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態度が太々しく、すぐ駄々をこね、気に入らないことがあれば肉肉しい頬を真っ赤にしてワンワン泣き、怒ると歯をむき出して腕に噛み付いてくる。

そんな妹が小さい頃から大嫌いだった

その奔放な性格のためではない。私が独占していた親や親戚の愛情を、生まれるだけで簡単に奪っていったから。

幼い頃、祖母の家に遊びに行くと、黄色い声とメロメロな視線を浴びて、順番待ちの親戚に次々に抱っこされるのが恒例となっていて、そのアイドル的な扱いを私はまんざらでもないと思っていた。

4歳の夏、異変が起きた。愛情と関心の向かう先が、わかりやすいように妹にシフトチェンジしたのだ。

きかん坊の妹は、まんざらでもないような表情を浮かべてそれを全身で享受していて、私はその様子を蚊帳の外からボーっと眺めていた。

妹はなんでも私の真似をした。服装、髪型、習い事、部活、将来の夢。妹は何をやっても平均くらいで、私は要領の良さと頭の良さで妹を優っていた。そんな妹を不甲斐なく思った父と母は甲斐甲斐しく妹の世話を焼いた。

そんな妹を近くのスーパーに連れて行って、店内の商品棚の裏に隠れ、お姉ちゃんが居なくなったと大泣きさせたり、宿題が終わらなくて泣きべそをかいてる妹に頑として手を差し伸べず、隣の部屋から観察したりして、ひそかな快感を得ていた。


そんな妹は立派に成長し、結婚式の日を迎えた。平均的なホテルでありふれたドレスを着て晴れの日を迎えている妹を、なんとなくおもしろくない気分で見ていた。

式の最後、妹は両親への感謝の手紙を読みはじめた。最後にお涙頂戴で締めくくる結婚式の進行を選んだ妹を、心底ダサいと思いながら手紙を聞いていた。

ひと通り両親への感謝の意を述べ終わると、妹はすこし間を置いて、急に涙声になり、"そして、お姉ちゃん"と言った。

私は凍りついた。結婚式ビデオのカメラマンが寄って来る。

妹は "今までライバル心を持って、お姉ちゃんを飛びこそうとして頑張ってきました。だけど、無理だとわかりました。"と、号泣しながら言った。

大きく、カチカチに固くなっていた塊が、一気に液化して外に流れ出ようとして出口が詰まり、息が吸えなくなった。それでも流出を諦めないドロドロをなんとか外に出そうと、顔が歪んだ。4歳から溜めてきた何か。


今でも妹が憎たらしいことは変わらない。文句ばっかり言ってていつも偉そうなくせに、何かあるとすぐ泣きついてくる、めんどくさい妹。

でもほんの少しだけ、おおらかな気持ちで接することができるようになった気がする

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