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エクソダス時浦可偉 カミシモ2考⑤

千秋楽配信終了、お疲れ様でした。
ここから3か月強何もない過酷な無供給期間でどん底に降りてまた這い上がる準備をしよう。
検討の結果主役漫才コンビエクソダスについて、扱いに危険性難しさがあり、2人の記事を分けます。まずは素敵な素敵な座長からよろしくお願いします。

みんなの大社長 荒牧慶彦氏

荒牧慶彦
1990年2月5日(32歳)、東京出身。自身が代表取締役社長を務めるPasture所属。本事務所には田中涼星氏などが所属している。2.5次元業界では珍しいプレイングマネージャーである。なので、見せ方や仕事の進め方などがやはりうまい。本作もカミシモ1期から3コンビが追加となったが全員と共演済みだそうだ。
このpastureは牧草地のことで、所属タレントを羊と呼ぶ。

意味は以下ツイートで説明されている。慣用句「Pastures new」というのがあるそうだ。少し調べたところ日本語でのサイトはあまりでてこない。以下がでた。

COMMON If someone moves on to pastures new, they leave their present place or situation and move to a new one. 
Note: This is a quotation from `Lycidas' (1638) by the English poet Milton: `At last he rose, and twitch'd his Mantle blew: Tomorrow to fresh Woods, and Pastures new.' This is sometimes wrongly quoted as `fresh fields and pastures new'.

The Free Dictionary

ということで、ミルトンの「リシダス」という詩が語源と考えられるそう。ミルトンとは『失楽園』の著者で、アダムとイブが🍎を食べて追放されるあのエピソードである。リシダスについては、こちらのHPで全訳があった。感謝したい。リシダスの最後の分掌に「pastures new」が出てくる。

終に起ち、青き纏套マントを引き寄せり。
明くる日は新たな森と牧場まきばへと。
At last he rose, and twitched his mantle blue:
Tomorrow to fresh woods, and pastures new.

書肆・翻訳七里のブーツ

リシダスはミルトンの友人が遭難事故にあった悲しみを表現している。上で、腐敗聖職者層を断じている詩だそうだ。
そうなると、あらゆるインタビューが何かこう、とても深いものを感じるようになってきてしまって、なんだか記事を本当に書いてしまっていいのかとうろたえている。
一見オタクの邪推ほど不要なことはないので切り上げるが、こうやって歴史に根差したようなイディオムを冠としているところにも知的な奥深さや野心を感じ取れて凄い。
そもそも芸術は金のためでなく、表現者と鑑賞者のためにあるものなのだ。以下のインタビューの紹介に入りたい。

「僕らが信じている道を突き進む」

荒牧氏はまさにこの執筆時、2022年12月がデビュー10周年。モデルプレスがインタビュー記事を出したので必見だ。

記事曰く、2.5次元という”伏竜”が立ち上がり、ビジネスモデルが変わり始めているのを内側で、最前線で感じ生きた人間の独立の裏側や、「三国志」の趙雲に憧れて公園で棒を振り回していた子ども時代まで肉厚である。予告がないが後編もあるようで要チェックだ。
独立の背景について以下。

すべての事務所がそうではないと思いますけど、どうしても「いつまで2.5をやるんだ」と言われてしまうことって多いと思うんです。舞台から離れて、テレビや映画などの映像へ行かせようとしたり。でも、そもそもビジネスモデルが変わってきていると思っていて。単に映像に出ればいいということでもない。一度舞台を離れて映像作品に出て、そのあと出られなくなったらどうするのか。舞台に戻ってきたときにファンの方がついてくださるのか。そういう意味でも、2.5次元舞台に特化した新しい事務所を立ち上げてしまったほうが、僕らが信じる道を突き進めると思った。それに沿ってくれる事務所さんってなかなかないので。

モデルプレス 提供:ザ・テレビジョン

俳優として感じるお客さんの手ごたえと、より金脈に近づけたいダーティな世界。というと言い過ぎだろうが、最前線の中心にいたからこそ感じる他者のステレオタイプの貧しさがあったのかもしれない。

さてそんな彼は独立後2.5次元俳優として『ネプリーグ』(フジテレビ)など地上波への露出を増やした。2022年6月には日本武道館で、俳優たちでチームを作りオリジナル演劇を披露する「演劇ドラフトグランプリ」。12月には明治座で『殺陣まつり~和風三国志~』を上演するなどプロデュースとしても活躍の幅を広げている。また、筆者妻曰く、ゲゲゲの鬼太郎やサザエさんなど、「原作が枯渇しがちな2.5次元界において、古典作品も新たに料理できることを示している点も貢献度pt高いっす」とのことだ。

日経xTrendの記事曰く、以下だった。

2.5次元の舞台に立ち、懸命に演じ続けたことで、テレビ出演などの機会が増えました。最初は1人でバラエティ番組へ出演させていただくことが多かったのですが、既に出来上がったプラットフォームに僕が1人で入り込むには限界があることに気がついて。状況を打破するには、「2.5次元」というパッケージごと乗り込むしかない(笑)。その思いに事務所スタッフや番組側の方たちが応えてくださったおかげで、“2.5次元チーム”として戦友たちと一緒に出演するようになりました。

日経xTrend

その延長線上で、『ろくにんよれば町内会』(日テレ系)が始まった。さて、ここでこの放送会社名、そしてプロデューサー名に見覚えがあるだろう。

橋本和明氏である。

Pカップ

ようやくカミシモ2の話になる。

エクソダス・時浦可偉という造形

カミシモ2の開催にはこうした荒牧氏のさまざまな場所での活躍が結実していると筆者妻は見ていた。よく分からなかったのだが本記事執筆においてさまざまな考えに触れるうちにそうとしか見えなくなっている。
というか、本劇は売れないけどネタは面白いという4コンビを、ディレクター坂本が無人島ロケという無茶企画で押し上げようとする物語である。2.5次元というブレイクしそうな波を信じて乗りこなした荒牧氏。こちらが勝手に投影するわけではないが、純文学的な要素がある。なんなら、すけこましではない太宰治大翁にすら見えてくる。いつか『人間失格』をやってくれぇ!!ください。

パンフレットにはカミシモ1の公演でどこまでやれるかということで、「お客様の大爆笑に救われて、自信をいただきました」とあった。そのお客様に恩返しするために、本公演ではネタを2作ずつ作ってもらい、日替わりで見に来るお客さんの満足度をさらに高めようと提案したのだという。

荒牧氏は本当に「どうやったら喜んでくれるだろう」という思いを常に感じる。が、若干、それが強すぎて筆者にはこう、不気味の谷的な、なんというか「あなたのことを思っているよ」的な若干の怖さを毎回感じてしまう。私は刀剣乱舞とpsycho-passを見ている。もちろんこれは好みのレベルだから決して否定ではない。それほど稀有な存在であると思う。

さて、本作カミシモ2では、1に引き続き、売れないけれどもネタへの最大級のこだわりを見せて、屈折しているが一直線な主人公・時浦可偉役を演じている。内向的でギークな役柄である。前作で、通称”財布事件”の加害者を疑われ、売れない芸人が集まる「湘南劇場」に島流しになっている。その島流しに合った先で出会うのが、和田雅成氏演じる島世紀である。

島は短気で行動的、けんかっ早いが、裏表があまりない。対照的な二人が言い合うシーンが序盤に畳みかけられて一気にひきこまれた。
ネタへの向き合い方について、時浦は洞窟に閉じ込められるシーンで「暗闇を進むのはネタ作りと似ている」ということをつぶやく。島はネタ作りについてディスることはなく、感覚的に「ボケがややこしい」などを指摘するのだが、それは的を得ていて、焦燥感をいだいている時浦にはささる。一方で島がネタの方向ではなく、無茶ぶり企画を楽しんでいるようにも見える(実際はロケ後にネタをやりたいからがんばっている)ことに対してもとげとげしい感情が芽生える。
そういった「相方」という距離感の微妙さを丁寧かつ迅速に体現する意味でも、かなり難しい。馬鹿にしているけれども頼りにしている。本当はもっと言ってほしいけど言ってほしくない。尊敬しているけど……ってああ!なんだこれ!恋かよ!!

時浦の相関図

概略はこうなる

時浦中心の世界

彼は以下の絡みがある。

ポジティブ

  • ノノクラゲ―養成所の同期。何でも話せる

  • お母さん―応援してくれている思いに応えたい

ネガティブ

  • 島―相方ともっとうまくなりたいのに!

  • 岬―財布取ってません!昔は仲よくしてくれたのに

  • 高砂―岬さんとイチャイチャしやがって!

  • ディレクター―おれはネタ芸人だ!

ほぼ刀剣乱舞である。基本的に彼は感情の起伏が激しい役柄にはなる。そして何より、内向的なのだからなかなか前には出ない。という意味では縁の下の力持ちの役回りだ。

この文脈を演出するうえで、荒牧氏は今回「本当は僕とのネタじゃなくてこういった企画の方がやりたいんだ!」「へーんだ!」「ふーんだ!」という幼稚なセリフが混じっている。ここがミソである。全国の幼児が悪いわけでは決してなく、大人を描く際に幼稚さを用いるというのは、滑稽を演出したいからだ。
ではなく、ここでは、デフォルメされているとはいえ、キャラクターの本心で出さなければならない。一見すると笑ってしまいそうなのだが、(もちろん笑ってもいいのだが)終盤の解決に向けてはシリアスさを堅持しなければならない。以下の動画では島がロケに没入していることへ異議を呈している。

彼のネガティブさがポジティブさに変わるというのは、簡単に言うならブラームスの交響曲第1番である。暗から明へ、というのは簡単に見えて非常に難しい。暗い部分をとにかくリアルに、ドメスティックに行わなければならない。なのでほぼ刀剣乱舞である。

起伏を付けながらもストーリーを進行させ、アドリブを収拾し、時には助けてもらい進める。そうこの助けてもらう余地をつくるのが荒牧慶彦という演者の、座長としての凄まじい舞台設計能力なのだと思う。全部引っ張るのではない、不器用なところがある、ところに観客はメタにも引き込まれていくのだ。迷える羊は、決して代表取締役、あなたではない、私たちだ!!!

エクソダス時浦可偉のアドリブ

ネタについてはまた別の記事で参りたい。もうこれはカミシモのブログではなくなっている。
アドリブはいろいろあったのですが、二つほど。

アドリブ① 三代目JsoulBrothersに謝れ!

冒頭の楽屋で、時浦の因縁等が整理された後、楽屋に入れとディレクターにキレられるシーン。そこでディレクター坂本が「売れない芸人」であることを強調するためにエクソダスのコンビ名を言い間違えるアドリブがある。
見たときは、メクソダス、エロ男爵、千秋楽は目くそ鼻くそなど言われてそれに対応する返しを和田雅氏が行う。
おそらく権利の関係上放送回ではなかったうちの一つに「エグザイル」がある。ここで、和田雅氏が「誰がEXILEや!踊ったろか!」といって、ライジングサンを踊り出す。横で、荒牧氏は三代目JsoulBrothersの流星をする。

いずれもブームは一昔前なのだから、和田雅成氏がよく拾ったと思うのだが、これはEXILEではない。「三代目ジェーソールブラザーズに謝れぇ!」といって謝らされた。その回は舞台転換後やダンスパートで他の芸人らにいじり倒される。三代目の回し者ということで謝罪はもとより、再ブームの着火役であろう。

アドリブ② 日本・チャ・チャ・チャ

サッカーWカップが開催されていた。そこで漫才のツカミの際に、「応援の練習しましょう!」ということで、「日本!」と言い、客が拍手するくだりが入る。
そこで、
・日本!→チャチャチャ
・日本!→チャチャチャ
・おもちゃの!→チャチャチャ
・おもちゃの!→チャチャチャ
・チャチャチャおもちゃの→チャ・チャ・チャ!
を繰り出した。客をアドリブにつき合わせる双方向性。彼は巧みなマーケターである。そして日本はドイツに勝つ大波乱を巻き起こした。彼は巧みな軍神でもある。

荒牧氏+私たち=永久機関

もうここで言葉はいらないだろうが、更に付言すると、ダンスパートだ。ダンスはキレッキレの役者が他にもいる。もちろん隣の大阪代表がだめだめであることや先輩ら…
が、彼は遜色ないダンスを披露している。もちろん殺陣もすごいのは知っている。それはとってもうまいというよりは、「すごく練習している」(妻)ようにみえるダンスだ。漫才もそうだ。完璧ではない。しかし着実に演技の幅が広がっている。そうやって、こう、次の舞台に誘われていくのだ。
成長物語がずっと続く。その彼の成長を見て、私たちも成長していく。

そういった永久機関に私たちは組み込まれている。(千秋楽カーテンコール・荒牧氏のお礼/ドラマへの意気込みの言葉より借用)

ストレイシープ、ストレイシープ……

夏目漱石『三四郎』


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