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トヨタ クラウン2.0 RS(8AT) ディーラー試乗

細長いなぁ……が、東京モーターショーで初めて見たときの感想だったと思う。
同時にちょっと貧弱にも見えた。今までのクラウンにあった重厚さがないというか、なんというか。
マークXです、と言われたら信じてしまう印象だ。
音に例えると「びろーん」だろう。

回転半径を変えず、狭い道でも入れる幅を死守することが絶対条件。
クラウンならではの良心を優先する事情はわかるのだけれど他の方法でまとめられなかったのかしら?

なんで今このタイミングで6ライトウインドウ? 窓がなかった方が重厚さは出たんじゃないのか? アウディA7スポーツバックが羨ましかったの? 外野ゆえいろいろなことを考えてしまった次第である。

先代のイナズマグリルに見慣れて、今やすでに街の風景の一部として感じられるように「びろーん」にも慣れる時期が来るのかもしれない。

ディーラーでもやっぱり「びろーん」だと思った。
びろーんを打ち消すアングルがあるのかも、とクルマの周囲をぐるぐる回ったけれど、ついぞ見つけられなかった。

しかしフロントマスクはクラウンのエッセンスをほどよく取り込み、新しさと上品さが出ていて個人的には好印象を持った。

リアビューは、想像でしかないけれど2年後のマイナーチェンジでけっこう手を入れるような気がする。
保守層の「車格に対して軽快すぎ」の意見をどれだけ跳ね除けられるかがキーポイントかもしれない。

外から見ると低そうに見える天井は、後席に座ってみればさほど気にならない。
身長の高い人は頭上横方向の圧迫感を感じる可能性があるかもしれないが。
足元は言わずもがな。びろーん効果もあって快適そのものだ。

運転席に座ると、視界が異様に良好なことに気づく。シートリフターでシート位置を一番低くして見てもその印象は変わらない。
レンジローバーさながらの光景と言ったら大げさか。
先代では若干ごまかしていたダッシュパネル周りの目立たない箇所の素材も、きちんと統一されていた。
メーター類は凝った構成を採っており、思わず「おお」と唸ってしまった。造形はちょっと子供っぽいんだけどね。

走り出せばそりゃあ静粛だ。クラウンだもの。初めて味わった2リッターターボユニットの音がかすかに聞こえる(聞かせてる演出だろう)。
鼻づまり感なしのコロコロとした良い音だ。ハイブリッドではなく、進んでコレを選びたくなった。

さらに好感を持たせているのは、ステアリングを切ればスッと鼻先が向く絶妙な感覚と、路面の継ぎ目をタタンッと収めてしまう脚とボディのしっかり感だ。
メルセデスやBMWと比べてもまったく遜色ないと思う。

まるでクラウンじゃないみたい。TNGAプラットフォーム、やっぱりすごいわ。
すすんでコーナーの多い道へ飛び込み、さらに遠くへ行きたくなった。

一方で「?」と思ったのが各種インターフェイス類。
操作用と表示用で構成された2枚の液晶パネルが中央に配置されているのだが、これの意味がわからない。

カーナビを操作しようとすると、両方の液晶パネルに同じ地図が表示される。
どっちをいじればいいのか一瞬戸惑うし、そもそも面積が無駄。なんでこんな設計にしたのだろう?
いかにもニッポン的な親切が裏目に出ているといった具合だ。 今やカーナビ類をメーター内に収める動きもあるのに……。

空調とオーディオの調整も、手前の操作用タッチパネルで行うことになるのだが、運転中のブラインドタッチ性がすこぶる良くない。
室内の温度を変えるだけで「ながらスマフォ」と同じくらいのリスクを負うことになりそうだ。

ニュルブルクリンクでかなり走りこんだらしいけれども、高速における操作性に文句はなかったのか。
走り込みでノドがやたら渇いたのか、カップホルダーの位置が異様に最適なのは皮肉である。

余計な御世話かもしれないが、身内のレクサスや、ライバルが採用しているコマンドボタンを採用するべきじゃなかろうか。
「繋がる」をテーマにしてるのにこのあたりに検討のあとがなく、まったく残念なのが惜しいところだ。

しかし、既存のクラウンユーザーと距離をおき新しいクラウンのフォルムを提案したり、コネクト技術に対して本格的に取り組むなどの意欲と勇気が見える点、そして乗り味の素晴らしさは注目と賞賛モノだろう。
鮮やかな色が選択できる点も3大ドイツブランドのセダンにはないアドバンテージだと思う。

素晴らしい部分が目立つぶん、新しさが追いついていない前述のような部分が浮き彫りになっているのが惜しいところだ。
このままトヨタが引き下がるとは思えない。
ライバルが音声認識などを積極採用しているのを横目に、最近のマツダ車のような矢継ぎ早の変更を加えてくるのではないだろうか。
買い時が困るくらいの攻勢を期待したい。