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スズキ ジムニー 660 XC 4WD(5MT) ディーラー試乗

驚いたことに、ディーラーの駐車スペースにちょっと古めのジープ・ラングラーが停まっていた。
一方で泥付きの場所など絶対に踏み入れそうもない、いけすかない犬を抱えたいかにも金持ちそうな家族もジムニーに興味津々だ。
ディーラーでこんなふうに異質の人々が1台の車に注目する光景を見るのはホンダS660以来かもしれない。

なにしろ20年ぶりだ。人によっては次のモデルチェンジに立ち会えない可能性だってある。
彗星に出会うくらいの確率だもの。気持ちの裏側がザワついても仕方がないだろう。

写真だけで眺めていた実物は、思っていたより小さく(軽だもの)、背が高く、ちょっと不安になるくらいシンプルな造形をしていた。
やはり先代より先々代の影響が強く残っているように思える。

インテリアも同様だ。メーターのフォントや色、ベゼル類にある種の懐かしさを感じた。
古臭いという意味ではない。強いリスペクトからこうなったことは愛好者だったらすぐわかるだろう。

空調やカーナビを操作するダッシュパネル中央部は合理的かつタイムレスな世界観で作られており、実直な印象を受ける。
パワーウインドウのスイッチはここに移動したのか。
仕分け地域によってはどのみち手回し式になるんだからこれでいい。

助手席前方のグリップも飾りではなく、本気でカラダを預けられる造りになっていた。
機能的に見える部分がすべてごまかしではなく、本当に使えるようになっているのはさすがジムニーだ。

驚いたのはステアリングにオーディオやクルーズコントロール類の操作をするスイッチがついていたこと。
そ、そこまでしていただかなくても! とやけに恐縮してしまった。
目線を下げると、車線逸脱警報機能や標識認識機能などのスイッチが付いているではないか。
流行りの単眼カメラも付いているし! えー、ジムニー乗る人ってそういうの欲しがるのかしら?
個人的には真っ先に「付いていない仕様」を探すだろうと思った。だって……必要?

後席のシートはほぼオマケ。とはいえリクライニングはするし、12Vのソケットもついている。
少しの移動ならば全く支障はないと思う。
大柄の荷物を積載する場合はルーフにキャリアを付ければいいだけの話。
普段使いならば3人プラス荷物、くらいがちょうどいい塩梅だろう。

幸運なことに試乗車にはMT車の用意があるという。二つ返事でそちらに乗り込んだ。

ニョッキリ伸びた長いシフトレバーからは想像できないストロークの短さに驚きながら1速へ入れる。
車重が重いからか、そもそものギア比がそうなっているからか、非常にトルクが細い。
クラッチのミートポイントが微妙なので(敢えてか?)坂道発進に気を使う。昔のホンダ車のようなセッティングだ。

とはいえ、2、3速と繋げてしまえばそんなことは気にならなくなる。
ウ〜〜ン! と元気のいい音を立てて速度を上げていく。メーターを見ると笑ってしまうほど遅い。
しかし、笑いが止まらないくらい楽しい。
やっぱりジムニー、変わってない! 立派なスポーツカーだ! 口元が緩みっぱなしになる。

ハスラーと違って乗り心地はカタカタ揺すられるし、ステアリングも曖昧だ。
オフロードにフォーカスが当たってるのだから当然だろう。
けれどもそのクセを理解しつつ、丁寧に攻略しながら運転する面白さは、他のクルマではなかなか味わえないだろう。

ニュルブルクリンクが何秒だとか、800馬力を超えたとか、最近のパワーオナニー&セレブ志向のクルマ周辺ニュースは退屈だ。
まったく対極にいるジムニーに乗ると、そんな情報が心底どうでも良くなってくる。
クルマの魅力ってそうじゃない。運転できてナンボ。パワーなんてなくてもどうにかなるんだから。

運転とその楽しさを覚える、という意味ではジムニー(もちろんMT)を教習車にしたいところだ。
ルームミラーも見ずに漫然と追越車線を走る「運転」と、ジムニーを上手に走らせる「運転」はまったく違う。
いかに現代のクルマに無駄なものが多いかがすぐわかる。
そして普段自分がどれだけ手抜きをして運転をしているのかも露骨にわかってしまう。
ジムニーは騙せない。けれども攻略した時の喜びは何倍も大きいと思う。

買わずとも、一回運転してみてほしい。人生観がちょっとだけ変わるかもしれないから。