルまでディレクター一人で仕上げられるようになってきているのです。これはすごいことです!

そういう意味で、ファイナルカットで編集ができるようになって、近年の番組の完成度は高くなったことは間違いありません。でも僕は、だから最近のテレビ番組はつまらなくなったと、ここであえて断言しちゃいます!なぜかといえば・・・


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