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宝塚歌劇団を初めて観劇した話「BONNIE & CLYDE」

2023年2月8日 御園座 夜公演

 人生初の宝塚歌劇団、生観劇してきました。
 雪組公演、作品は「BONNIE & CLYDE」略称はボニクラでいい様子。御園座も初めて行きました!
 初見だし二階席の隅っこだし雰囲気が楽しめればいいと思って何も買わないつもりで行ったのに、私は帰りの電車にプログラムと金つばが入った紙袋を大事に抱えてほくほく顔で乗ることになりました。

 この先はボニクラ本編の感想ですので、ネタバレにご注意下さい。
 今まで興味はあったのに触れてこなかった宝塚、観劇デビューがこの作品で本当に良かったと思います。

※本当に脚本・演出・歌の内容にも思い切り触れていますので、これから観に行く予定の方は読まない方がいいです。


 元になった、というより同じ題材を扱った映画「俺たちに明日はない」を予習してから行ったのですが、いきなりラストシーンからやるのか!と度肝を抜かれました。やがて車ごと蜂の巣にされる二人の人生の開幕。

 そんな未来を露知らず、現れるボニーの少女時代の姿が本当に可愛らしい。
 プログラム見てもどなたが演じていたのか分からなかった〜〜だ、誰だったんです???
(追記:Twitterで教えて頂きました!愛陽みちさん!!!可愛い!!!)
 これから何者にもなれる可能性を秘めた、無垢で伸びやかなダンスと歌声。
 本当に羽が生えているかのようだったので、のちに現れるテッドに私は共感しまくることになるのですが、無垢な少女がただ夢見るには厳しすぎる大恐慌当時のアメリカの情勢。
 映画ではボニーとクライドは出会ってすぐに行動を共にし始めるので呆気に取られてしまったのですが、ボニクラではこの二人が愛し合う経緯が丁寧に描かれており、第一幕がすごく充実した内容でした。


 キッドにクララと、ボニーとクライドが夢見た理想、そうなりたかった眩しい存在を、あの未来の結末を見せた後に出してくるのがエグい構成だなあとこの辺でもう呻いてました。
 二人ともやっぱ真面目に働いてあの未来回避しようぜ!!!って声かけたくなるけど、真面目に働こうとしてもそもそも職が無いんだもんなあ……。

 ボニーの勝気な性格や振る舞い、自己顕示欲に正直なところ、それでいて夢見る少女性が残るアンバランスさ。
 クライドの立ち姿だけでも醸し出されるアウトローさ、格好つけてはいるけれど粗野な部分が隠せないところ、本当に絶妙な塩梅。
 主演の彩風咲奈さんと夢白あやさんのお二人が本当に素晴らしい。

 そして映画から一番変わっていて驚いた、クライドの兄であるバックの奥さん、ブランチ。
 「俺たちに明日はない」ではブランチは警察の襲撃に奇声を上げるばかりでボニーのように応戦しないし、何もしてないのに夫を通して分け前は欲しがるしで、男がいないと生きていけない女性だと感じたのですが、ボニクラでは職についてて働き者で、社交性もある利発な女性になっていたのでびっくりしました。
 そんなブランチをとにかく歌が上手い野々花ひまりさんがめちゃキュートに魅力的に演じられているからこそ、もうボニーもブランチも絶対に他の男を選んだ方がいいと思うのに、観客の感情を見透かしたかのように「愛は選べない」と二人で歌い出すのがヒン……ってなりました。
 すでに一人でも生きていけるブランチが、地に足のついた生活を捨ててバックと行くことを選んだことこそが「愛する人は選べない」を証明するという、脚本が巧すぎる……。

 バックに対してはこんなに魅力的な奥さんがいるなら大人しくしてな~!?弟の顔見たらブランチ連れて家に帰りな~~!?と第二幕でどうしても思ってしまったのですが、第一幕でクライドと二人でソファに座りながら車を運転しているかのように歌うあのシーンを思い出して、二階席からでも弟のことをとても優しい目で見つめているのが分かってしまったから、弟が可愛くて仕方がないんだなあ…この愛だって尊重されるべきものだもんなあ……と、反論が封じ込められてしまうというか、とにかくあの兄弟のイチャイチャ歌シーン良すぎる。需要しかない。
 バックを演じている和希そらさんが、ソファに足を広げて座る画が格好良すぎるのもヤバかったです。ブランチが惚れ込むことに対する説得力しかない。

 そんな兄のバックもやがて亡くなり、ブランチも逮捕。
 映画や史実とは違いブランチは無傷だったっぽい?ので、まだマシだったのか、むしろ最愛の人の死が見えない方が良かったのか……。とにかく辛い。
 犯行を重ねる度に追い詰められていくボニーとクライド、二人で死ねるのなら悪くないと歌う頃には、自分たちの結末を覚悟していたんだろうな。
 未来を夢見る子ども時代の自分に発砲するシーンはもう背筋がゾワッとしました。
 眩しく輝く未来は来ないし、観客はすでに結末を知っている。最初に見たもの。

 映画ではクライドの舎弟みたいな存在だったC・W・モスという男の子がいて、彼が二人の結末に関わる重要な存在だったのですが、ボニクラではいなかったので最後どうするんだろうと思っていたら、まさかのボニーママの誕生日が結末に繋がるという。
 映画のボニーママは娘が犯罪者になったことにだいぶ諦めを抱いていたのですが、ボニクラではテッドという明らかにまともな相手がいる分、ママがボニーを連れ戻すことを諦めてないのが辛い。
 おまけに娘が死ぬ理由が、自分の誕生日に戻って来ようとしていたからになってしまった。ママ……。

 私は映画「俺たちに明日はない」のギャング団は、犯罪を繰り返すことで何者かになろうとした人たちの話だと思っています。
 一方ボニクラは二人の出会いや家族の話がより肉付けされたことで、善人であるだけでは手に入らないものがある社会に対する反抗を描いているのかなと思いました。だから神父の存在が強調されているのかなとか。信仰だけでは生きていけない、借金はあっても職がない当時のアメリカ。
 クライドの抱えてきた自分を取り巻く貧困社会や時代への鬱屈は、刑務所内で暴行を受けたことでより増大し、ボニーは犯罪者となることで紙面を飾り、それが彼女にとっての成功体験となります。
 バックの家族愛にブランチの献身、ボニーママの娘を想う気持ち。
 元はブロードウェイで上演されていた作品とのことなので、宝塚独自の要素がどのくらいあるのか分からなかったのですが、哀しいほどに夢と愛の物語なんですよね、ボニクラ。
 どの人間関係にも愛があったのに、どこも悲惨な結末を迎えてしまう……。

 本編の幕引きがかなり大胆な構成になっていたのに驚きましたし、直後に始まった華やかなショーにしばらく放心してして入り込めなかった。頭の中でずっとグルグルしていました。
 とんでもないものを見たし、目の前ではすごいショー始まってるし、ちょっと情緒を整えさせて欲しい、と思ったらブランチが綺麗なドレス姿で出て来てバックと踊り始めたので慌てて我に返りました。
 時代背景上、クライドとバックのお二人は地味めな衣装がメインだったのですが、キラキラの衣装だと流石のスター感で圧巻。足が……足が長い!!
 ボニーもここでようやく夢見ていた姿になれたのかな……と思ったら目頭が熱くなりました。ドレスで歌う姿がとても素敵だった。

 初めての宝塚歌劇団がこの作品で本当に良かったです。
 プログラムに載っている主演二人の写真も、実在する写真を元にしている……!と見比べて驚いてみたり。
 終演後にふらふらグッズ売り場(?)に行ってとりあえずプログラムだけでも、と思って買ったのですが、買っておいて良かった。
 素敵な体験が出来てとても楽しかったです。雪組の皆さん、携わったスタッフの方々、素晴らしい一日をありがとうございました。

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