(戯曲)(飲めない人のための)ブラックコーヒー

男1、真っ白な服を着て登場。テニスボールを玩び始める。同じ動きを繰り返し、激しく腹を立てているようである。
男2、同様に真っ白な服を着て登場。携帯ラジオを持ち、雑音を拾って聞いている。
男3、同様に真っ白な服を着て場場。白い旗を持っている。

男1、2、3、一列に並び、直立不動のまま観客に語りかける。

男1 いきり立った男根が自分の股間から飛び出して、縦横無尽に絵を描いているが、その絵は色彩豊かなクリームシチューを黒く塗りつぶし、ごろごろとした野菜は共食いを始め、乱れた秩序で振りまわされる髪の毛が一本一本と抜かれ床にぶちまけられ、顔をだした小さな人間たちが不安な顔をしてこの顔を覗き込み、どうかしたのかと醜い顔に黒い精液を塗りたくって聞いてくるその声は自分には聞こえないものの、口の動きははっきりと見えるので不安はなく、盛り上がった横隔膜がつまらないピストンをくり返しながら肝臓を削っている。その肝臓の裏にすくう無数の蜂が、丁寧な仕事で呼び鈴を押すと、メインディッシュが殺されて運ばれ、自分の口元に押し付けてくるので、舌の長くなりすぎた自分の口は、速やかに脳へと指令を送り、伝書鳩がやってきて、OKだと言う。こんがりと焼けた丸丸と太った汚らしい豚どもにフォークを差し込めば、太陽のまぶしさで、アイスクリームを舐めたオヤジが現れてどちらがお前の斧かというから、手始めにこのアングロサクソンの神様を俺は殺すことにしよう。殺せるわけがない! その気持ちがなによりも大事で、自分は自立の照葉樹林の畑に大きな赤い血塗られたまんまるの旗を立てよう。それでもう怖いものなどないから、言葉のしゃべれないラーメン屋の親父から奪った大きな圧力鍋に仕掛けを施し、マラソン大会で傷ついた無知なピーポーへあいさつ回りをする決意を固める。飛んでいた渡り鳥が空中で旋回を始め、浴びせかける糞尿の雨に集中をそがれ、アンケートを取り始めたテレビを一台一台壊し回り、各家庭、ススまみれの子どもが外に飛び出して手を打ち鳴らす、拍手、昔買った高価な絵画などとっくに汗ばみ、波が押し寄せてしまった。高すぎる椅子に座ったまま、各家庭に潜む不満分子をあぶり出し、食材にもならない、可能性としての鍋、不連続のバラ肉と無理やりの水、どれもこれもお前の宗教はなんだと迫るスピード、自分の宗教は24色の米を買い占めることのできる紙きれだ。石に打ちつけた赤い血も吸い取ってしまうだろう。昆布色の血管は、やぶれてしまっただろう。太陽はアメリカの通販で買った高枝切りバサミで半分は錆つき、半分は近所の子どもが母親のタンスにしまった。大声で助けを呼んでも、誰にも聞こえないから、叫ぶのはやめて、出られない部屋の中で荷造りをしていればいい。
人を殺したいほど憎むということを初めて実践し、現実に置き換えるとこんな感じになると思っている。

男2 疑問には答えない。そう決めて座っている、においがうつるのでできるだけ離れていてほしい。君は仲間のようだが、今の自分には不要だ、それは決意における決意にとって不要で不毛で不快でしかない。あの人を殺したいと思う気持ちを赤ん坊のように大事に抱えている。赤ん坊がやがて育つとき、自分も成長を感じられるだろう。胃からすべての液体が飛び出してきて、それがどれも緑色のサングラスをかけた君の兄弟だ。ひとりは右足がない。ひとりは左足がない。ひとりは両手首がない。ひとりは鼻がない。ひとりは鎖骨が足りない。ひとりは札束にばかり執着し、ひとりは食べ物にしか瞳孔が反応しない。すべての人種を広場に集めたら、君はその前で演説をしなければいけない。両手を挙げて、喉を絞り、グレープジュースを配布し、彼らの機嫌をとらねばならない。自分はもううんざりだ。それよりも深い森の中で、どしゃぶりの雨を享受し、山の幸を食べ、馬を乗りこなしていたい。安いスーパーを建設し、常に半額のセールを継続させながら、労働で疲れた人々の足を折る仕事もいいだろう。だが、その前に、自分の使命を、使命と感じるうちに、遂行しなければ。邪魔をしないでくれ。そして、どこかにその両手に抱えた心配事を埋めてきてくれ。見つからなかったガムがほら、手のひらにある。あとは噛むだけだ。噛んでいる間に、何人もの罪人が、その罪を手放せないまま、絞首刑台に自分でのぼって、自分で首を切っている。何万の血の細胞が、黒くゆがみ、怪物じみた受精卵を産み出している。早く止めなければいけない。この土地がそれらで埋め尽くされる前に、自分の正義感を最優先し、駆除しなければいけない。ゆがんだ土地をならし、ふたたび平行にし、種を植え、正しい花を咲かせ、処女の股ぐらに、この身を返さないといけない。銀行員が立つようになってから、国の株価は下がり続けている。頼んだものを頼んだ場所に納めなければいけない。そして、それから天国を夢見て、また楽園の建築物を博物館からひっぱりださないといけない。刀は研ぎ続けないといけない。お面のコーティングがはがれている、早く職人を取り戻さなければいけない。そのために川の表面をすべて汚染し、流れを食い止めないといけない。いつでもどこでもつながるまぶたの移植手術を全国民にうけさせないといけない。邪魔なものは排除しないといけない。排除した肉片の焼却炉はもう作られ始めている。まもなく完成したあかつきには、太陽の下で盛大な式典を開く準備もしなければいけない。

男3 かつて楽園だったこの場所の果実はみんなやつらが奪っていった。だから取り戻さないといけない。八百屋が困っている。深夜1時まで店を閉めないオヤジは酒を飲んでいるときに死んでしまった。やぶれかぶれの心臓をぶち破って出てきたのは、食べすぎで腹の出た、つり目の連中だ。誰かが清算しなければいけない。オリンピックを開き、出場する選手を揃えなければいけない。骨の折れる作業だ。探偵は役に立たない。すべてを太陽の下に引っ張り出さなければ。そして、鞭を持ってぶたなければ。もしも生き返るなら、その顔は味噌臭くなければ。違う神が祝言を述べているのを聞く必要はない。そしてまやかしはいらない。幻はもう見なくていい。すべてを白日のもとにさらすんだ。それから盛大なパレードを開き、地面には連中から抜き出した歯を削って埋め込んでしまおう。それが必要だ。中国人には聞く耳はもたない。養分が必要だ。我々にだけ。我々にだけ必要だ。辛子を入れすぎ腐った味覚の狂った連中に対策が必要だ。秘密警察を結成して、監視しなければ。新聞社をつぶさなければ。人の土地を自分の土地と妄想する狂った人間をあぶり出したあと、あぶら取り紙に押しつけなければ。途方に暮れる作業を貫徹する不屈の精神と鉄の肉体を、鋼のスコップとダイヤに輝く白い夏を。寒くない服と二重扉を。替えのきかない、神々しい山脈を。レシピの必要がなくなったスープを。プライドだけの言葉をしゃべる人間を殺し、埋め、さらに殺し、また埋め、春がやってきて、また殺し、部屋を借りてそこを死体処理場にしてしまうのだ。それから火をつければいい。金は日本銀行が代わりに刷ってくれる、心配するな。絆は太く揺るがない。蠅どもは駆逐してしまおう。綱に止まろうとする蠅どもを、この土地から追い出して、紅白の運動会を復活させよう。こいつらはいったいどこから沸いて出たのか、海で囲まれたこの青い大地のどこにもこいつらの発生できる場所なんてなかったのに。やるせなさは、後からやってこさせ、今は踏ん張ろう。そしていまのうちに眠っているのどかな蠅と豚の首を、ひとりひとり刈り取ろう、すると開ける先駆者の道。熊野の山奥の聖なる母体につながる道を取り戻し、クズ鉄を拾うものはいなくなる。我々だけ宙を舞うことのできる技術と協調性、落花生、を植えた畑を走り回るつたない純粋なちんぽ。かつて聞こえてきた街の魔法使いの飛び散る汁をすすり、喉を潤わす。そのためにいましなければいけないことを、石の上に座って、死んでいった同志たちに黙祷を捧げながら、粛々と遂行しよう。それが虐殺と呼ばれてしまっても、大事なのはこの胸の中にあるから、不安に感じることはない。そう、感じる必要はない。

男1 君は見えているのか。

男2 30年後のことだって見えている。いまのままでは、この地は危ない。この国はとても危ない。島々の四方八方から上陸する人工的な津波の数々。卑しい職業の人間が、ミサイルをかついで上陸する絵が見える。30年後の絵。略奪、殺人、

男1 それすらなまやさしい強姦の阿鼻叫喚、ニヤニヤ笑う虫がざわざわと土地を這い、走り回り、なんと気持ちの悪い! 早く殺さなければ、まだ対岸にいる今、上陸の前の今、これらを駆除しなければいけない。そのために開発されたゴキブリ用の瞬間冷却スプレー。各家庭に配布して、玄関に備え置き、チャイムの鳴らされ方に警戒を呼び掛ける。あいつらは朝にも昼にも夜にもやってくる。遠慮なしに。この味噌臭い醤油臭い日の出ずる大豆の楽園をイメージ、いつでも自慰行為に集中できるように。すこぶるさわやかな朝のために。

男1 君は悲しくないのか。
男2 沈黙。
男1 君は恨んでいるのか。

男2 希望でしかない。そのための排除と断定だ。絶望するものがあるというなら、この手にそれを返してくれ。なにもそんなことはない。なぜかと聞くなら、それは俺たちが魔法使いだからだ。全世界に知れ渡っている、魔法の世界のこと、自然と調和した美しさが。全世界で際立っている、アングロサクソンの世界でも!
できることならこんな高くそびえる椅子に座らされたくなかった。できれば、蠅の繁殖も豚小屋も鳥の産む卵も知りたくなかった。それから、それらを眼前につきつけられて、においを嗅ぎたくなかった。この目で見たくなかった。奪われた絵を取り戻しに、島までフェリーに乗って、行く。代々、受け継いできたものを次の子どもたちに卸していくのが重要な仕事だ。そして横に流すのでは断じてない! 早くしなければ。滞って腐って異臭をもう放っているじゃないか。何人かの売国奴が売り渡した手形を破り捨て、広い背中を見つめる。理想に燃えた若者が、摘み取られていくのを見るのはもうたくさんだ。足腰を絶えず鍛えてきた。老いに逆流する川を整備してきた。地震で足元がぐらつく中、着々と知恵を積み重ねて、おもちゃを作ってきた。わかっていないのは、この手でも、足でもない。わかっているはずだ。脳がなくなった連中のしてきたことは。

男3 渋谷、新宿、池袋、地下鉄、それから公園、すべて奪われてしまった。必死で守ってきた。いまこそ反撃ののろしを上げ、きれいな空気を吸い込むときだ。能舞台の補修を再開し、同士だけで集まる日は近い。感じられるのは風だけでいい。音楽に聞こえる言語には耳をふさいでしまえばいい。どうしてそんなに臆病なのか。隣人を殺して旗を立てることに。なくなった家の跡地に再び家を建てることに。そろそろ行かなければ。

男1 君は殺すことができたのか?

男3 部屋の隅という隅に、仕掛けを置き、しばらくのあいだ、じっと罠にかかるのを待たなければならなかった。そのあいだ、知恵を蓄積しなければ。図書館の頭脳は求められている。いま土に眠る人びとを起こし、昔話に耳をそばだてなければ。選ばれた人種であることを証明するランナーが、火を滔々と灯し、やってくるのを期待しなければ。宴会の準備を始めなければ。ランナーを迎え入れるゴールテープを新調しなければ。勇者は集団でやってくる。それは今日かもしれないし明日かもしれない。もしかすると一年はかかるかもしれないが、そう遠くはないだろう。なにしろ60年以上待ったのだから、もう待つことに品位を見せる必要もない。もう行かなければ。

女1、2、登場。
男たちの列に入り、横並びになる。
そのまま、一同、円を描くように行進を始める。
皇暦2656年1月、清瀬美沙子(当時10歳)は、川辺義雄(当時24歳)によって誘拐された。それから10年と3カ月後の皇暦2666年4月、美沙子は義雄宅にて監禁されていたところを、市役所職員によって発見された。20歳になっていた美沙子は極度に発育が遅れ、発見当時の体重は29キロと同年代の女性の平均体重をはるかに下回り、ほとんど歩くことができなかった。これから話されるのは、事件発覚から5年後の皇暦2671年の1月から3月に記録されたさまざまな証言である。

続きをみるには

残り 14,062字

¥ 333

期間限定 PayPay支払いすると抽選でお得に!

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?