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なんで「文脈価値」って大事なの?考え方から整理してみた!

こんにちは。
ブランドの熱狂的なファンを作るためのマーケティングや、企業におけるソーシャルメディアの活用を中心に支援しているトライバルメディアハウスにて、BtoBマーケティングを担当している亀井です。

マーケティングの現場では、「文脈」という言葉がよく聞かれるようになりました。英訳するとコンテクスト。
コンテンツイズキング、コンテクストイズクイーンとか言われています。

コモディティ化の進んだ現代におけるマーケティングでは「文脈価値」の重要性がとても高まっています。
なぜ「文脈価値」が重要なのか、そもそも「文脈」とは何なのか?
自身の理解を深めるため、できるだけわかりやすく書いてみるということにチャレンジしてみます。

機能的価値、情緒的価値、自己実現価値

「文脈価値」という言葉を説明するために、対となる(なぜ対になるのかは後ほどご説明します)3つの価値について説明します。

突然ですが、パン屋を想像してください。
今はまだ「食パン」しか存在していない時代だと仮定します。
そんな時代の中、店主は「あんパン」という画期的製品を発明しました。
あんこが入っていて、パン生地で包まれ焼かれていて、黒ごまが乗っているパンです。甘くて丸くて美味しいパンです。

試しに作って売り出してみたら、これが大ヒット。
まだ競合はいない。
だから店主はあんパンをいっぱいつくることにチャレンジします。
作れば作るほど売れますからね。

しかし、「あんパンが売れている」という情報を聞きつけた他のパン屋さんも、そのお店オリジナルのあんパンを開発しました。
そしてどんどん他のパン屋さんが、あんパンを売り出し始めたのです。

最初にあんパンを開発したパン屋の店主は困ります。
「うちのあんパンは、どうすれば競合より売れるだろう?」
これがマーケティングの始まりです。

パン屋さんはまず、「こしあん」で作っていたあんパンを、「つぶあん」にして売り始めました。
「こしあん」にはない、つぶつぶの食感が大ヒットします。

しかし、他のパン屋さんはすぐに真似をします。
「つぶあん」だけじゃなく、他にも「白あん」のあんパンや、揚げたあんパンまでもが登場しました。これが、機能的価値での差別化です。

しかし、あんパンを製造するパン屋さんが爆発的に増えた以上、味や形や作り方を追求するだけでは、他のあんパンと明確に差別化することが難しくなってきます。
そこで、あんパンを開発した最初のパン屋さんは、あることを始めます。

作っていたあんパンを「朝に食べると今日も1日ハッピーあんパン」という名前で売り始めました。ハート型のラッピングも施しました。

このあんパンはかわいいパッケージで、若い女の子に大ヒットしました。

あんパンの形や味では違いが生み出せなくなったので、「かわいい」という感情を持ってもらうことを狙ったのです。これが情緒(感情)的価値での差別化です。

今度は他のパン屋さんが「夜食でも満足あんパン」とか「おやつあんパン」みたいなものを作りだします。
しかも、あんパンだけでなく、メロンパンやカレーパンなど、パンの種類も爆発的に増えました。「朝に食べると今日も1日ハッピーあんパン」も、サンドイッチという競合に悩まされるようになります。
時代は流れ、食べる物の選択肢がたくさん増えてきた、ということです。

そんな状況を嘆きながら、店主はまた違うあんパンを開発します。

このあんパンは、過疎化の進む村から仕入れた小豆を使っていました。高めの価格設定を行い、売上の一部をその村に寄付するというものです。
『買うと過疎化の村を救えます。あなたはヒーローになれます。』そんなメッセージで販売を開始しました。それが自己実現価値による差別化です。

「〜な味、〜な形、(~な機能)」で差別化する「機能的価値」。
「〜な気持ちになれる」で差別化する「情緒(感情)的価値」。
「〜な自分になれる」で差別化する「自己実現価値」。

あんパンという製品に、価値をどんどん追加していくことで差別化をしてきたのです。

グッズ・ドミナント・ロジックとサービス・ドミナント・ロジック

いきなりカタカナ英語が出てきて、すみません。
冒頭で、「機能的価値」「情緒的価値」「自己実現価値」は、「文脈価値」とは対なるものだと説明しました。

何が対となっているのか?それは前提条件です。前提となっている考え方です。
「機能的価値」「情緒的価値」「自己実現価値」は「グッズ・ドミナント・ロジック(GDL)」を前提条件とした考え方です。
文脈価値」は、GDLと対をなす考え方である「サービス・ドミナント・ロジック(SDL)」を前提条件とした考え方なのです。

では、GDL、SDLとは何でしょうか?

グッズ・ドミナント・ロジック(GDL)は、「モノ」は「お金」と交換されるという考え方です。
パン屋でお金を払うという行為で、あんパンを手に入れる。
そして食べます。そうすると「モノ(あんパン)」はなくなります。
だから、買った人は「消費者」と言われます。

サービス・ドミナント・ロジック(SDL)では、ここが不思議で、すこし理解が難しいポイントなのですが、「モノ」という概念がそもそも存在しません。「サービスの集合体」だと捉えます。
※ここで言っている「サービス」は、サービス業の「サービス」とは異なる、くらいに認識しておいてください。

例えばあんパンだと、以下のような「サービス」の集合体だとみなされます。

・丸い形である
・餡がこしあんである
・柔らかい
・甘い味である
・大体200kcalくらいである
など。

そしてSDLでは面白いことに、「あんパンを買う人」もサービスの集合体だとみなされるのです。

・パンを持つことができる
・舌で甘みを感じられる
・パンを噛んで食べることができる
・あんパンを知っている
など。

人なので、「スキル」くらいに認識いただいたほうがわかりやすいかもしれません。
あんパンを手に入れてから実際に食べるまでの過程において、SDLではあることが起こります。

「あんパンが持つサービス」と「買った人が持つサービス」が掛け合わさって生まれるものが「価値」だとみなすのです。
(正しく書くとサービス同士が交換される、と表現されます。ただ、掛け算で認識したほうがわかりやすいと思います)

たとえば、数多のパン屋を渡り歩いたレポーターと、はじめてあんパンを食べる5才児とでは、「舌」が違いますよね。
甘さの感じ方や、餡の舌触りの感じ方。
同じあんパンを食べても、違う感想を抱くはずです。

あんパンではなく、カメラであっても同じです。
とっても当たり前なことなのですが、同じカメラでも、人によってどんな写真が撮れるのかが異なります。
どんなものを撮影するのかも異なります。
そもそも、撮らずにインテリアとして置かれているだけということもあり得るかもしれません。
カメラが持つ「サービス」と、使用する人の「サービス」の掛け合わせ次第で、生まれる価値が異なります。

だから、SDLでは「消費者」という言葉を使いません。
サービス同士を掛け算して価値を生み出す、「価値共創者」と呼びます。

SDLにおける文脈価値とは

GDLでは、モノがお金と交換されます。
だから、モノにどんな価値を付加していくのかに着目されがちです。
しかし、モノに価値を付加するだけでは、差別化は難しい。
それはあんパンの例で説明したとおりです。

しかしSDLでは、どんな価値が生まれるのかは
・(サービスの集合体としての)製品
・(サービスの集合体としての)使用者
この2つの掛け算次第です。
便宜上、ここからは製品と使用者という言葉を使用します。

ここから、やっと文脈価値の話をします。

SDLでは、掛け算によって価値は変わると説明しましたが、この価値が発生する瞬間は一度きりではありません。
使用している間、脈々とサービスは交換され続けています。

つまり、使用を続けるたびに(経験や体験を重ねるたびに)、価値は使用者の中に積み重なっていくのです。

この積み重なっていた価値を総称して、文脈価値と呼びます。
しかし、適切な文脈の中でないと、文脈価値は認識も発揮もされません。

どうゆうことでしょうか?
解説のために、まずは「文脈」について説明します。

文脈という言葉をGoogleで検索すると、以下のような結果が出てきます。

文における個々の語または個々の文の間の論理的な関係・続き具合。
文の脈絡。

私は文脈を「シーン」だと解釈しています。
ここで言っているシーンとは、映画の一コマのようなものです。

製品と使用者だけでなく、周囲の環境、他の登場人物、小道具すべてで表現されている一コマです。使用者の心情も含みます。
一コマと言っていますが、画像ではなく映像だと思ってください。

具体例で説明します。
「コンビニのあんパン」で考えてみましょう。
以下、2つのシーンがあります。

朝、会社に向かう途中でコンビニに立ち寄る。
そのままパンコーナーにまっすぐ向かい、いつものあんパンを手に取る。
向かいにある飲み物コーナーから野菜ジュースを手に取り、レジへ。
オフィスについたらデスクであんパンを開封し、食べる。いつもの味。
続々出社してくる同僚に挨拶しつつ、片手にあんパン、時々ジュース。
もう一方の手でマウスを操作しながら、メールをチェックをする。
彼女と一緒に高級レストランにやってきた。
おいしいコース料理に舌鼓を打ちながら、夜景を楽しむ。
テーブルの中心ではろうそくの火が揺れている。
渋めの赤ワインを飲みながら少しほろ酔いになってきたところで、とうとうデザートの時間。
そして僕は、運ばれてきたコンビニのあんパンを口に運んだ。

1つ目は、日常的にありえるシーンですね。
でも2つ目、明らかにおかしいですね。
これは文脈が成立していません。

ただ、文章のロジックはおかしくありません。
しかし、高級レストランでコンビニのパンが出てくるのはおかしい、と私たちは暗黙のうちに理解しています。

この違和感が、実はとても大切です。

コンビニのあんパンがいかに美味しくて食べやすく、朝食に最適だという価値を感じていても、2つ目のシーンではそれはなんの価値も発揮していません。

逆に言うと、朝食の例のように適切な文脈であれば、「コンビニのあんパン」であっても、「いつもおいしい」であるとか「さっと食べれる」であるとか「糖分を脳に補給できる」であるとか、積み重なった文脈価値を認識することができます。

つまり、自社のブランドや製品がもっとも価値を感じてもらっているであろう文脈を知ることは、とても大切なんです。

適切な文脈の中であればあるほど、使用者は文脈価値を感じます。
そして経験と体験を、適切な文脈の中で重ねていくことで、文脈価値はさらに大きく・増加していきます。

バイク乗りが自分のバイクと夜景の写真をInstagramにアップすることも、あるアニメ好きの人が聖地巡礼をすることも、テーマパークに女子高生がみんなでコスプレしていくことも、すべて使用者が自分が描く文脈(シーン)の中で、文脈価値を感じているからなのです。

自分のブランドや製品が、どんな文脈で活きているのか、把握することの大切さが伝わったなら幸いです。

Instagramは文脈が切り取られている場所

Instagramで自社ブランドのハッシュタグを調べることは、手軽にできる文脈の調査の第一歩です。(もちろん向き・不向きの商材があります)

自社のハッシュタグは、どんなハッシュタグと一緒に使用されているのか、
どんな画像で投稿されているのか。
それらを収集・分類し、想像して「文脈(シーン)」のレベルまで落とし込むことができれば、自社の製品に感じてもらっている文脈価値に気づくことができると思います。
そしてコミュニケーションのアイディアにもつながっていくでしょう。

コミュニケーションの方向性は2つです。

・今すでに在る「文脈」と「文脈価値」を広げていく
・新しい「文脈」と「文脈価値」を伝えていく

競合との関係も踏まえながら、方向性は決定されます。
もちろん、競合が得意としている文脈とその中の文脈価値を知っておくことも重要です。

まとめ

・モノにどんどん価値を足していく考え方と、そもそも文脈価値は対の前提条件から生まれた考え方である。
・SDLでは、価値は製品と使用者それぞれのサービスの掛け算で生まれる。価値は共創されている。
・SDLの考え方では、価値は使用する(体験し、経験する)ことで使用者の中に積み重なっていく。それが文脈価値である。
・文脈価値は適切な文脈(シーン)の中でしか発揮されない。
・自社ブランドや製品が、もっとも文脈価値を感じてもらっている文脈を知ることが大切。
・まずはInstagramの分析からはじめるのがお手軽。
・自社と競合の文脈を知った上で、コミュニケーションを考える。

気づいたら5000文字を超えていました。
ここまでお読みいただいた方は、ありがとうございました。

※実は一度消えて書き直したのは、別のお話(´;ω;`)

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