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【斬る】みずほ銀行「退職勧奨」「懲戒解雇」訴訟

24年4月24日、みずほ銀行に懲戒解雇された元行員男性が、同行に(1)懲戒解雇無効、(2)長期間(約4年間)の自宅待機に対する損害賠償、を求めた裁判の判決があった。
東京地裁は(1)の懲戒解雇は有効であると認めたうえで、(2)の長期間の自宅待機は違法であるとして、その点について、同行に損害賠償を命じた。

このnoteでは、企業の労務担当者向けに裁判の要点を再整理して、担当者が気を付けるべきポイントを伝える。

このnoteの執筆にあたり、複数の記事を閲覧した。事実のベースになっているのは、下記2本の記事である。

この事案から企業の労務担当者に知ってほしいポイントは二つ
☑一足飛びの懲戒解雇はNG。段階的な処分で改善の機会を与える。
☑出口戦略のない自宅待機命令は行わない。

以下、順を追って解説していく。


時系列の整理

まず、本件の時系列を整理しよう。
2007年 原告の元行員男性(以下、男性)が、みずほ銀行に中途入社
2016年4月 みずほ銀行が男性に退職勧奨を実施。自宅待機を命令…①
2020年 みずほ銀行が男性に対して、出社を命令し、銀行で働き続けるかの意向確認を実施…②
 男性は出社命令に応じず、意向確認にも回答しなかった…③
 意向確認に応じない男性に対し、みずほ銀行が2度の懲戒処分を実施…④
2021年5月 処分を受けても回答をしない男性をみずほ銀行が懲戒解雇…⑤

争点の整理


今回、男性が主張したのは、
(1)懲戒解雇の無効
(2)長期間の自宅待機は違法
この2点だ。

(1)懲戒解雇の有効性


まず、1点目の懲戒解雇の無効について、なぜ裁判所は有効と認めたのか。
ポイントは「段階を踏んだ処分」だ。時系列整理の③を確認してほしい。
出社を命令した2020年以降、男性が「欠勤」をしているとして、男性に処分を実施している。

企業における処分は、企業自身の「組織の秩序を維持する・規律を守る」ために行われる「制裁」だが、「従業員に改善の機会を与える」という側面もある。
ルール違反をした従業員に対して、違反の内容・重さにかかわらず懲戒解雇にしてしまうと、なにより違法であるし、組織も弱くなってしまう。

一つの事案で懲戒解雇に該当する場合を除き、「それはルール違反であり、悪いことだ」と気づかせて、社会人としての自覚と反省を促すために。従業員も立ち直り、大事な戦力として会社に貢献してくれる。

ルール違反をした従業員もそれ以外の従業員も、ルールを守る意識と、「改善の機会」を与えてくれた会社への帰属意識が高まる。安心して働けることで貴重な人材が長期間在籍し、経営も安定する。

これが社会のコンセンサスである。

少し遠回りになったが、この「改善の機会を与える」というのが重要だ。
問題社員がいたら、
☑本人に弁解の機会を与える
☑そのうえで処分を実施
☑段階的に処分を重くする
それでもなお「改善」が見られない場合は「懲戒解雇」とするのが妥当な手続きだ。
今回の裁判でもこの手続きを踏んでいることが、懲戒解雇の有効性を判断する基準となった。

(2)長期間の自宅待機の違法性

2点目の「長期間の自宅待機」について。
裁判所は、①から②までの期間、約4年間を「退職勧奨後の自宅待機」、それ以降の期間を「欠勤」と判断した。
(男性は①~⑤の期間を「自宅待機」と主張していた)

自宅待機間を4年間と認定したうえで、退職以外の選択肢を与えない状態を続けており、「社会通念上許容される限度を超えた違法な退職勧奨」とした。

「社会通念上」を平たく言うと「社会一般の常識」で、「社会一般の常識から考えても許されない長さだから違法」と裁判所は認定した。

では、妥当な時期はどれぐらいか。記事によると、「2016年10月には復帰先を提示すべき」と裁判所は判断した、という。
男性が自宅待機命令を受けたのは、2016年4月だから、自宅待機の妥当な期間は半年間、というわけだ。

ここでのポイントは「出口戦略」はあるのか?という点だ。
自宅待機を命じるとしても、「何のために行うのか?(目的は何か)」「それはいつまでに行われなければならないのか?(デッドラインはいつか)」「目的が果たされない場合、どう終わらせるのか?次の対応はどうするのか?」などが決まっていないと、今回のように、漫然と続けてしまうことにもなりかねない。

企業内での処分は「秩序維持・規律順守」のための「制裁」だと、すでに書いた。
「規律順守」は企業から従業員に向けられている一方通行のものではない。
企業にも襟を正して処分を行うことが求められている。

「自宅待機」は、処分ではないが、退職勧奨の延長にあることを考えると、処分に並ぶ重大な行為である。
この運用にまずさがあると、今回のように、「損害賠償命令」「企業名が報道される」などの、いわば「制裁」を企業が受けることになる。慎重な運用が必要だ。

この「出口戦略」の難しさもあって、私は、特別な場合を除いて、「自宅待機」をあまりお勧めはしない。

おわりに

今回伝えたかったポイントは二つ。
☑一足飛びの懲戒解雇はNG。段階的な処分で改善の機会を与える。
☑出口戦略のない自宅待機命令は行わない。

以上、ご高覧ありがとうございました。


企業の労務管理担当の皆様、お疲れ様です。

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