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蛍光灯の魚

化粧品カウンターの周りを無重力の私がグルングルンくぐり抜ける。それは蛍光灯の魚のようで、ネオン管のような色彩に太刀魚の銀のキラメキが乗った細長い様。カウンタの下を重たい空気を感じながらグルングルン回る。上も下ももう無くて、グルングルングルングルン、苦しいような気持ちいいような、でもグルングルングルングルン回る。身体の形などもうなく、空気との境目もなく、ただ目が回っている。グルングルンとしている。睡眠薬と、向精神薬と、痛み止めと、睡魔と、気分の悪い物事と、自分の身体の壊れた部分と、何故か頻繁に怪我をして見る血と、なんだか色んなことが入り混じって関係して関係なくてグルングルン、グルングルンしている。機嫌を取れない。人のも自分のも取れない。身体はもう自分のものではなくなってしまったみたいだ。水面から口が出たときだけ息を吸う。空気の中にいる時は息ができない。息を止められてブラックアウトする寸前のシュワシュワした感覚を思い出す。グルングルンしている。グルングルンしている。このまま社会復帰なんかできるんだろうか。人として生きていけるんだろうか。皮膚はまるでサイズの合わない手袋みたいだ。指先の皮が余って思うようにものがつかめない。肺は借り物の空気入れみたいで重たくて仕方がない。ただ目が回っている。ぎりぎり吐きそうなほど目が回っている。目が回っている。

サポートされた資金で卵を買って、燻製にします。