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トヨタ カムリ X (ディーラー試乗・数km)

こりゃ売るほうは大変だろうな……。
短い距離ながらもクルマを動かしてすぐ頭に思い浮かんだのはこのコトバだ。
クラウンより大きいけれど価格は安く、プリウスPHVと同じ価格帯。
店内を見回せば立派に見えるハリアーがちょっと安い価格で展示してある。
気づけば「なぞなぞ」や「とんちパズル」のような絶妙な隙間に放り込まれたカムリ、果たしてどう売るのかちょっと考えただけで胃が痛くなってしまった。

誤解してほしくないのは、カムリが店内に並ぶほかのラインナップよりキャラが薄いわけではないということ。
コンサバに見えてフォルムやボディラインは攻めているし。
むしろ仕上がりは平均以上、いやいやそのレベルよりかなり上の完成度だと自信を持って言える。
プリウスとC-HRに乗って衝撃を受けたTNGAのボディやサスペンションは相変わらずよい。(プリウスよりドアに堅牢感がないけれど)
今回試乗した16インチのタイヤを履く「素」のグレードでは路面の衝撃をコトリとも言わせないから、上級グレードの17〜18インチ装着車でもまったく問題ない乗り心地を披露してくれるだろう。

ハイブリッドシステムは基本的にはクラウンと同じということらしいけれど、こちらの方が新しいぶんかなりリファインされていると思う。
モーター〜エンジンの協調制御に切れ目がないし、安っぽい音もしない。
「+」と「-」のマニュアル操作を積極的にしたくなる部類のものだ。
ハイブリッドが確実に「フツー」になってきていることを実感するとともに、今秋に発表されるはずのクラウンの仕上がりを思うとゾッとする。

インテリアは絶妙な「ひねり」を加えたセンターコンソール部分(すごい造形だ。おそらく今後登場するトヨタ車共通のテイストになるはず)がおもしろいし、先代までのラジカセみたいだったカーナビ&オーディオ周りも進化している。
質感が高い。所有する喜びもありそうだ。

仮に購入するとなれば、ぜひともベージュ/黒の内装をチョイスしたい。ボディカラーは赤がいいかな。パノラマムーンルーフも欲しい……と、妄想しているうちあっという間に450万円の峠を越えていた。妄想ストップ!

で、ハタと浮かんだのが冒頭の言葉だ。
価格の点で比べると若干サイズが小さくステアリングが切れ、値引きが期待できそうなクラウンの背中が見えてくる。
一方で個性にこだわればC-HRやハリアーなどのモデルがチラつく。
店内だけでもライバルだらけ。ああ、レクサスもいるじゃないか。
カムリ担当のひとは(いるかどうかは知らないけど)迷える購入検討者にどんなキラーフレーズをかけて背中を押すのだろう。

CMに登場するターゲットと思しき「80年代、あの頃クルマに熱くなったあなた」はこだわりが強いばかりに面倒くさい。
価格以外の、例えば展示車の色や仕様、CMとの見栄えの違い、鼻くそみたいな機能のスペック差で他のクルマにコロッと翻意するのが特長だ。
同じ店でほかのモデルを購入してくれれば結果オーライなのかもしれないが、他社に流れてしまう危うさもある。
なにしろ同じ価格帯でキャラの立つセダンなんてゴロゴロいることを彼らは知っているのだから。

絶妙な仕上がりだけに買って損はなく、満足度も高いと思うのだけれど、カムリには「迷える子羊」を確実に購入へと誘(いざな)う言葉が見つからない。
内外のライバルを出し抜き、ハートを撃ち抜く「これ!」というプラスアルファが欲しいのだ。80年代を駆け抜けてきた「面倒くさい世代」はカムリのポテンシャルが高いばかりに無いものねだりをしてしまう。マークXと統合する噂もあるからなおさらだ。
CMがあんなに大きなこと言わなければいいのになぁ……。