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「あのねー、僕の部屋はすごーく汚いんよねー。」

何の前触れもなく、ピーターがハッチャンに話しだす。
ピーターの部屋は、掃除しても掃除しても、翌朝には、エライ事になっている事を、自慢気に話している。

「だから、泥棒が入れない部屋なのであーる!!
あっ!!先に入られた……みたいな。」

「どっ…泥棒!!!!」

小心者のゴールドトレジャーは、この言葉にだけにエラく反応していた。

「あんた、警察には行ったんかい??!!」

「あっ、タンポポ食べる??」

話が全く噛み合わず、どちらも話を理解していない様な不思議な会話が繰り広げられる。

「はい。タンポポ100本。」
と、3本のタンポポを100本だと嘘を吐くピーター。

最大級の警戒をするゴールドトレジャー…。

「そりぁ、アンタ、ホンマに普通のタンポポか?…。ホンマに100本もあるんかい?」

小心者な分だけ、警戒心はおそろしく強い。

計算力だけは、若干馬の名残りを残すゴールドトレジャーであった。

「あっ!!いい物持ってきた。」

そう言うと、鞄の中からピーターはスーパーで買ったと思しき、スイカを手にした。

「お…オメェ…それは…。」

いつかお母ちゃんと一度だけ食べた、大嫌いなスイカである。

「はい。種はほじくってやるから、全部食べてね。」

「いっ…いらん。いらん。いらん。」

「はい。あーんして。」

「アガガガガ…。」

魔法にかけられた様に口を開けるゴールドトレジャー。

「ゴクリ。」

飲み込む音がした様な気がした。

「あとは、ワタシの妹らに全部やってくださいや…。
ほれ!!あんちゃんはようけ食べたけぇ、キミらもよばれないや。」

ミルクと、藍姫は、ここぞとばかりにわざとらしく答えた。

「あんちゃん、あんちゃん、ありがと!!ありがとねー!!でも全部お一人でどうぞぉ。そがな美味しいもんは、全部あんちゃんのもんよ!!」

さすがゴルシの子。妹達も賢く頭が回転する。
そして、3頭揃ってスイカが苦手である。

「このぉ…。」

日頃の行いの結果が出た瞬間である。

この直前、ゴールドトレジャーは、放牧への移動時、洗い場に繋がれたゴールドミルクに向かって立ち上がり、威嚇したばかりである。

「おい!!チビ!!」

ミルクは繋がれているので、怖い事は何もない。
シメたもんである。

しかし無視をされ続け、すぐに飽きた。

腹立ち紛れに、ヤギのやぎ子の部屋へ、お父ちゃんを引こずって行こうとするが、

「メェーーーーーーー!!」

の予想外の大音量と、突っ込む姿勢にビビり、慌てて方向転換した。

であるから、結局のところ、トレジャーが仲良くやっていけているのは、ピーターのみなのである。

「あのね、僕はうま年なんよー。」

「へぇー。奇遇じゃないですか!!ワタシもうま年でねぇ。なんや、よぉ、馬とは関わりが深いですわい!!ワハハ!!」

ゴールドトレジャーはとり年であり、関わりどころか、彼は実は馬そのものなのである。

今日も彼はそこには気が付かない。

ここでひとつ疑問がある。彼にとって父ゴールドシップとは…?

きっと、姿形は知らないが、大スターである事は知っている。

知っているかい?
君は父に姿形、性格、賢さまでそっくりで、顔立ちは、叔父のトレジャーマップによく似ている。


その端正な顔立ちは、祖母のポイントフラッグにもよく似ているのだよ。

ねぇ知っているかい?私の母、君のばあちゃんは、
メジロマックイーンの熱烈な大ファンだったのだよ。

きっと、運命はあの時から動き出していた。

ばあちゃんが、狂おしい程に愛したメジロマックイーン。
彼が、君達子孫を、娘である私に託したのかもしれないね。

沢山の偉大なご先祖の存在があり、君が今日ここにいる。

そして違う場所で生まれど、巡り合った血を分けた妹達。

種族は違えど、巡り合った育ての母の私と、君を愛してやまない弟ピーター。

「春ですのぉ…。坊ちゃん…。」

「次は夏だよ。ハッチャン。」

彼らなりの春の穏やか中の一日の風景であった。

並ぶのは馬と人。

でも、一瞬、この子達が人間二人に見えた。

運命の子達。
愛しき息子達。



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