【片恋中毒】

「――ごめん。また、振っちゃった」

 頭を下げる雪乃に、僕はため息をついた。

「毎回不思議だよ。なんであれだけ本気で好きだったはずなのに、付き合いだした途端ダメになるんだろうね。今回は一ヶ月か」

 幼なじみの雪乃は、魅力的だと思う。長い黒髪は清潔感があって、でも生真面目っぽくもない。顔立ちも整ってるし、物腰も柔らか。
 だから雪乃が本気で誰かに惚れれば、大抵の相手はその想いに応えてしまう。

「今回のことで気づいたんだけどさ……私って、私のことを好きな人が相手だと、すぐ冷めちゃうのかも」
「え、すごい今更……」
「ナニソレ!? 今まで気づいてたの!?」
「あれだけ恋愛相談受けてればね……」
「えー……でも最低じゃんそれ。自分を好きな人を好きになれないとか。何様なの私……」

 彼女は毎回決まって「全く雪乃に興味がない人」を好きになる。特に、何かに一生懸命になっている人を好きになることが多い。 

「とりあえず、誰かに片思いしてる人とか、彼女いる人を好きになるのはもうやめろよ」
「わかってるけど……自分でどうにかなるなら苦労しないんだけど」

 片思い中のときは、好きになってもらいたいと思って雪乃は行動しているらしい。たぶん、「片思いをしている状況」が好きなのだ。恋愛より、恋をしたいタチなのだろう。
 そんな状態を、僕は「片恋中毒」と勝手に呼んでいる。

「――いっそ、恋なんてできなきゃいいのにね。そうしたら、誰にも迷惑かけないし」

 それでも繰り返し恋をする。相手が自分を好きになっては冷めて、また片思いをする。
 そんな雪乃を好きな僕も――彼女と同じ、片恋中毒なのかもしれない。
 振り向いてくれなくてもいい。両思いじゃなくていい。ただ隣にいられればいいから。
 だからずっと――誰のものにもならないで。

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