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刑事事件で弁護士って本当に必要なん???

前回のおさらい!

 前回の投稿で、
 ①「日本の刑事裁判の有罪率が99.9%であること」
 ②「警察等が被疑者を特定した事件のうち、刑事裁判にまで至るのはだいたい3割くらいであること」
 の2点を主にお話しました。
 そして、よく、「こんなに有罪率が高いなら刑事事件で弁護士なんていらないのでは???」等の疑問を耳にします。
 そこで、今回は、刑事事件における弁護士の必要性について考えてみたいと思います。

刑事事件における弁護士の役割って何???

 私個人としては、刑事事件において弁護士が果たしている又は果たすべき役割はなくてはならない非常に重要なものであると考えています。そして、個人的な意見ですが、刑事事件において、弁護士には大きく分けて4つの役割があると思います。

1 無罪を目指す。
 いくら有罪率が99.9%と高くても、冤罪を生むようなことはあってはなりません。被告人の無罪を信じて犯罪の成立を争い、無罪を目指すことも極めて重要な役割です。

2 量刑の軽減を目指す。
 犯罪の成立自体は争わないが、量刑を軽くすることを目指すという役割もあります。実務上はこの役割を担うことが一番多いと思います。1との違いは、犯罪の成立を争うか否かです。
 そして、1と2は矛盾する活動であるので、2つを併用することは基本的にはありません。刑の軽減を求めることは、犯罪が成立することを前提とする活動だからです。犯罪の成立を争いつつ刑の軽減を求めた場合、犯罪の成立を否定する弁護活動の説得力がなくなってしまうことが多いと思います。

3 起訴前弁護
 1と2が裁判になって以降の弁護活動であるのに対して、3は、裁判になる前(検察官が被疑者を起訴する前)段階での活動になります。
 実際上、この活動は極めて重要です。
 なぜなら、前回の投稿や冒頭でも述べたように、警察等が被疑者を特定した事件のうちで刑事裁判にまで至るケースが3割くらいということは、約7割は刑事裁判にならずに身柄拘束が解かれたり、捜査終了等になっているということだからです。
 そして、この起訴前弁護は、刑事裁判にするか否かを判断する検査官に、「今の証拠関係では確実に有罪にすることは難しい」等と思ってもらうというゴールへ向けられた活動になります。起訴前の弁護の例としては以下のようなものがあります。
(1)身柄拘束(勾留等)を解く
  捜査機関側にいると打ち合わせもしにくいし、何かと捜査機関に有利。
(2)接見
  取り調べにどう応じたら良いか等のアドバイスや手続き等の説明。
  弁護士の場合、24時間365日、基本的にはいつでも立会人なしで接見できる。
(3)取り調べ方法等に対する抗議等
  接見の中で被疑者の話から是正すべき捜査が行われている可能性がある場合には、警察署長や検事正に対して抗議することもあるようです。
(4)被害者との示談、告訴の取下げ等
  裁判にするか否かの判断には被害者の処罰感情の強さも考慮される。示談を成立させることは被害者の処罰感情を和らげる機能がある。
  また、告訴されていることが刑事裁判にかけるための条件になっている犯罪もあり(名誉毀損罪、器物損壊罪等)、その場合には示談等によって告訴を取り下げることができた場合には、刑事裁判に移行する可能性はゼロになり捜査が終了になる。
(5)調査
  松潤の主演ドラマ「99.9」の中で松潤は非常に精力的に事件の調査をしていました。捜査機関の収集した証拠だけでは断片的な内容しかわからないというときには、調査をするということになります。

4 被疑者・被告人の最後の理解者
 被疑者・被告人は、本当に孤独で、不安な日々を送っていると思います。
 息子が凶悪事件の被疑者となってしまった場合を例に取れば、社会やマスコミから家族もバッシングを受けて、表立って被告人である息子を信じているとも言えない状況も多いと思います。そうすると接見には誰も来てくれず、被告人は「自分は家族に見捨てられたんだ」「誰も自分のことなんて信じてくれないんだ」とより大きな孤独感や不安感を抱えることになってしまうことがあると思います。
 そして仮に、全世界の全員が敵になっても、最後の一人になったとしても(歩いていて突然罵声を浴びせられたり、怪文書が事務所や自宅に届いたりしても)、被告人の弁護人だけは、被告人の意見に耳を傾け、寄り添う必要があるのです。
 この点に関して、以前刑事裁判官が、誰かの「極悪人を弁護することに良心が苦しくなったらどうしたら良いですか?」というような内容の質問に対して、「それができないのであれば、刑事弁護人をやる資格はない。直ちに辞任すべきだ。被告人が頼れるのはあなたしかいないのだから。」と明確におっしゃっていた姿がとても印象的でした。

刑事事件における弁護士の重要性!!!

 仮に上のような弁護士の活動がなかったら、(刑事裁判にかけられた事件数ではなく、)警察等が被疑者を特定した事件のうち、99.9%が有罪になるという事態も起こりかねません。こうなってしまっては、警察等が直感的に犯人だと思った人が犯人に仕立て上げられてしまうということだって起こりかねません。また、誰も寄り添ってくれる人がいなくなってしまった被告人が最後には人生を悲観して自殺するしかないという心理状態に陥ってしまうというケースだって生じかねません。
 このように、刑事事件における弁護士の仕事は、被告人の、さらにその被告人のご家族あるいはまたその先の人々の人生に多大な影響を及ぼすものです。有罪率がいくら高くても、刑事事件において弁護士が果たしている役割は非常に重要なものであると言うことができると思います。
 以上より、「こんなに有罪率が高いなら刑事事件で弁護士なんていらないのでは???」という疑問に対する回答としては、「刑事事件において弁護士は必要!有罪率が高いからこそ重要な役割もある。」というものになるかと思います。
 

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