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ファイア・イズ・アウト、リメイニング・ヒート 1


1.クレッシェンド・スカー


「ニンジャ消失事件?」コンクリートの床にブッダ涅槃のポーズで寝そべるミゼリコルティアの口からもたらされたコトダマに、他4人のニンジャはそれぞれ異なる……しかし、一面では似通った反応を返した。

「ッんなの知らねぇぞ……言ってなかったし……言ってなかったよな? タブン……」普段重要な事でも聞き落とし気味な自覚がある為か、どこか自信なさげなアトモスフィアを滲ませるのはソウカイヤ所属のアングバンド。

 ザイバツの一員たるノーボーダーは素早く見栄を取り繕い、「……アタシの耳には入ってないわね」と腕を組んだ。そうしながらニューロンには別の思考を走らせている。

(((実際私はカラテに劣る……それを少なくともミゼリコルティア=サンには知られた。協力的姿勢とミステリアスを使い分けて、モスキート=サンと合流まで持たせるしかないわね)))

「私のミッションは……捜索よ。鳶28区にリアル・ニンジャが出没する、という噂を確かめる為に来たの」アングバンドが気勢を削がれている間に、敵対していない他の者と情報をトレードする構えだ。だが反応は芳しくない。フリーランス傭兵の女、ミゼリコルティアはほとんど間も置かずに答える。

「アタシは知らねぇな……昨日調査の為に鳶28区の拠点に移ったくらいだからな。で、昨日の調査では、三件中一件の飲み屋が辛うじてアタリだったって事しか言えねーな。そっちのニイサンらは?」ミゼリコルティアは話に置いていかれがちであった二人の男……労働者然としたワーカー衣装にパーカーを合わせた童顔の男と、スシ職人の衣装をした青年に水を向けた。

 スシ職人見習いの青年、カズヤ=カワゴエ……またの名をコックハートは首を振る。「いいや……俺はさっきも言った通り、師匠以外のニンジャを初めて見た。三ヵ月ほど前にニンジャになった。だからニンジャの事情はまったく知らないし、申し訳ないがさっきからあなた達が口にしているザイバツ……? とか、ソウカイヤの名も知らない。有名なのだろうか?」

 キョートに本拠地を置くザイバツを知らないのは無理もない。ネオサイタマであってもニュービー、あるいは情報に疎ければソウカイヤについて知らぬのも不思議ではない。不思議ではないのだが。「……ケツモチを知らねぇって言うと空気が凍るんだよなぁ」アングバンドは一周回って気が抜けたように頭を掻いた。

「じゃあいいや。そっちのアンタは?」傭兵に改めて水を向けられたのは、残るワーカーパーカーの男、アンバーンド。「あの……その前に一ついいでしょうか?」「アン?」「私は……ニンジャなのでしょうか?」

 コックハートを除く三人の頭に疑問符が散り、沈黙が場を支配する。「……アンタ、さっきアイサツしただろ」 アングバンドが呆れに呆れを重ねて、もはや若干嘆くかのように指摘した。「……さっきの名刺、モータルなら止める以前に視認できねぇよ」 ミゼリコルティアが目を細めた。ノーボーダーは何か高度な禅問答でも仕掛けられているのかと黙って頭を捻った。

「モータル……それは……何かで聞いたような気がする……どこで……?」「ッオイオイオイオイ、マジのニュービーかよ? だったらソウカイヤに入ンだよ、まずはよ。とりあえず。俺もパシリ……もとい後輩が欲しいと思ってたんだ」「ソウカイヤねェ。ドカタじみたこういう野蛮なのの集まりよ。アナタ線が細そうだからすぐ潰されるわよ。やめときなさいやめときなさい」

 少なくともこの場でソウカイヤ派閥を増やしたくないノーボーダーのネガティブキャンペーン! 睨み合うノーボーダーとアングバンドを余所に、ミゼリコルティアはコックハートとアンバーンドに世間話の範疇で説明をした。「ま、ザイバツもネオサイタマもニンジャの所属する組織だな。ザイバツはキョート、ネオサイタマはソウカイヤが強い。んで二、三年前だっけ? 大規模な抗争の後は、停戦協定を結んでる。……実際には冷戦って感じみたいだけどな」いがみ合う二人をそれとなく指し示した。

 フリーランスの立場によるニュートラルさで説明すると、アンバーンドとコックハートは素直にナルホド、と受け入れた。ともあれ……その組織の実際の巨大さ、影の影響力については口にしない。知りすぎていると思われれば睨まれるのは自分だからだ。(((カネにならない注目は御免蒙る)))

「ナルホド……ニンジャなら皆仲良し、という訳でもないんですね」「そのようだな……」 真面目くさって……いや実際マジメに言い交わすニュービー二人にシュール可笑しみを感じながら、ミゼリコルティアは寝転んだまま煙草を取り出し、火を点けた。

 紫煙をくゆらせると、幾分ニューロンが目覚めてきた。そして目前のニンジャ達が黒幕……この状況の仕掛け人である可能性について思考を巡らせる。(((ザイバツ、ソウカイヤ、アセンション三ヵ月のニュービーニンジャと、下手すればアセンションから一日経っていない自覚なきニンジャ。……あと傭兵。あまりにもバラバラで、もはやバラバラにしようという作為すら感じる)))

 ソウカイヤのアングバンドは粗暴ではあるが、ニュービーらしい。ソウカイヤのカラーから言っても、即キリステされるほどの問題児でもない。何より今の陰謀的状況とはあまりにも人物像が一致しない。シロと見てよかろう。

 ザイバツのノーボーダーはカラテはなさそうだが、ネオサイタマ潜入を行うような切れ者ニンジャであり、先の突発的シュラバ・インシデントでも上手く立ち回っていた……。あのように立ち回れる者が諾々とテッポダマにされはすまい。

 ハッタリを旨とする傭兵稼業のスキルから、ミゼリコルティアはそのようにアタリをつけた。大きく見せようとするハッタリは生き残りには資するが、同時に黒幕ではないか? と疑われるリスクを増大させる。カラテに欠くニンジャであればなおさらだ。とりあえず吊っておけ、という話になりかねない。本件の黒幕はもっと老獪であるだろう……。ひとまずシロ寄りのグレーと類別する。

 ニュービーニンジャ……コックハートは、なんというか正直すぎる。師匠と言っていたが……ニンジャのスシ職人? に、弟子入りするニンジャ?

 あえて言うまでもない事ではあるが、ニンジャとスシには密接な関わりがある。実際スシに並々ならぬ執着と技量を示すニンジャの存在も噂には聞いた事があるが……カバーストーリーとして胡乱にすぎる。疑い過ぎは自分の首を絞めよう。シロ。

 もう一人のニュービーは、……先に見せたワザマエの片鱗。本人由来の技巧でなければ、最低でもグレーター級以上のソウル由来。それがいかにもなネオサイタマ的小市民モータルに主導権を譲っているのは不可解だが、普段は一般人に擬態する老獪な策かもしれない。こちらは要警戒のグレーが妥当だ。

 しかしそれはあくまでアンバーンド=サン単体の危険度であり、先のニュービーニンジャと同じく、カバーストーリーだとすればあまりに粗雑で胡乱。ひとまずは『巻き込まれた』側と見てよかろう。「(さて、そうなるといったいどんな勢力がどんな絵図を描いているんだ……?)」

 風の動き。ミゼリコルティアは何気なさを装って寝返りを打ち、背後を見る。コンクリート打ち放しの部屋の一角、両開きの鉄扉──がゆっくりと開く。右側から身体の右半分を覗かせ、ガタイのよいサイバーサングラス成人男性が五人のニンジャを見ている。たまたまそちらを見たコックハートが眉根を寄せた。「ドチラサマ?」

 全員の視線が集まる。両開きの鉄扉の左側から身体の左半分を覗かせ、ガタイのよいサイバーサングラス成人男性が五人のニンジャを見た。その顔立ちは、鏡に映したように似通っている。そのものと言っていい程に。「……双子?」アンバーンドが呟いた。二つのサイバーサングラスの間に、トライアングルじみて第三のサイバーサングラス成人男性が覗いた。


「アイエエエ……同じ顔!?」ナムサン!切り貼りすれば二つ分の顔は、それぞれ完全にただ一つの顔面パターンを形成する! クローンなのか?「「「ザッケンナコラー!」」」更にその三人が同時にヤクザシャウト! コワイ! 

「イヤーッ!」アングバンドが袖口からLAN直結チャカ・ガンを取り出し、発砲!「グワーッ!」右側の右半身クローンヤクザの右眼球から緑色の血液が噴き出す!「グワーッ!」1ヒット!

「イヤーッ!」ミゼリコルティアが涅槃のポーズからスリケンを生成し、投擲!「グワーッ!」中心のクローンヤクザの眉間から緑色の血液が噴き出す! 2ヒット!

「キェーッ!」ノーボーダーがスリケンを生成し、異様なオーバーハンド動作で投擲! 左側の左半身ヤクザの右眼球位置、即ち鉄扉に刺さった! コンボ消失!「スッゾコラーッ!」クローンヤクザは反撃チャンスを得て、チャカを構えた!

「キエーッ!」ノーボーダーがスリケンを生成し、異様なオーバーハンド動作で投擲! アングバンドが銃撃! ミゼリコルティアのスリケン投擲! 左側の左半身ヤクザの左眼球から三筋の緑色の血液が噴き出す!「グワワーッ!」3ヒット! オーバーキル!

「あんなフォームで一応当たんのか」「ヘッタクソ」イクサ慣れした2人からの容赦ない精神的追撃!「傷つくわぁ」「こんなん外す方が難しいっての」アングバンドは倒れる真ん中のクローンヤクザの両眼球を戯れに撃ち抜いた。5ヒット!

「あんた本ッ当に性格悪いわね!?」ノーボーダーの抗議! 「精確が悪いのはお前だろ」アングバンドは気分よさげに笑った。それから声を低めドスの効いた声色で吐き捨てた。「……メてんじゃネッゾ」

「死……死んで……ナ……ナンデ……? 急にこんな……」コックハートことカズヤ=カワゴエは突然のシュラバ──戦闘慣れしたニンジャ達にとってはベイビー・サブミッションに等しい状況ではあるが──に呆然としていた。

「ナンデ……」アンバーンドは視線の先、緑色の血液を観察した。地に落ち、時間が経ったものから酸化した赤に変わっていく。

 目の前でアレコレと言い合う……三人のニンジャ達。誰もそれの生命を奪った事に頓着していない。ミゼリコルティアは咥えたままの煙草の灰を地面に落とした。「ありゃソウカイヤのヒットマン、ってわけでもねぇのか?」「ンー……」アングバンドが銃口をクローンヤクザの首元に向ける。銃口の僅か下の小さな半球が煌めいた。

「Y-10型……日付は……寿命で廃棄寸前の旧型だな?……ヨロシサンの処分場から逃げ出した、もしくは……」「盗み出された、か」ミゼリコルティアが引き継いだ。「……クローン?」コックハートが悪夢を振り払うように頭を振った。ナムサン! 善良なる一般市民はクローンヤクザが既に実用化されている事を知らぬのだ!

「ザッケンナコラーッ!」「ザッケンナコラーッ!」果たしてコックハートの疑問に答える様に、開きかけた鉄扉を蹴破り、扉の奥の闇から四列のヤクザトレインが湧き出づり、二列ずつ左右に展開していく!「イヤーッ!」「イヤーッ!」「イヤーッ!」前列の三人は即座に攻撃開始! だが、数が、多い! 三体のクローンヤクザが倒れる間に五体は火線を抜け、展開を続ける!

「オイ!」アングバンドが叫んだ。「ボサッとしてんなよ! お前らもニンジャならスリケンくらい投げろ! 銃見たろ! ヤらなきゃヤラレッゾ!」コックハートはふためく。「だ、だが……やるしかないのか?」「スリケン……」アンバーンドは呟いた。

「ニンジャはスリケンを……投げる」手中に、何か"流れ"のようなものを感じる。それは空気中に漂う重金属粒子と……内なる気力のようなものの結節点。彼はそれを掴んだ。手の中には握りと一体になった菱形の刃があった。想像した事もない武器──そして手に馴染んだ武器──クナイ・ダート。「ニンジャとは……」

 彼がそれを投擲しようとした時、不意に照明が落ちた。クローンヤクザが列を成して入場する足音、絶命の悲鳴、銃撃音、そういったものが強調され耳朶を打つ。マズルフラッシュ。硝煙の煙。闇の中、アンバーンドは銃とは案外五月蠅いものだな、などと茫洋と考えた。

 ニンジャは夜目が実際利く。戦闘経験でしのぎ、視力の順応を待っていた前列三人は、不意に殴られたように目を閉じた。突如光源が出現したのだ! 四体のクローンヤクザが肩に抱えて搬入し、音立てて降ろしたそれは、射幸心を煽る強烈な光パターンを放射する、ベンダー!

 そしてそれが降ろされると同時に飛び降りた小さな影あり。「フレデリカ……?」コックハートがその名を口に出した。逆光が十代前半の少女の形を網膜に焼き付ける。「イヤ……違う……だが、イヤ、こんな所に少女!? アブないのでは? ヤクザに連れてこられたのか?」

「逆だろ」ミゼリコルティアがにべもなく言った。「え……?」今やクローンヤクザは周囲を取り囲み、その数は3ダースか、それとも5ダースか……。そして唯一の出口を塞ぐ少女は逆光で見えないその表情を歪めた。「ドーモ、はじめまして……じゃない人もいるけど。スネークフットです」

 アイサツは神聖不可侵の儀式。それはたとえニュービーであっても、銃撃途中であっても……深く刻まれたドグマ。アングバンドが銃を仕舞わずに両手で挟み、オジギをした。「ドーモ、はじめまして。アングバンドです」「ドーモ、はじめまして。ノーボーダーです」

「……ドーモ、はじめまして。アンバーンドです」アンバーンドはどこか地に足つかない様子だ。「……ドーモ、はじめまして。コックハートです。フレデリカでは、ないのか……」

 四人のアイサツが終わると、最後の一人は短くなった煙草を捨て、靴底でにじった。「ドーモ、また会ったな、スネークフット=サン。ミゼリコルティアです。イヤーッ!」アイサツ終了0コンマ2秒でスリケンを投擲再開! スネークフット背後のベンダー、バリキドリンクのサンプルが破砕!

「来るわよ!」 ノーボーダーが叫ぶが早いか、クローンヤクザの一斉シャウト!「「「ザッケンナコラー!」」」BBBBBRRRRRAAAAAMMMMMEEEEE!!なんたる多重銃声! 五人は為す術もなくその場に伏せた!

「ちょっとちょっとこれ実際どうするの!?」「ッやるしかねぇだろ、泣き言言うなザイバツ!」BRAM! BRAM!「グワーッ!」アングバンドは歯噛みした。ベンダーの射幸心を煽る光パターンは数秒のスパンで切り替わり、いつまで経っても目が慣れない。

 アングバンドは戦術を組み立てる。(((応射しても一撃で殺せる確立は50%と見た方がいいか? 的は最低3ダース……リロード込みで72発の弾丸を打つ前に、何発がこちらに飛んでくる? その間、敵ニンジャは何回アンブッシュを仕掛けられる?)))

「相討ちナシかよ……!」ミゼリコルティアが舌打ちする。彼女にはこの暗闇で状況が把握できているのか? それは傭兵のローカルテク、片目を閉じ、暗闇に慣らし、開いて光で眩むまでの一瞬で状況判断、同時にもう片方の目を閉じ……を繰り返す事で、断続的に視界を確保しているのだ! 傭兵の知恵!

 だがその情報収集力を持ってしても、得られる情報にグッドニュースは皆無と言っていい。円形に取り巻いておきながら相討ち無し……旧型の廃棄寸前のクローンヤクザが?「なんらかのジツなりテックで管制下に置いてやがるな……?」だがそうなら、敵ニンジャを倒せば盤面は一気にひっくり返せる!

「イヤーッ!」ミゼリコルティアのスリケン投擲! ベンダーのザゼンドリンクサンプルが破砕!「フフ……アカチャン……」スネークフットの囁くような、それでいてよく通る蠱惑的ボイスが降り注ぐ! 降り注ぐ……!? ナムサン! スネークフットは跳躍、更にベンダーの天板を蹴って跳躍! 天井の暗がりに姿を消した!

「クソッ……見えない! スリケンの形成とはこれでいいのか? 出来ているか?」コックハートは目を閉じ、めちゃくちゃに腕を振り回している。銃撃の命中率は低い。ノーボーダーの奇声スリケンは尚更低い。アンバーンドは何やらブツブツと呟いている。正気度の危機か?


 BBBBBRRRRRAAAAAMMMMMEEEEE!! ばら撒かれる銃弾! 「こりゃ……年貢の納め時か?」傭兵がニヒルに笑った。

「おーい、スネークフット=サン? さっきはスリケン投げちまったけどさ! 要件があんなら聞いてやるぜ?」「フフ……」それは傭兵なりの自分に活を入れる為の軽口だったが、意外にも銃声の切れ間、スネークフットは応えた。

「私の 私の…… 私の私の 要件 は…… は…… ニンジャを壊す事…… 壊す……ここの ここの ここのここのニンジャを ニンジャを……を ……壊すの…… みんなみんな壊すの…… 壊すの!」

「……頭がスパークしてやがるぜ」応えられなかった方がマシだ、とミゼリコルティアは笑みを引きつらせた。ニンジャの発狂マニアックだとすれば、実際手が付けられない。お互い、行きつくところまで行くしかない。

 ふと、クローンヤクザの群れが射撃を止め、半分が床に……床に伏せる五人に銃を向ける。残りの半分は待機する。安易にジャンプするウカツ者と横移動者を射殺する構えだ。闇の中をミゼリコルティアの視線が行き来する。残りは……結構減らせていたか。3ダース。ベンダーが賑やかな光明滅パターンを投げかけている。嵐の前の…………。

「イヤーッ!」困難射撃に意識を集中するアングバンドに、スネークフットの音もなき暗闇アンブッシュだ! アブナイ! 「グワーッ!」だが奇襲カラテチョップを受け吹き飛んだのは……割り込んだノーボーダー!「何!?」アングバンドは複数のインシデントに驚きつつも、素早く敵ニンジャに応射銃撃を加える。しかし、敵は連続側転で闇の中に消え去っていく。

「ノーボーダー=サン!」コックハートが叫んだ。ノーボーダーはベンダーの前に転がり、ピクリとも動かない。コックハートは考えなしに立ち上がり、ヤバレカバレで走った。銃撃が再開し……それを追う。残る三人を狙う弾幕がいくらか薄くなった!「……ッ! ナマシャッテ、コラー……!」アングバンドは不明瞭なコトダマを呪詛じみて吐きながら、床を転がりながら数発の弾丸を残してリロードした。

 ついでもう片方の袖からもチャカ・ガンを出す。出し惜しんでいたわけではない。ただでさえ命中率の低い現状、単射から乱射に切り替えるメリットを感じなかっただけだ。つまり……このムーブには合理性がない!

「命中率50%なら倍撃てば100%コラーッ!」BRAM! BRAM! BRAM! BRAM! 「グワーッ!」1ヒット! 弾数倍点、 命中率半分。視界の効かない状態では彼のチャカ・ガンは真価を発揮できない! ほとんどヤバレカバレ!

「クソッ、やるか?」ミゼリコルティアが……立ち上がった! こちらもヤバレカバレか!? 立ち止まり棒立ちの彼女を仕留めるべく向けられるクローンヤクザ1ダース弾幕!「アクター・ジツ!」BBBRRRAAAMMMEEE!!


「ハッ!」無効! 一瞬で全身に纏った黒い重金属装甲に弾丸が弾かれ……いや、どうだ? 既にヒビ割れを生じさせてはいないか!? 遮二無二突っ込み、ヤクザ弾幕を大量に引き受けながら、右手側のクローンヤクザ部隊へ躍りかかる!「イヤーッ!」両手で両側のクローンヤクザ2体を断頭チョップ! ゴウランガ!

「ミゼリコルティア=サンを先に仕留めなさい……」ALAS! スネークフットの無情なる集中攻撃命令!「あれが……ジツ」何かに耐えるような表情で戦闘を見ていたアンバーンドが呟いた。「ニンジャは……ジツを使う」

 無論すべてのニンジャがジツを使うわけではない。だが彼は今ニンジャ一般論を確認しているのではない。ニンジャとは己。己がニンジャ。ならば……出来る。出来るのだ。この何もかもを、近くも遠くも部屋全てもその先も……燃やし尽くすイメージを実現し、制御できるのだ!

「ブッダ! 見よ! エン・ジツ! イヤーッ!」「「「グワーッ!」」」左手10体ほどのクローンヤクザが突如範囲炎上! 空間が炎の赤に照らされる!「ッナイスだぜアンバーンド=サン!」アングバンドは喝采を叫んだ。見えた。ならば彼と彼のチャカ・ガンには出来る。射撃管制起動。LANケーブルを介して直結されたチャカ・ガン銃口僅か下のカメラ・アイ同期。

 右のチャカ・ガンのカメラ・アイ映像が右眼球に、左のチャカ・ガンのカメラ・アイ映像が左眼球に映る。残弾数が網膜上に表示された!「ソマシャッテコラーッ! スッゾコラーッ!」BRAM! BRAM! 「グワーッ!」「グワーッ!」ゴウランガ! なんたる二方向同時一射一殺射撃か!

「ニンジャ視力があるからってケチらず、赤外線シーイング機能もつけとくんだったよな……」自嘲する余裕すらある!

「なんだ。やんじゃねぇか、アイツら」ミゼリコルティアのボロボロの鎧、その顔面から破片が剥がれ落ちて、内側の笑みを見せた。その隙を逃さず、地に伏せながらも致命傷を免れた生き残りクローンヤクザがチャカを向けた。彼らに死んだふりで戦闘をやり過ごすといったメソッドはない!

「イヤーッ!」「グワーッ!」ミゼリコルティアは剥がれ落ちた鎧の破片を握り締めて投擲! 握力で砕けたそれが散弾のように襲い掛かり、クローンヤクザは頭部をネギトロじみて粉砕!

「……無駄なのよ。ベンダーよ、起きなさい!」あまりに鮮やかな一転攻勢に後手を踏んだネークフットが、ベンダーの天板に着地、一切の余裕を消しオーダーした。 だが……今彼女は"起きよ"と言ったのか? まさかいま彼女はドリンク自動販売機に命令したのだろうか?

 ベンダー内部。何本ものドリンクが開栓され、内部カクテル機構に流れ込む……そして対ニンジャ戦闘に最適化された社外秘の特殊ブレンドを作成、注入! 注入!? 何に!? ベンダーの中に潜みし電脳制御軟体生物にである!

 商品取立ち口から二本の長い触腕が、その他何本もの細い触腕が伸び、地面に貼りつき、ベンダー自体を持ち上げた! これこそはベンダースラッシュハック行為絶対に許さないというヨロシサン業務目標意志が結実したバイオサイバネ生物、ベンダーミミックである! その強化膂力と反応速度と手数は、カタログスペック上、ニンジャをも捉え、圧殺する!

「ビー! アリガトネ! ビョウキ・トシヨリ・ヨロシサン!」スネークフットはベンダー前に転がるノーボーダーと、それの横で何事かを行うコックハートを捉え、無慈悲にコマンド!「手始めにコイツらをネギトロ重点!」「ビー! この素子は大きすぎる為使えません!」ベンダーミミックはその場で回転し、回転し……回転した!

「ンアーッ!?」スネークフットはミキサーじみて振り回されている! 咄嗟に縁にしがみついたものの、離せば何処かへ吹き飛ばされ、追撃を受けるは必定! これはベンダーミミック流の何らかの攻撃の予備動作なのか? だがベンダーミミックは回転のみを続ける! 

「トマレ! トマッテ!」スネークフットは行動キャンセルを命じるも止まらない! 回り、回り、回り続ける!「バカ! 私のユワク・ジツはどうなってるのよ!」「ビー! クレジット不足な!」

「残念、電脳制御されてるなら私の領分なのよね」ノーボーダーが身を起こし、自らの生体LANケーブルを手にひらひらと振った。ゴウランガ! ノーボーダーは死んだふり状態からコックハートに受け渡し接続させ、その身体で隠していたのだ!

 スネークフットの切り札を読んだのか、それともベンダーからドリンクやデータを奪おうとしてサイオーホースじみて内部のミミック存在を発見したか……一体どこから? いつから? それはノーボーダー=サンのみが知るのだ。「ビー! お釣りの取り忘れはヨロシサンへの寄付行為感謝な!」

「フー……」最後のクローンヤクザをカラテで殺したミゼリコルティアは、荒く息を整えるアンバーンドを……あえてスルーし、ツカツカとベンダーに近付いた。アングバンドが合流し、遅れてふらふらとアンバーンドも囲みに参加する。「こ、降参するーッ!」もはや勝ちの目はないスネークフットが叫んだ。

「これは……」コックハートが回転するベンダーミミックを訝し気に見ながら言った。「どうやって止めるんだ?」「もう一度ベンダーにLAN直結すれば止められるわね」ノーボーダーが平静な声で答えた。

「ナルホド。……ナルホド。それで、どうやってケーブルを差すんだ?」「…………」「…………」コックハートとノーボーダーは、アングバンドとミゼリコルティア、アンバーンドは、ひたすら回転を続けるベンダーミミックを見た。「……ナムサン」コックハートが呟いた。

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