見出し画像

マツダ3 XD Burgundy Selection SKYACTIV-D 1.8

2018年11月の発表を見たとき、こりゃいよいよアクセラに乗り換える時が来たなと思ったものである。
手頃のサイズはそのままに、自慢のデザインは進化しているように見えたし、インテリアの造形も素晴らしい。なにより実用が不可能とすら言われていたSPCCI(火花点火制御圧縮着火)を採用したエンジンを搭載するときた。購入の触手が動かなきゃクルマ好きじゃねえ、などと勝手に自分へハッパをかけて息巻いていたほどである。

それにしても個人的にはアクセラが登場してからの15年は、アクセラを好きであり続けた年月でもあった。
新型が登場するたび、いの一番にディーラーへ赴き、試乗をするのは定例行事にもなっていたし、カタログを持ち帰り、ヨメに見せ、秒の速さで捨てられてもくじけなかった。これほどまでアクセラに対してタダナラヌ愛情を炸裂させているのにもかかわらず、悲しいぐらい縁がないクルマ、それもまたアクセラなのである。

じゃあアクセラがマツダ3に名前を変えたら縁も向いてくるのでは? と期待していたのだが、結果は同じ。やっぱり縁はなかった。
2月にスルッとプジョーに乗り換えた愚か者に縁もへったくれもない。次世代エンジン「SKYACTIV-X」搭載車の発売が10月って時点で意気消沈してたじゃないかお前は。
親が決めた結婚についつい乗ってしまった愚かなわたし。あの人と暮らしていたら…ああ、琢朗さん(誰?)みたいな現状なのであった。

琢朗さんと充子(だから誰なんだ)の行く末も気になるところだが、それはさておきマツダ3だ。
今年に入ってから東京オートサロンをはじめ各地で少しずつお披露目されていたようだけれど、個人的にははじめてホンモノを見たのが今回のタイミング。

ぐるりと眺めると、キャラクターラインを廃した影響なのか全体的にカタマリ感があり、先代より引き締まって見える。高レベルに品種改良したラッキョのようでもある。
写真では重たるい印象を持っていたリアセクションも悪くない。安っぽさも皆無だ。

インテリアは期待通り。むせ返るようなクオリティの塊だ。
先代もなかなかだったけれど、現時点ではこのカテゴリー随一と言っていいだろう。素材の使い方もいい。欲しくさせる勘どころをキッチリ掴んでいる。
デザインのためのデザインをせず、奇をてらわずに使い勝手をきわめた印象も好感だ。
統一されているというスイッチのクリック感が気持ち良い。ブラインドタッチも容易で、使用する優先順位をよく考えて配置されていると思う。
物入れの場所やサイズも適切だ。収納スペースを大きく取り、後付けのケーブル類なども極力視界に入らないようにして、インテリアの世界観を崩さないよう配慮した形跡がある。
グローブボックスの開閉にも手を抜いていない。ダンパーがちゃんと入っている。
シートはドイツ車ほど硬くはないけれど、腰回りをきっちりホールドしてくれるただしいカタチ。長時間座ったときどうなるかは気になるところだ。

リアシートは標準的な広さ。ドライバーが長身の場合、少し膝まわりに余裕がない点が気になる。シート下の足入れ性は前席のシートリフター加減に大きく影響されるタイプだ。ちなみに172センチの身長で合わせたとき、若干足入れ性が苦しくなっていた。
天井まわりは外観から想像できる通り開放感は少なく囲まれ感が強い。
安心感につながればいいのだけれど。ただし頭まわりの余裕自体はあるので問題はなさそうだ。
どこかのサイトでリアガラスの天地差が狭いため後方視界が悪いのでは? と懸念されていたけれど、短時間運転した限りでは気にならなかったことも報告しておきたい。

スタートボタンを押せばコロコロとディーゼル特有のビートが伝わってくるだろう、と身構えていたら肩透かしを食らった。ガソリンエンジンとまったく遜色ない静かさだ。エアコンの風の音のほうが耳につく。
サイドブレーキボタンをリリースし、踏みやすいオルガン式のアクセルペダルに右足を添えるとスルスル走り出した。1個目の段差をドシンバタンともせず越えていく。
先代の暴力的ともいえる2.2リッター版とも、力不足を感じた1.5リッター版とも違うスッキリとしたディーゼルエンジンだ。いや、人から言われなければディーゼルと気づかない可能性もある。昨今のディーゼルエンジンはどれも素晴らしい出来のものが多いけれど、それに肩を並べていると思う。
一方、ライバルがどんどん多段化するなかでずっと6速を堅持しているATはどうか。
まったく変速ショックがないわけではないけれど、大きな弱点にはならない仕上がりだ。短時間の試乗では大きなアラは認められなかった。

一点だけ気になったのは、やはりロードノイズ。
もちろん標準以上に良い仕上がりなので心配はないのだが、スタイル重視で履かせている18インチはちょっとオーバースペックかもしれない。カッコいいのは正義でまったく否定はしないけれど(購入するとしたら18インチにするだろう)、大きめの継目では依然としてバタバタしてしまう点はマイナスポイントだ。
17インチ版に乗ったらずいぶん印象が違うかもしれない。真剣に購入を検討している人は比べてみたほうがいいと思う。

それにしても自動車メディアがさんざん事前にレポートしてきた通り、期待以上の仕上がりなのは間違いない。輸入車と迷って正解だ。
高価だという意見もあるかとは思うけれど、290万円プラスアルファでこれだけのクオリティが手に入るのならば十分以上だろう。

年次改良でどんどん最新技術を採用していくのはいままでのマツダの傾向を見ればわかる。これからもそうだろう。おそらくモデルライフの中で8速ATの導入やエンジンのバージョンアップは当然のように実施されるはずだ。
買いどきがわかりにくいという声もあるけれど、結局は欲しくなったときがタイミングなのだと思う。自分を信じていいんじゃないだろうか。

縁を自ら投げ捨てた悔しい身分としては、チャンスがあったらキチンと使うべきなんだと身に染みるほど感じた次第である。