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Vol.5 「背景」という要素も奥深い

先に考えをまとめておきたい話題はたくさんあるものの、最近気になったものも早めに消化しておかないと溜め込む一方なので、適当に書き散らしてみる。今後まとめたい話に繋がる余談になれば良いけど、とりあえずまとめてみます。

「懐かしい街」を散歩して気づいたこと

脳と街との不思議な関係

私のような転勤族や転居の多い方でなくても、久しぶりに歩く道や永らく訪れていない場所など、記憶はあるけど今の状態を知らない場所って、多少あると思います。お住いの近くであっても、日々の通勤や普段の生活圏内から外れてしまうと、身近なところで「知っているけど(今を)知らない場所」って、案外あるんじゃないでしょうか。

わざわざ誰かと連れ立っていくほどでもないんだけど、独りで不意に時間ができた瞬間とか、たまたま近くを通った時とか、用事もないけどそういう場所をわざわざ歩いてみたり、何らかの乗り物で通り過ぎてみたり。あるいは実家に帰った時に、母校まで行ってみたりというのも、けして稀な行為ではないでしょう。

そういう時、その場所に起こった変化や変わらないことに気が付くこともあれば、それまで気が付かなかった新たな発見、別種の気付きというのも、案外得られたりします。

例えば、別種の気付きだと、「人の目や耳は案外、周りのものを認識していない」とか。見ているはず、来ているはずなのに、覚えていないものが沢山ある、とか。脳の徹底的な省エネ、サボりぐせというのは凄まじいもので、認知しているつもりで認知していなかったり、その瞬間は感知していてもすぐに忘れてしまったり。ど忘れをすることもあれば、それ以前に記憶にとどめてもらえていない要素、アピールというのも相当数あるんだ、というのが街歩きをしていたり、電車やバスに乗っている時に気付くことができます。

あるいは、幼い頃や学生の頃に確かに見ていたはずなのに、大人になってから、あるいは今の仕事や知識を得たから認識できる新しい発見なんかも、一つや二つはあると思います。見過ごすはずのない場所にある看板や、すぐそばを通っているはずの会社など、興味がないから記憶にとどまらない、認知されないものも世の中には沢山あるというか、人間の脳はそういう風にできている、ようですね。

認識していない、記憶していないものも沢山ある一方で、意識して見ていないのに覚えているものや、「そう言えば、前からあそこにあるよね」と記憶を辿ると思い出せるタイプの、街角の風景や店舗というのも、ゼロではないでしょう。

店舗の入れ替えや建物の建て替えが多少はある場所にも関わらず、なぜか「ずっとそこにある」。「ずっとそこにある」ことを認識しながらも、深く関わったことがないというか、一回も興味を示したり、利用したことがないお店や施設など。ずっとあるからには、ある程度の固定客を掴み、それなりの利益を上げているだろうに、自分とはたまたま接点を持たず、強い興味を抱くこともなく、強烈な存在アピールをされることもない癖に、認知されていて記憶にとどめられているタイプの、「それ」。

こういうもの、皆さんの中にも一つや二つ、あったりしませんか? そしてそういうものほど、なぜか地域や風景に根付いている気がする、不思議な現象。これが物凄く興味深いというか、奥深い要素だなぁ、と。そこについて、特に結論を見出した訳でもないですが、なんとなく考えたこと、生煮えのまま頭の中に浮かんだことを、少し書き散らしてみようと思います。

脳と認知は、本当に複雑。伝えるって難しい

「背景」って一口にくくっても、簡単なもんじゃない

多少なりとも認知/認識していて、印象の強い弱い、鮮明に覚えているか否かも問わずに記憶されているものと、そこにすら引っかかっていないものと。前者は少なくとも、五感で感じ取っている領域の「背景」にはなっていて、後者はその「背景」にすらなれていない。

背景という表現だけではピンとこないので、対比としては「人物」や「効果音」、「セリフ」や「メッセージ」など、それ以上に耳目や意識を引きつけるもの、より強く印象付けられるものが挙げられるでしょう。背景の手前にあるもの、背景の土台がある上で、背景よりは魅力的に見えるもの、感じ取れるものがあり、主役になる要素を引き立てる、あるいは邪魔しない要素として「背景」がある。

じゃあ、背景は「何もない」のか。完全な虚無や空間なのかと言われると、そうではない。料理における皿であったり、絵画におけるキャンバスや額縁であったり。映像を支える空気感や、文章における行間やフォントなど、「なかったら困る」ものでもあるし、「主張しすぎても困るもの」でもある。まるっきり無意味でも困るし、意味を込められすぎていたり、伝わりすぎても良くなかったり、「背景」の扱いも非常に難しい。

上記はあくまでもコンテンツ制作、フィクションを作り上げる上でのお話なんだけど、意外と実生活の中でも、背景扱いになってしまっている要素や、他人の営みがチラホラある。わざわざ自分の人生に取り込んでしまう、接点を持ちすぎてしまうと脳がパンクするというか、あえて興味を向けすぎないようにしている要素が、皆さんの身近なところにも、いくつかあるんじゃないでしょうか?

積極的に関わることもなく、過剰にアピールされることもなく。それでも、多少は認知されていて記憶にとどめられていて、時には強く印象に残るものより、長いこと忘れずに覚えてしまっていたりする。

もちろん、「ザイオンス効果 (単純接触効果)」的な要素があって、何度も目に触れるから覚える、親近感を抱くというのもある。しかし、それだけなら背景にすらなっていない「他に認識していそうなもの」との違いが分からなくなる。基本的には無視される、認知されない、覚えてもらえない、その度合いは自分たちで認識しているよりもはるかに強いのに、「背景」になり得るモノはそこをくぐり抜けている。これが凄いというか、非常に不思議で仕方がない。

「背景に徹する」のも大変だし、「背景」の奥に広がる世界もある

この二つを持ち合わせているモノや要素が、実は街中に沢山埋もれている?

背景にするなら、「目立たないこと」と「変わらないこと」、その上で「他とは違う覚えやすさ」が必要になるでしょう。目立つ主役になってもいいんだけど、いつもそれ、誰に対してもそのスタンスでは、かえって記憶に残らなくなる。身近な場所や空間に溶け込みつつ、邪魔をしないこと、悪目立ちをしないこと。その上で、そこにあるにふさわしいバックボーンや正当性がきっちり持たせてあること。背景として認識してもらえるまで、何も変えない。その「変わらない」を長く続けられる無理のない構え方、虚勢や余計な力は入っていない状態を見つけていること。いわば、演技をしない演技、元々の持ち味の良さ、質の良さがないと「背景」を務めるには至らない。

おまけに、織り込まれている情報や持ち味がどれだけ良くても、過度に外に漏れないこと、持っている良さを自らアピールしすぎないことも、「背景」には欠かせないでしょう。その街やその人の日常に溶け込んでいることが最優先、気を引き過ぎない、刺激し過ぎないけど、全く刺激しないのも良くない。そのさじ加減が、「背景」の難しさなんじゃないでしょうか。

一方で、ゲームや漫画、舞台の大道具などの「背景」とは異なり、その奥に「生活」や「人」があるのが、現実の「背景」的な要素。自分たちは背景としか認識していないけど、他の人は背景と思っていない、大なり小なり関わりを持っている人がいる。そこに広がる、全く知らない世界、体験、文化がある。積み重なった歴史、そこに入ることで生まれる新たな出会いや発見だってあるでしょう。

それも、それなりに利用される方々がいなければ、長く続く「ずっとそこにあるもの」にはなり得ない。自分たちが知らないだけで、多少なりとも経済が成り立ち、社会やコミュニティが形作られている。周りには強いアピールをしていない、パッと見で分かるような目立つ違い、強い推しや売りがない、分かりにくいにも関わらず。

これは凄いことだし、とても興味深いこと。世の中にあるもの全てがそうではないし、そこまで意図されて考えられている、作られてそうなっているとも限らないけど、つぶさに見ていけば面白い発見が眠っているような気がします。

認知されない「やり方」も多々ある。「背景」というのも一つの手段?

目立とうとしても認知されない。目立たせないのも、カードに加えたい

広告だったり、WebやSNSを活用した認知の拡大、集客だったり。沢山の心理的な手法、練りに練った戦略や戦術、お金を目いっぱいかけて認知してもらうこと、注意を引くこと、記憶してもらうことを目指していますが、それが必ずしもハマるとは限りません。コンバージョンしてもらうため、行動に結びつけてもらうため、あれやこれやと目立つこと、特別感を演出することに頑張ってみたりしますが、それだけが正しいやり方でもないんでしょう。

時には目立たせないこと、無理に選んでもらおうとしないこと、相手の日常の中に潜り込むこと。記憶に留めてもらいつつ、アクションしてもらうまで気長に待つ、無理せず構えやすいスタイル、長続きしやすいやり方を選ぶ、他とは違う立ち方を貫く、というやり方も、タマには選んで見てもいいんじゃないでしょうか。

主役になるだけ、目立たせるだけが正解とは限らない。時には地味に、アピールもしないで背景に徹する。背景として役割を果たせる部分を見極める、実践してみる。この路線も、とてつもなく奥が深いし、限りなく有効だと思うんですが、皆さんはどう思われます?

最後までお読みいただき、ありがとうございます。少しでも楽しんでいただけたら幸いです。 ただ、まだまだ面白い作品、役に立つ記事を作る力、経験や取材が足りません。もっといい作品をお届けするためにも、サポートいただけますと助かります。 これからも、よろしくお願いいたします。