髪切虫書房

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  • 髪切虫書房今後掲載予定

    髪切虫書房今後の掲載予定をお知らせします。

  • 髪切虫書房気まぐれな後書き

    掲載済みの自作小説に関する後書きです。

  • 黒髪儀礼秘話シリーズ

    黒髪儀礼秘話をまとめました。

最近の記事

初めての断髪

 「お母さんのかみ」  お母さんのかみはとてもきれいです。おしりまでとどくかみはまっすぐできらきらしています。  お父さんも「お母さんのかみはきれい」だってほめてくれます。  お母さんはかおを赤くします。  そしてお母さんはうれしそうにかみをまるでたからもののようにブラシでとかすのです。  そのときのお母さんはいつもよりきらきらとかがやいてとてもきれいです。  そんなお母さんのすがたを見ると、わたしまでうれしくなります。  わたしはそんなお母さんがだいすきです。     

有料
400
    • 尼僧秘話 ―― 第二輪 仲合

       東京駅構内は今日もまた慌ただしく動く人並みで染まっている。  その人並みにもみくちゃにされそうになりながらも、葛原美佐はようやく新幹線の改札口に着いた。  美佐は荷物を下ろしようやく一息をつく。  胸まで届く天然のダークブランの髪がさらりと宙を舞う。宙に舞う美佐の髪は明るい茶色く透けて輝く。  ――きっかけはアルバムを見たときだったっけ……  葛原美佐は東京駅構内にある東海道新幹線の電光掲示板を観ながらここまでのいきさつを脳裏に浮かべた。  つい半年まで葛原美佐はY大学付属

      • 髪切虫書房今後の掲載予定(2023年9~11月)

        今後の掲載予定をお知らせします。 今後の掲載予定 ・「尼僧秘話シリーズ 第二話」2023年9月頃 ・(タイトル未定)2023年11または2023年12月頃 有料作品の掲載予定 ・「新版・初めての断髪」2023年10月頃 価格400円 ※「新版・初めての断髪」は有料になります。

        • 金木犀の香り

           キンモクセイ-Osman thus fragrant var. aurantiacus-  科属:モクセイ科モクセイ属。常緑小高木。  分布:中国原産。  花:葉のわきに橙黄色の小さな花が多数束生して、強い芳香を漂わせる。花冠は直径5ミリで4裂する(10月)。  実:雌雄異株で日本には雄株しか渡来していないので果実は見られない。挿し木によって増やす。  特徴:ギンモクセイの変種で庭などによく植えられている。  高さは普通4~6メートル、高いものは10メートルを超え、よく分枝

        初めての断髪

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        記事

          「アナザー・サマー」後書きのようなもの

          本当はこの作品を加筆修正して、連載形式にしようと思っていました。 ところが、いざ書き始めるとなかなか瑞希が動いてくれません。 とりあえず最初の連載を見切り発車で掲載したものの、その後が続かず。 結局、当初の形をそのまま載せることにしました。 この作品の提供が遅くなり申し訳ありませんでした。 やはり「アナザー・サマー」は、そのままの話がベストかなと思い直しています。 瑞希の話はこれで一区切りとなりますが、瑞希のその後は、いつか機会があれば書いてみたいと思います。

          「アナザー・サマー」後書きのようなもの

          アナザー・サマー

          「あー、だるいだるい」  上原瑞希は無数の蝉が大合唱を繰り返す遊歩道を歩いていた。その言葉とは裏腹に瑞希の足取りは心なしか軽やかだ。普通の学校であればすでに夏休みに入っているので、暑い中わざわざこんなところを歩く必要はないはずだ。 「ちぇ! たかだか赤三つぐらいで補講なんて……うちの学校もけち臭いんだよなあ」  しごく納得である。  ――バサリ  膝あたりまで届く真っ直ぐな黒髪をうるさそうにかき上げる。 「しょーがない……いくか……」  ぶつくさと文句を言いながらも学校に向か

          アナザー・サマー

          「エレベーターを止めないで」後書きのようなもの

          「エレベーターアクションならぬ、エレベーター断髪ってどうよ」 そう思いついたのがこの作品を書くきっかけでした。 エレベーターという比較的密閉された場所でバリカンで髪を切ってしまう、 それを種にしてただ勢いだけで書いてしまいました。 エレベーターの中に防犯カメラは? あいやそもそもエレベーターの中で切った髪はどう片付けた? そんな些細? なことは気にせずに。 エレベーターで途中で乗り換えるシーン。 本当はあそこで 「コンビニによって髪型のことに気づいたらそこで終了」 というのも

          「エレベーターを止めないで」後書きのようなもの

          尼僧秘話 ―― 第一輪 転機

           自由と言う言葉を置きかえると、失う物は何も無いになる。                            ――ジャニス・ジョプリン  セピア色の断片的な光景が隆子の脳裏に断続的に映る。ゆっくりと映っているようにも思えるが、瞬く間にその光景は消えてゆく。  その光景の背景や色合いは違っていても幸せそうな男女一組の姿は変わらない。  やがて彩りがはっきりとついた一枚の映像が脳裏に浮かび上がる。  青く澄んだ広大な海にポツンと異質な物が漂っている。 ――や、やめて…… 隆

          尼僧秘話 ―― 第一輪 転機

          髪切虫書房今後の掲載予定(2023年6~9月)

          久しぶりのマガジン投稿になります。 今後の掲載予定と一部掲載の有料化につきまして、お知らせします。 今後の掲載予定 ・「尼僧秘話シリーズ 第一話」2023年6月中旬頃 ・「Another Summer」2023年7月中旬頃 ・「金木犀の香り」2023年8月頃 ・「尼僧秘話シリーズ 第二話」2023年9月頃 の予定です。 一部掲載の有料化につきまして また今後の掲載で一部有料で掲載する予定です。 金額は400円を予定しております。 すでに掲載済みの作品につきましては、引

          髪切虫書房今後の掲載予定(2023年6~9月)

          ナツコイ

           今日私は髪を切ることにした。  高校生の時にモデルとしてスカウトされ、有頂天になっていた。最初は小さな仕事でも売れしくてしょうがなかった。  雑誌の表紙を飾ったことも何度かあった。今にしてみれば、あれが最高潮の時だったのかもしれない。  そして気が付いたら、もうすぐ30歳に手が届く、売れないモデルになっている。  私に残されている道は二つ――このままモデルを廃業するか、それとも脱ぐか。  それを決めるために強引に恋人で、これまた売れないカメラマンの彼氏を連れ、沖縄へ気まぐ

          契約社員菜々子の災難

           初めまして。松崎菜々子です。やっと最近仕事につけたんですよ。まあ契約社員ですけどね、てへへへ……でもこの仕事うまくこなせば、正社員にもなれるかもなんです。だから頑張らないと。  仕事は電気シェーバーのレポーター。ほら、朝出勤する人に電気シェーバーを試してもらうあのCMです。  あ!早速お一人いらっしゃいましたので、お仕事スタートです。 「あのー、ご出勤の途中で申し訳ありません。フラウンの新製品を試していただきたいのですけれど、よろしいでしょうか?」 「え? 電気剃刀?……い

          契約社員菜々子の災難

          エレベーターを止めないで

          序章 一月二日、時計の針が15時を少し過ぎたあたりだろうか。  二人の男女の影が静まりかえった商業ビルに静かに入り込む。 「ねえ……直斗。本当にここでやるの?」 「忘年会の罰ゲームでやろうと言ったのはおまえだろ。絢」 「だってあのときは酔った勢いで……」 「一昨年はそのせいで俺が丸坊主にされたあげく、SNSでアップされて、 おまけにバズって。散々な目に遭ったがな!」  絢は調子外れな口笛を吹いて明後日の方向を向く。  やがて絢の視線にエレベーターホールが映ると、絢の足取りがピ

          エレベーターを止めないで

          散雪花

             十二月二十三日 金曜日 雪 「雪を見たいの……」  今にも消えそうなほど弱々しい声が僕の耳に小さく入り込む。  里香子はベッドの中で精一杯元気そうな表情を見せる。 「なに言っているんだ。そんな体で」 「いいから見たいの」  少しぶかぶかなお気に入りのパジャマから透き通るほどの肌が見 え隠れする。里香子がベッドから起きあがると、今にも折れてしま いそうな体を腰下までたっする黒髪がバサリと覆う。 「大丈夫か」 「……ん! 平気」  彼女はにこりと笑顔を作り小さくガッツポー

          黒髪儀礼秘話外伝 ー罰の章ー

          朔:陰暦の月の第一日。ついたち。月と太陽とが同じ方向にあって、地球に対して月の暗い面を向ける。 岩波国語辞典第六版より引用 ――  -159 黒髪の禊を忘れてはいけないよ。  誰も見ていないように見えるけれど祠の神様は見ているからね…… 真理はがばりと跳ね起きる。もう初冬も過ぎたというのに、真理はじっとりと寝汗をかいていた。  手がかろうじて届く高さに置かれた目覚まし時計は午前4時を指していた。 「また、この夢を……」  真理はその夢を必ず週に一二度は見る。 夢? 

          黒髪儀礼秘話外伝 ー罰の章ー

          秘密基地

          今日僕は髪を切ることにした。  唯一合格した高校の校則で丸刈りにしなければならない。  本当は丸刈りにするのは嫌だ。  本当は違う高校に行きたかった。  せめて丸刈りになるなら、入学式ぎりぎり前よりこんな暑い夏休みの間にと思ったのだ。 でもそんな当初の思いとは裏腹に、僕の足は床屋とは全く反対方向へ自転車をこいでいる。  蝉時雨と暑い日ざしをかき分けるようにスピードを出す。やがて工事中の鉄柵が目に映った。  自転車を止めて、ほとんど役目を果たさない柵にするりと体をもぐりこませる

          空も飛べるはず

          今日私は髪を切ることにした。 携帯にそのタイトルでメールが届いたのはお昼休みに差しかかった頃だった。  朝早起きして超人気のパン屋でコロッケパン、カレーパン(辛口)そして限定五十個の メロンパンをゲットしたのだ。そして今至福の瞬間を味わおうとした矢先だった。  突然私の携帯から「マツケンサンバ」が鳴り始めたのだ。 「なあに……あんた、まだ松平健のファンなわけ」 「ウププ……。相変わらず親父趣味だなあ。和穂は」 「……うるさいよ」  顔が熱く火照りながらも私は心の中でつぶやく

          空も飛べるはず