「特殊転職仲介業者」

「トラックで人を跳ねることで異世界に人を送り込む仕事をしている人がいる」

 そんな話を私が聞いたのは五年前のことだ。

 Aさん(仮名:55歳)とは東京都内のとある喫茶店でのインタビューとなった。

 彼はいつもトラックに乗っているので大型駐車場か、高速道路のサービスエリアになると思っていたが、私が取材を申し込んだとき、ちょうど有給休暇を多く消費せねばならないことになったらしかった。

 それでもいつでも「仕事」に行けるようにカーキ色の運送服の上からジャンパーを羽織った姿である。

「この仕事を始めた理由ですか? あー、そこはやっぱりハミルトンの『スター・キング』が好きだったからでしょうねえ」

 Aさんはキリマンジャロを美味しそうに飲みながら微笑んだ。

「まあ、あなたは若い人だから知らないかもしれませんが、とある技術者の青年がふとしたことで数億光年の彼方にある異星人の世界へ送り込まれて、そこの戦争を解決するというお話でね。『火星のプリンセス』より僕はこっちのほうが好きだった」

 そうするとゴツくて四角い、いかにも肉体労働者、という顔の下に隠した知性が見える。

 某一流大学の院生で、末は大学教授、もしくは国外へ出て量子物理学かアルゴリズムの研究者になる道も開けていた。

「最初は冗談だと思いましたよ、『トラックで人を轢くのが仕事』って。何しろあの頃はまだバブル(時代)でしたから、仕事なんていくらでもある、人殺しならやりませんよ、って就職を世話してくれた人に噛みついたぐらいです」

 Aさんは某大学の学院生だったが、バブル時代には株で大分儲けたそうだ。

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神野オキナ

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神野オキナ

神野オキナ小説集

没にしたもの、書きかけのもの 物語系は全部はいってます 基本的にシリアス系です
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