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ご質問にお答えします(3)

第6章(2)からどうぞ)

Q.「株式投資」の役割、意義を教えてください。

 現代の小口投資家が資本をもち、事業リスクをとって、リターンを期待しつつも、経営の詳細については知らなくてよい、という、ピケティのいうR(リターン)を目指すための近来まれにみる優れた発明品と言えます。償還の約束がないかわり、その事業が持つ無限の成長の可能性を獲得することがその投資家からみた役割です。

Q.資産分散の意義とは何でしょうか? 

投資のリスクを「特定の問題」で受けとめてしまわないために分散します。

世界的・長期的・平均的にはビジネスや不動産などへの投資のリターンはインフレ率+3%くらいは期待できますが、日本だけ、ブラジルだけ、などと特定の国だけに投資すると、仮にその国の中ではさまざまな株式に分散していてもひどく悪いリターンになる時期にあたってしまうかもしれません。当たると大きいかもしれませんがはずれも大きいということになります。また、先進国だけに投資すれば、新興国の成長の機会からはずれることになります。

できるだけ幅広く投資するほど人間の努力の成果を安定して手にする可能性は高く、狭く投資するほど特定のチャンスとリスクに集中することになります。分かりやすさから日本株だけに投資される方は少なくないですが、それすら投資対象の「集中」であることを確認しましょう。

逆に、3%程度のリターンで良いと決めてしまえば、資産を集中する必要がなくなります。例えばグローバルREIT投信のように幅広く投資対象が分散された金融商品でもリスクは10%程度あることが多いです。10%のリスクなら8%程度のリターンを期待することになります。世界株式ならさらにリスクと期待リターンが高いでしょう。リスクの低い債券などの資産と組み合わせて、頑張りすぎない投資をするほうが適切です。

そもそも、ドキドキしたり脳の機能低下防止のために勉強したりすることは消費的な考え方です。投資は他の人に任せることができるはずです。それが3%程度と決めるポイントになります。自分で頑張って財務分析をすることは普通の投資ではなくて、仕事としての投資になってしまいます。それは引退ではないように思います。

引退後に、脳の機能低下防止を兼ねて財務分析をしても、ハラハラしながら株式銘柄選択を行ってもいいのですが、それは「潤いの生活のための投資」とは分けて「消費」とみなしてください。コアの投資は退屈なものなのです。他の人が働いてくれるのですから。

Q.バランス型ファンドを持つ意味とは何でしょうか?

潤いのある生活のために、コアの投資について、投資の手間をプロに任せるということです。「リバランス」のことを考えるだけでも分かります。

例えば、株式と債券を50:50で保有していたとして、そこで株価が2倍になると、保有比率は66:33になってしまいます。そうなるとリスクが株式に偏るので株式の比率を減らすリバランスを行うのが適切ですが、どのくらいの頻度でやるとよいのか、また、どのくらいリバランスのコストを低減できるかという問題に直面します。常に市場や保有比率を監視し、売買を決めるのは意外に面倒ですし、研究も必要です。またリバランスのための取引コストも、資産が大規模なら相対的に低く抑えることも可能です、小規模だと大きくなりがちです。

投信の世界では、テーマ型の株式投信(サテライト型)などがよく新しく開発されます。債券、株式、REITなどの幅広い資産にバランスよく投資する商品(コア型)は、値動きが相対的に小さく、売買が活発ではないケースも多いことなどから、その意義を問われることもあるようです。

しかし、バランス型ファンドですら、リスクが5%、期待リターンが3%程度の商品が少ない(もっと高いリスクとリターンが多い)傾向にあり、自ら預金などと組み合わせて調整する必要があるほどです。今のところ低リスクのバランス型ファンドをコアの潤いのための投資の重要部分としておくのが良いと思います。

Q.ポートフォリオを作るようにと言われますが、どうすればいいのでしょうか?

ポートフォリオを作るとしたら、目的を明確にしてください。まず将来必要となる医療費などを含めた保険や年金などの備えのお金を切り分けます。残った部分を潤いのある生活のために、インフレ+3%を目標に、40歳から60歳までの20年程度、世界に投資するとしましょう。

コアをリスク・パリティや3分法などのバランス型ファンドで持つことが良いでしょう。それでも多くの場合、バランス型の期待リターンは5%を超えることが多く、その分リスクも高くなります。グローバルな債券ファンドや日本の債券中心のファンドなどを組み合わせることで、全体としてリターンとリスクを下げてよいと思います。バランス型ファンドであれば、市場の変動などで保有している資産のうちの一つだけが突出したりした際は、ファンドの中でリバランスしてくれたりしますので、自分のポートフォリオを(所得や目的など自分の都合が変わらない限り)あとあと調整しなくてすみます。

潤いのある引退生活のための長期投資においては、株式を選んで銘柄の入れ替えをしたりすることは望ましくないと思います。特に潤いのある生活を目指すコア部分は目的を明確にインフレ+3%などと想定して、投信を活用するなどして自ら頻繁に手を入れなくてもいいようにしておきたいものです。

さて、資金と時間に余裕のある人は、サテライト投資を考えるかもしれません。特定のテーマ(ロボティクスとか)を好んだり、あるいは特定の企業や国などに詳しい、といったことは個々人にはありえますから、さらなる余裕部分で自らモニターし判断変更やタイミングに応じて売買するポートフォリオを作ってもいいかもしれません。人工知能の銘柄選択を信じる投資がお好きかも知れません。しかし、そこはここで考える「投資」の枠の外にあります。個々人のお好みでどうぞ。

Q.金利上昇の時代になるのでしょうか。「債券の時代」は終わったのでしょうか。

金利は時期によって、ある程度の時間、継続して上がったり下がったりする傾向にあります。リーマンショック後、世界的に低下を続けてきた金利水準は各国中央銀行による利上げをきっかけに上昇傾向に転じています。

「債券の時代」というのが、金利低下時に株などを凌駕するパフォーマンスであった時期を意味するなら、その時代がしばらく終わる可能性はあります。しかし、金利上昇が緩やかであれば、金利の高い国の債券であればクーポン収入もあるので、パフォーマンスがマイナスにはならない時期も続くかもしれません。

潤いのある投資の観点からは、債券を持つことの意味とは、社債などで人々の努力の成果をリスク負担に応じて獲得することと、トータルで3%程度でよいリターンのために、リスクとリターンの高い金融商品と併せ持つことでリスクを調整することです。後者のためには、「債券の時代」とかに関わらず、リスクをとりすぎないように、債券を潤いのある生活のための投資の対象としておくことが重要です。


第6章(4)に続きます)

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