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辻本直樹 と つくにうらら 特別対談


「カミグセ短編集vol.2」座談会のラストは、原案の辻本直樹と脚本・演出のつくにうららによる対談をお届けします。公演まで残り1週間を切ったタイミングで、原案があることの面白さや各作品に込めた思いなど、互いの胸の内を語りあいました。

辻本直樹(以下、辻本):それじゃ、さっそく始めましょうか。

つくにうらら(以下、つくに):よろしくお願いします。あ、座談会おつかれさまでした。

辻本:ありがとうございます。出演者座談会はつくにさん自身の希望により、つくにさんが同席しない場で収録して、僕からも公開直前に原稿チェックという形でしか見せていなかったわけですが、どうでした? 読んでみて。

つくに:以前に他の劇団で同じような試みを、それは私が取材する側でやったことがあるんですけど、改めて読むと、なんか…こそばゆいですね(笑)。

辻本:なかなか本人から直接は聞けないし、言わないだろうなって話もいろいろ聞き出せてよかったです。自分のことや自分の考えた話が、他人を介することで予想もしない方向へ転がっていくのを見ているのは楽しいですよね。でもほら、演劇を作るのだって、そもそも架空の人物に話させるようなものじゃないですか。

つくに:いや、だから大変なんですよ(笑)。一時期、新しいものを0から1にすることに疲れちゃった時期があって、そういう時に出会ったのが辻本さんの「原案買い取り」だったんです。本当の自由って、決められた規則の中にあったりするわけじゃないですか。私は設定を決めてもらえたことによって自由を得られたんですよ、お題さえもらえれば書き始められるから。

辻本:そんな、「ごきげんよう」のサイコロみたいな(笑)。自分でプロットを立てて書くのと、感覚的な違いはありますか?

つくに:私、普段から脚本のアイデアをどこにも書きとめたりしないんですよ。プロットを決めると、すごく細かく行動の指定をすることになるので、行動を起こすこと自体が目的になった結果、消化試合みたいな脚本になっちゃうんですね。それは何より私が面白くないぞと。その点でいうと、辻本さんの原案はざっくりした大きな枠だけが決まっていて、あとは煮るなり焼くなりお好きにどうぞという感じなので、なんだろう…産地直送の野菜を買った気分で。「人参は買ってきたから、さあ何を作ろうか」みたいな、素材の旨さを活かしつつ自由なアレンジレシピを試せる点がよかったんですよね。

辻本:逆に僕の視点からは、渡した原案からお話が立ち上がっていくのが…自分の建てた家に人が住むみたいな感覚で面白いなって。間取りは自分が考えた場所だけど、そこにどんな人が入居してきてどう暮らすのかはわからないし、コントロールもできない。だから「そこにタンス置くの?」みたいなことにいちいち新鮮に驚けるんですよ。

つくに:あー、なるほど!それもわかります。私は内装とかカーテンの色を自分で決めたかったんだなって。でも住む部屋の名前はライオンズマンションに決まっているという(笑)。

辻本:あと、本人としてはそんなに重視していなかった原案の細かい部分を、つくにさんが大切に拾い上げて膨らませてくれていて、テーマは同じでも発想や着眼点が違うのは単純に強みじゃないかなと。

つくに:やっぱり「私たちは他人同士である」ってことが大事なんですよね。違う人間だから違うことができるし、私一人では思いつかなかった設定でもあるから。

『Re:タナトスのガールフレンド』

辻本:それぞれの作品についても話していきましょうか。まずは『Re:タナトスのガールフレンド』。これは最初、つくにさんが僕の撮った映像版『タナトスのガールフレンド』を見て、「私だったら誰も死なせずに終わらせられる」と提案してきたところから始まったわけですが。

つくに:そうです、それがカミグセ短編集vol.1のときで。そのあとに星姉妹のリーディング版があって、さらにそのリーディング版が岐阜総(岐阜総合学園高等学校)の子たちの手によって実際に上演されて…と、そこそこ長い変遷があるんです。だから今、すっかり自分の手を離れて客観視できるようになった状態だし、この作品に関して私はほぼ当て書きをしてないんですよ。

辻本:当て書きしてないどころか、今回は役者の提案で配役も入れ替わってますからね。

つくに:この作品にとって何が最良かを、役者が考えた上で出してくれたものだし、「やってみてダメだったとしても誰も損はしないよね」と試してみたんですよ。そしたら思った以上に楽しくて!(笑) 私の台本って、役者が歩く道筋をかなり細かく決めてあるんですけど、道筋は同じでもそこを歩く役者が変わるだけでこんな新鮮味があるのか!という、発見の喜びを与えられてしまったんですよね。昔だったらそんな変更は許容できなかったかもなと思うんですけど、最近は俳優から差し出されるものを素直に楽しめるように、私自身も変わってきました。

辻本:初演とリーディング版も展開が違う作品ですけど、今回の『Re:タナトス〜』はもうひとつ新たな可能性というか、別のエンディングが待ってますよね。

つくに:このラストは初演の『タナトス〜』を終えてから思いついたものの、リーディング版のときは演出的な制限もあって書かなかったもので。初演とリーディング版をマッシュアップしつつ、ずっとやり残したままになっていた最後の壁をぶち壊しに行ってます。

『思い出にニスを塗れ』

辻本:続いて、『思い出にニスを塗れ』。これは新作をもう一本ほしいと言われて、僕が原案のストックから「つくにさんの作風と相性が良さそう」と思ったものを、いくつか候補として選んだうちの1つなんですが…なるほどこうなったか、という印象です。

つくに:あの原案をもらった時点で、私が書いたら最後はこうなるだろうなっていうのは自分でもわかってました。

辻本:出演者からも話題に出ましたけど、カミグセ史上最速の会話劇ということで。

つくに:実際、台本を書き進めるペースもかなり速くて、私の傾向を知ってる人には驚かれましたね(笑)。序盤のほうとか、今まであまり書いたことなかったパターンの会話なんですが、自分の中で備蓄されていたものが勝手に出てくる感じでした。

辻本:この作品で起こる出来事って、すごく小さな変化ですよね。小さいし、当人以外にはほとんど影響を及ぼさないような変化。だけど、そういう小さいことの積み重ねで人は成長していく、変わっていくんだってことを描いている気がします。

つくに:生きていくことって個人の問題だし、なんだったら「生きていかない」っていうのも選択肢のひとつとしてあるわけですよ。そんな中で「生きていく」ことを選んだ人たちに対して、私は何をあげられるだろうかと考えて。しようと思えばいくらでも長編にできる作品なんですけど、今回は、私としては珍しく引き算をしました。

辻本:タイトルにもある「思い出」というものとどう接するか、ってところに脚本の個性が出ると思うんですが、つくにさんの中で「思い出」の位置づけってどういったものですか?

つくに:思い出があることによって現在地を自覚できるようになる、っていうのがすごく大事なことで。「私は今、何をしてるんだっけ?」と立ち止まってしまう時があって、そういう見直しを定期的にやらないと自分のことがわからなくなる。場合によっては、思い出してしまうことで逆に傷口が開くこともあるけど、それによって今の自分がいるんだって確認する…『思い出にニスを塗れ』はそういう「時間」の話です。

辻本:物語の中心になる人物はいるのに全体としては群像劇のようでもあって、なんとも不思議な手触りがありました。

つくに:たしかに群像劇の体裁を取ってはいるけど、「自分を見つめなおす」ということに重きを置いているので、わりとカミグセらしさをしっかり残した作品になったと思います。

関係舎 と カミグセ『カミグセ短編集vol.2』

8月8日(木)〜11日(日) 横浜 STスポットにて

原案:辻本直樹(関係舎)
作・演出:つくにうらら(カミグセ/水中めがね∞)

《上演作品》

『Re:タナトスのガールフレンド』

女は高熱を出していた。
男は風邪薬を買いに出かけた。
死神が部屋にやって来た。
男の死期は近づいていた。
死神は男を迎えに来た。
女しか部屋にはいなかった。
死神は女に用はなかった。
女は男の帰りを待っていた。
死神も部屋で待つことにした。
男はなかなか帰ってこなかった。

なんにもならないのに出会ってしまった、ふたり。

出演:赤猫座ちこ(牡丹茶房)、星秀美

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『思い出にニスを塗れ』

今ここにいないあの子の絵を描こう。
今ここにいないあの子を呼び戻すために。

あの子はきっと綺麗だった。
あの子はもっと嫌な子だった。

思い出を美化してはいけない。
思い出は保存しなくてはいけない。

描き上がることのない肖像の前で、私たちは立ち尽くしたまま。

出演:岩永彩、Q本かよ、塩原俊之、中村佳奈、廣瀬樹紅

《タイムテーブル》
2019年8月8日(木)〜11日(日) 全6ステージ
(全回アフタートークorアフターイベントあり!)

8月8日(木) 19:30★
8月9日(金) 14:00★|19:30◎
8月10日(土) 14:00★|19:30◎
8月11日(日) 14:00◎

★=「カミグセの課外活動」(アフターイベント)
8日(木)19:30・・・歌とギター[出演:つくにうらら]
9日(金)14:00・・・アイドルの真似事[出演:つくにうららと「Re:タナトスのガールフレンド」チーム]
10日(土)14:00・・・新かき氷[出演:つくにうららと「思い出にニスを塗れ」チーム]

◎=つくにうららとアフタートーク(登壇者は予定)
9日(金)19:30・・・「思い出にニスを塗れ」チーム
10日(土)19:30・・・「Re:タナトスのガールフレンド」チーム
11日(日)14:00・・・公演反省会[ゲスト:園田喬し氏(編集者/BITE編集長)]

※受付開始・開場は、各回開演の30分前
※上演時間は2作品あわせて約75分程度を予定

《チケット》
一般:3000円
U-25:2500円
高校生以下:1000円

※全席自由席
※U-25・高校生以下は受付にて要身分証明書提示
※未就学児入場不可
※車椅子等でご来場の場合、あらかじめお問い合わせください。

《ご予約》
https://www.quartet-online.net/ticket/tanpen2

《会場》
STスポット
https://stspot.jp/
〒220-0004 横浜市西区北幸1-11-15 横浜STビルB1
横浜駅から徒歩約8分

《お問い合わせ》
カミグセ 制作部
MAIL:info@kamiguse.com
WEB:http://www.kamiguse.com/


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