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森達也『A』『A2』

20代前半にみたドキュメンタリー映画『A』『A2』は確実に僕を変えた作品だった。
物事を一方向から見ることの危険性、日本の同調圧力の気持ち悪さ。オウムというパブリックエネミーとされた者へのヒステリックな扱い。
3.11後、公敵となった東電と原発の是非などの状況で、自分が少しばかり冷静にいられたのはこの『A』に出会っていたからかもしれない。
もしこの映画を見ていなかったら、東電=悪という図式に安易に乗っかりtwitterで嬉々として「社会正義」の名の下として安全地帯から非難ツイートをしていたかも。
また、ドキュメンタリーとは中立性を保ち真実のみを描き出すといった当時のドキュメンタリー幻想も、実はドキュメンタリーとは制作者の意図、思いやメッセージを伝えるためのもので中立などあり得ないという事を教えてくれたのも、森達也の『ドキュメンタリーは嘘をつく』だった。
 マイケル・ムーアの『ボウリング・フォー・コロンバイン』が日本で公開された時、「あまりに偏っていてドキュメンタリーではない」といった、現在考えれば見当違いの批判も当時はあったのだ。
『A2』だったか、オウムの信者が道場を設置した地域で、地域住民たちがオウム追放運動を行う。これが異様でまた滑稽、オウム側が礼儀正しく話し合いをしようとしているのに対して、ヒステリックなまでに騒ぎ立てる住民たちとの対比は強く印象に残る。
そんな双方が断絶したばかりかというと、住民たちが設置した監視小屋で、毎日信者と顔合わせているうちに、両者が親密になり、信者が立ち退いて行く日に、信者の体を気遣ったり、「寂しくなるよ」と声を掛けたりと、この場面にすこし安堵した。
巷間伝えられている物事の対立構造を、当事者間に肉薄することで対立構造を解体させてくれるというのは、自分の先入観、思い込みが、いかに恥ずかしいものなのかを思い知らされ、また後の考え方に活かされていくことができるという意味で、非常に重要な作品だったと思う。
ほか、書籍では高橋秀実の『からくり民主主義』が、沖縄の基地の問題などで同じような思いを抱いたのでおススメです。


1998年 日本
監督:森達也
A2
2002年 日本
監督:森達也

A マスコミが報道しなかったオウムの素顔
森達也/〔著〕
角川文庫 679円
ISBN:978-4-04-362501-7

からくり民主主義
高橋秀実/著
新潮文庫 680円
ISBN:978-4-10-133554-4

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