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評価損益はコア投資には重要じゃない ~ 投資したあとにすべきこと(2)

第5章(1)からどうぞ)

評価損益を理由に投げたり利益確定したりしなくていいはず

投資家は折に触れて、自分の資産が現在どうなっているのかを確認する必要はあります。しかし、投資の目的は引退後の「潤いのある生活」、つまり消費です。増やすこと自体ではありません。いま足元でどれがいくら儲かっているか、または損しているかにあまり気を取られ過ぎて目的を見失わないようにしてください。

それよりも、例えば65歳からの毎月の取り崩し(あるいは毎月分配)などに向かって、いま準備できているかに心を配ってください。

仮にETF(上場投資信託)を複数組み合わせて保有している場合、いつのまにかある特定の資産を対象としたETFだけが残高が増えていたりすると、その資産の動きに振り回されることになるかもしれないので、増えた分の割合を減らして、逆に減った分を増やす「リバランス」を行うのが良いかもしれません。あるいは、複数のETFを併せ持つ代わりに複数の資産で構成されたバランス型投信を保有して、「リバランス」は投資信託に任せてしまっているなら、もちろんそれはそれでかまいません。

また、長く投資をしている間に、家族の結婚などで構成が変わったり、将来の消費の想定が変わったりすることもあるかもしれません。これは人任せにしにくいですね。投資家が自分で考えねばならないことは人により違います。

注意したいのは、長く保有している間の評価損益は具体的な利益や損失ではないということです。実現損益と評価損益の区別は重要です。評価損益は一種の信号であり、見るべき数値ではありますが、将来の現金の受け取りプランに変化があるかどうかはケースバイケースです。

投資家が年2%クーポン(利札)の10年で償還される債券を利回り2%(100円)で買って保有したとしましょう。毎年2円、月あたり0.17円を手に入れる権利を持ち、それを入手するためのコストは100円だった、という設定です。さて、半年後に市場参加者のインフレへの期待が増して金利が上昇し、同じ債券でも利回りが3%に上昇し、2%クーポンの債券の価値は下がるので価格が90.5円になったとしましょう。9.5円(9.5%)の評価損です。とても損した気がしますね。でも、ふたつのことを思い起こしてください。

まず、投資家が想定しているのは毎月0.17円を入手する権利を持つことでした。市場の価格の変化はこれに影響を与えましたか? いいえ、与えていません。投資家は変わらず、毎月0.17円を入手し続けることになります。

もうひとつ、毎月0.17円を入手する同じ権利を得るためにあなたは今いくら必要ですか? 90.5円です。つまりいま売ったからといって同じ権利を獲得するためにかかる必要額も減っていますから、「他によりよい何かがある」わけではないのです。

値上がりしたとしても同じです。仮にデフレ懸念が強まり利回りが1%に低下したとしましょう。2%受け取る権利の価値は上昇し、109.5円になりました。9.5円(9.5%)の評価益ですので、ちょっと嬉しいかもしれません。しかし、よく考えてみましょう。あなたが入手するのは同じ月0.17円です。同じ権利を獲得したいとすれば、その時の価格は109.5円ですから、そのまま持つしかありませんよね。

原則として評価損益は新たな行動の原因にはならないはずです。あまりに大きな損失は当初想定が変化している(例えば投資先が潰れるとか国がデフォルトしそうとか)可能性があるので、他にましなものがあるかもしれないという意味でチェックはした方がいいですが、市場参加者の期待の変化など通常の環境の変化の範囲内でのぶれであると想定すれば、めったに売買につながることはないでしょう。

ある資産の比率が大きくなりすぎるとリバランスで調整しますが、金額全体のバランス(すなわちリスクのバランス)であって評価損益のバランスではありません。

このように、評価損益は、市場参加者のある権利の評価の変化を意味するにすぎないのであって、投資家の受け取る額の変化を意味するわけではないことにくれぐれも注意してください。利益が出たから利益確定で売却するなどしても、同じものを手にしようと思えばその時の高い価格を支払うことになるのにすぎません。住宅も高くで売って安くで買い直せば得をするかもしれませんが、その間住むところがないというのでは生きていけませんよね。投資も評価損益ではなく自分の潤いのある生活のために受け取る額のコントロールをしているということを忘れないようにしないといけないのです。

投信を保有する時には、その投信が過去どの程度の価格変動の程度であったかを見ておいてください。1年間に10%程度は平均して動いているかもしれません。そうであれば5%以上のリターンを期待すべき商品かもしれません。そのあたりを確認したうえで、債券などが含まれていて、株価が半分になってもだいたいファンドの価値は70%程度でとどまるだろうといった感覚だけは想定しておいてください。

3%程度のリターンを期待する投資では、これでもちょっとリスクも期待リターンも高めですから、もう少し現預金に近いファンドを保有して組み合わせるか、別に持っている預貯金とまとめて管理することにしてもいいと思います。

第5章(3)に続きます)


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