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顧客起点のUXカイゼンを実践する上でブチ当たる壁と突破法

皆さんこんにちは。ギャプライズ鎌田(@kamatec)です。

最近この本を読みました。

Amazonのマーケティングカテゴリで1位(2019年6月現在)にもなっており、読んだ方も多いのではないでしょうか?

著者の実体験に基づくアプローチは非常に実践的なものであり、一度読んだだけでは吸収しきれないほど何度も読み返したい名書でした。

その中でも特に印象的だったのが、本のタイトルにもなっている「顧客起点」のアプローチです。

グループインタビューやアンケートから生まれる集合化されたアイデアではなく、たった1人=N1から生まれる意見を元にアイデアを生み出すことの重要性が著者の実体験を元に描かれています。

でこの本に盛大に影響された僕が今回の記事で伝えたいのは、このN1分析をUX改善に応用した場合に起こりやすい障害と乗り越え方です。

なぜそんな記事を僕が書くのかというと、自身の領域としているWebマーケティング、特にWebサイトにおけるUXの分析・改善という分野において、比較的このN1に近いアプローチを主としているからです。

具体的には、僕が所属するギャプライズという会社では「Clicktale」というWebサイト上のユーザー体験をそのまま動画で可視化するというサービスを提供しています。

下記のような感じで実際のユーザーのスクロールやタップがそのまま録画されます。

※この動画はユーザーがログイン画面で迷ってエラーをはき続けている動画

Webサイト分析においてはGoogleAnalyticsやAdobeAnalyticsを用いた定量分析も当然するのですが、定量分析だけだと例えば特定ページの離脱や直帰が悪化したことまではわかるのですが、「なぜそうなったのか(Why)」がわからないので改善の「アイデア」が出てこないということが多々あります。

そこでこういった「ユーザー動画(behavior)」や実際のユーザーへのインタビューなど、定性的な情報を元にした改善アイデアを立案し、アプローチするという流れをとってます。

このアプローチをかれこれ5年ほど様々な業種のクライアントと取り組んだ結果、かなり高い確率で成果を出せているので結構効果的だなぁと思っているわけですが、このN1アプローチをする際に、いくつか乗り越えなければいけないハードルもありまして、今日はUX改善にN1分析を活用する方法と合わせて、実際に取り組む際に発生するハードルの乗り越え方についてもお伝え出来ればと思います。

ぶつかる壁1:「何聞けばいいの?」

N1からアプローチする際に、まずはこの「N1の対象となる顧客」を理解する必要があります。

ですが実はここでいきなり止まります。「直接顧客と対面したことがない」というWeb担当者さんが実は結構多いんです。顧客を「コンバージョン数」で捉えていて、「1人の人間」として見ていない。

でこういった顧客との対面経験がない中でターゲットについて考えても、大抵は「30代前半の女性でー」「エリアは首都圏でー」みたいな集約されたデータの話しになってしまい、顧客目線の意見も出てこないし顧客に何を聞いたらいいかもわからないという状況になります。

なのでまずはこの状態から抜け出さないと「顧客起点」なんてのは毛頭無理なわけです。ではどのようにすればこの状態から次のステップに進めるのか?

解決策:顧客に触れてる人に聞く

上記に対する解決策はというとすごくシンプル。顧客をわかっている人に聞けばいいのです。具体的には、

・BtoB、ツーステップなら一番売れてるセールスパーソン
・コールセンターを持っているなら一番評価の高いオペレーター
・社長、顧客視点持ってない社長ってあんまり会ったことない

とかです。ポイントはとにかく社内トップレベルの人に聞くことです。

本当は「顧客に直接聞く」のが一番いいと思います。ただ直接聞くのは結構難易度が高い。本音を引き出すのはかなりのインタビュアー能力が必要です。

なので最初は最も顧客を知り尽くしている社内の一流に聞くのがオススメです。噛み砕いて言語化してくれますし、顧客の「言葉に出ない声」みたいな所も教えてくれたりします。

僕らもプロジェクトスタート時には必ず「社内で一番売っているセールスパーソンをMTGに同席させてください」とかお願いしています。

言われると「なんだそんなことか」と思われることかもしれません。でもこれ、思いの外やっていない会社さんが多い印象です。

個人的にTwitterチェックさせてもらっているベイジの枌谷さんのツイートでも以下のように言及されていたのですが、

組織構造の問題だったりとか原因は色々あると思うんですが、これをやるだけでも実は他社との差別化になるケースもあるのではないでしょうか。

ともあれまずはWeb改善のチームに顧客起点の考え方をマインドセットとして持ってもらうこと。これが最初のステップかなーと思います。

ぶつかる壁2:「それ何人いるの?」

では前項の課題をクリアし、ユーザーの声やユーザー動画から「改善アイデアの種」が出たとしましょう。次にかなり高い確率で出てくる声、それがこの「それ何人いるの?」です。

こちらに関しては、冒頭にご紹介した動画を例に少しご紹介します。

こちらは「ログインページでログイン出来ず迷って離脱した」動画です。この動画は実際にユーザーが見ていた画面解像度も忠実に再現しているのですが、よく見ていただくと問題が隠れています。

じつはログインにミスするとエラー文言に押し出されて「パスワードをお忘れですか?」のリンクが見えなくなってしまうのです。

この動画によって具体的な解決策として見えてくるのは、

・パスワード忘れのリンクをエラー後も押し出されないように上部に詰める
・このエラー文ではアドレスとパスワードどちらが間違っているかわからないのでわかるような表記に変更する
・メールアドレスは会員情報と一致するかリアルタイムで照会する

とかが考えられるわけですが、この動画だけで話しを進めようとすると、ほぼ必ず下記のような返しが飛んできます。

「これと同じ原因で離脱した人何人いるの?」

経験の長い担当の方がいる場合は、過去の経験から感覚的に「これは結構問題になっていそうだ」という嗅覚が働いて、即座に改善に動いたりするケースもありますが、大体は上記の質問に対して的確な答えが出来ずに、そこで改善が止まってしまいます。

僕はこれをWeb業界の「知らぬが仏病」と勝手に呼んでいます。

例えば駅で切符の買い方がわからない外国人の方がいて、それを駅員の方が見つけたとします。まあまず間違いなく声を掛けますよね。

ところがどっこい、Webの世界では「それで離脱する人1%もいないから無視しよう」という判断が平気で行われる世界なわけです。

もちろん経済的合理性から考えたら上記の判断はわかりますし、オフラインと違って改修にお金もかかりますからすぐに動けないことはわかるんですが、なんか悲しいですよね。

特に先に上げたログインの例なんかでいえば、買いたいからログインしようとしてるユーザーを逃すわけで、レジまで並んでくれているお客様をひどい接客で逃すのと同じようなものです。

でも駄々をこねてるだけでは先に進めません。このハードルを乗り越えて具体的アクションに起こすためには何をしたらいいかというと、

解決策:定量化する

解決策はシンプルで、定量化しないと進まないなら定量化すればいいんです。すでに定量化出来る仕組みがある会社さんの場合はスムーズに進むのですが、問題なのは定量化しようにも出来ないパターンです。

定量化が出来ないという会社さんの場合、大きく2パターンが想定されます。

1.定量化(計測)出来る環境が整備されてない
2.なんでもかんでも計測しすぎて見るべきポイントを見れていない

1に関して具体的にはGoogleAnalyticsの目標設定もされてないとか、ボタンクリックなどのアクションに対してイベント設定がなされていない状況です。これはちゃんと計測できるように設定してもらうしかありません。

ただ、仮に設定してデータ取れるようにしても、ポイントを絞れていないが故に計測したデータを活用しきれていない状況を結構見ます。

めちゃくちゃ優秀なデータサイエンティストが社内にいる場合は雑多なデータからそれを整理してインサイトを見つけることも可能でしょうが、大抵そうはいきません。

で実はこういう状況に対して、N1を起点とした課題、仮説から定量化のアプローチをすることは非常に有効です。

例えば先程のログインのケースでいえば、

「ログインエラーの文言が吐き出された回数」

をイベント化しておけばいいわけです。そうすれば最初の質問、「それ何人いるの?」という質問に対して「ログインページ訪問者の○%に同様の状況が起きています」と明確に答えられるわけです。

課題が事前に見えているからこそ、定量化することに対する価値が一気に引き上がります。

N1分析はあくまでアイデアを見つけるためのきっかけに過ぎません。実施後の効果検証を考えても、予め定量化できるように計測しておくことは重要なポイントです。

ぶつかる壁3:「それ何%上がるの?」

では課題も見えた、定量化も出来て一定のボリュームがいることもわかったとしましょう。その次に出てくるのがこれ、「それ何%上がるの?」です。

先のログインのケースで言えば、仮にエラー表示をわかりやすくしたとしても、それで「ログインが出来る」かまではわからないわけです。

何%改善するのかまではわからない。わからないなら効果の期待もできないしやらない。終了です。

これに対して、もちろんある程度過去の経験値から似たような事例を引き出して類推をかけることは可能です。

ただこれは経験上あまり意味はありません。仮に同じアパレル業界だったとしても、そのブランドにおける既存顧客率やブランド認知率なんかによっても異なる結果が出るからです。

そう。わからないんです。じゃあどうすればいいのか?

解決策:テストする

これは最終的にはやってみるしかありません。冒頭にご紹介した本の中でもN1分析から見つけたアイデアを「コンセプトテスト」を通して検証することを勧めています。

Webのいいところというのはこの「テスト」が容易に出来る点です。紙媒体やテレビでテストしようとしたらある程度まとまった金額が必要になりますが、Webであればスピーディかつ精度の高いデータをテストによって集めることが出来ます。

なので費用対効果をゴニョゴニョ考えてるより、その間にテストしてしまったほうがいいし、そうやってスピーディーに動ける会社は僕のクライアントでも例外なく伸びています。

少し話しはそれますが、この「テストする重要性」について、僕が毎回勝手に語っているのは、メルカリさんの「Sold商品を消すと全KPIが異常に下がった」という事例です。

個人的にメルカリさんほどしっかりデータをとってる会社さんって中々ないと思っているんですが、上記の例にも象徴されるように、これだけデータを取っているメルカリさんでさえ、やっぱり最後はやってみないとユーザーがどう動くかわからないわけです。

上記の記事はテストの面白さがめちゃくちゃ詰まった良記事なんでぜひ読んでみてください。

読んだらテストしたくてウズウズしちゃうんじゃないでしょうか。

まとめ

N1を起点としたUX改善というテーマで書かせてもらったんですが、要は「顧客起点」と言っても「定量化しない」ってわけではないんですよね。

「起点」がN1からなだけなので定量分析もちゃんとやるし、テストもやる。

N1のいいところは集約されたデータよりもずっとカンタンに「具体的なアイデア」が出やすい所かなと思います。

いくらGoogleAnalyticsを見ても改善アイデアが思いつかないという方は、ちょっとデスクを離れて顧客と触れてみてはいかがでしょうか。

それではまた次回。
ギャプライズ鎌田(@kamatec)がお送りしました。


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