5年後の臨床現場にフィットする医療AI創り Medical Imagingが切り開く医療の未来③

「5年後の臨床現場にフィットする医療AI創り」に向けたWorkshop発表のまとめ
医療AIを5年後の臨床現場に普及させるには、「技術」のWhatだけでなく、それに関わる「人間」と「資本」も大事で、どうして使うかのWhyと、どうやってシステムを利用・普及していくかのHowもクリアする必要があると分かった。

Why (臨床的意義や解釈)
問題:実際に臨床的にAI導入が必要な分野は何がある? そもそも早期診断が必ずしも患者にとってプラスではない場合はどうする?

解決策:病気の数は無限にあるし、疲れによる見落としもよくあるので、診断そのものを取って代わるよりは、見落とし防止のためのアラート(自動セカンドオピニオン)。特に、CTやMRIを取る前の、血液データや胸部レントゲン、マンモグラフィなどを使った救急外来や検診での見逃し防止は役に立つはず。他に、放射線治療のセグメンテーションや脳神経外科のナビゲーション、褥瘡のエコー評価など、現場で需要がありそうなところがかなりある。また診断ではなく、ノイズ除去などで医師のワークフローをイージーにしてくれるのも役立つだろう。患者がAI診断を受け入れるかどうかは、インフォームド・コンセントの元にやればいい

How (データ取得)
問題:日本は匿名化など倫理審査が物凄く厳しく、大規模医療データの集積・共有に向いていない。AIの技術進歩スピードを考えると、審査基準が緩い代わりにシステム利用のモニター責任がある医療AI先進国アメリカなどと違って、日本では医療機器として使うのは難しいのでは。さらに診断基準が変わる度に(たとえば、中咽頭癌・肺癌のTNMはそれぞれ2018・2017年に変わった)、薬事法審査やプログラム修正が必要。またデータを取得する診断機器や対象(有病率)が変わる度にも、大量データやアノテーションが必要となる

解決策:日本が遅れを取らないためには、倫理審査を諸外国並みに緩くする必要がある。現状は海外の方が当然研究や治験などがずっと早く進むので、日本だけでやるより海外企業とタイアップした方が良さそう。また人間ドッグや検診は日本や東アジア独自の文化なので、そこでは優位に立てるはず。診断基準や診断機器の変更などに対応し、データセット・タスク依存性を打開するには、電子カルテをデータベース化し、共通のデータベース作成のフローを確立する必要がある。データ・アノテーション取得のコスト削減には、GANを用いた教師データの水増しやDomain adaptationなどのテクニックが有効であろう

How (収益化)
問題:そもそも医療AIを導入するメリットは病院にある? コストは誰が払う?

解決策:難しい問題だが、たとえば人員削減に向けたAI病院を作ったり、X線などのメーカーがフォーマットを統一し、AIサービスの一環を行うなどが有り得そう。グーグルなど多くのIT大手企業が医療AIに取り組んでいるのは、プライバシーデータを集めるためだし、医師不足の地方や途上国などの市場を特に狙っていそう

How (安全・安心)
問題:感度・特異度やデータセット依存などを考えると、精度は見かけ上のものに過ぎず、どうやって安全を担保できる? さらに現場で使うことを考えると、医師や患者はどう安心させる?

解決策:画像だけでなく、白血球の値や症状などのデータもできるだけ多く取り入れる。また、交絡因子によるバイアスを排除できるような技術を開発する。見逃し防止という意味では、バランスも取りつつ、なるべく感度を特異度より優先する必要があるだろう。患者を安心させるには、結果の解釈といった医療AIユーザーへの教育も工夫しなければならない