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お願いマッスル

今回は、かなり心が狭く攻撃的な文章が書かれているので、そういうのが苦手な人は読まない方が良いです。

前に「お ぼ え て い な い」という記事でも書きましたが、僕は本当に記憶力が低いんですよ…。面白いと思った映画や本の内容でもすぐに忘れてしまうというか。例えば、自分のKindleをチェックしたら、「「ほとんどない」ことにされている側から見た社会の話を。」という本があったんですけど、最後のページまで読んだ形跡があるにもかかわらず、僕は内容を全然覚えてなかったのです。で、あらためて読み始めたら、どことなく読んだ記憶はありながらも新鮮な気持ちで楽しめたのだから、これはこれでオトクではある。とはいえ、前に読んで「いいこと書いているなぁ」なんて感心したことをすっかり忘れていたワケだから、やっぱりダメなんじゃないかと(本自体は非常に読みやすくて面白いので、ぜひ読んで!)。

ただ、例えば、ぬまがさワタリさんが宇多丸さんの「チャーリーズ・エンジェル」評に対して的外れな指摘をしたことは永遠に忘れないように(宇多丸さんが「オリジナルのファン」という視点がスッポリ抜け落ちてる)、モヤッとしたことは逆にずーっと記憶に残っていたりするのだから、人間とは面倒くさい生き物ですな(勝手に自分以外の人も巻き込んだ文章)。さらに例えば、数ヵ月前に読んでなかなか勉強になった「男らしさの終焉」でも、一番記憶に残っているのは、「男性性がもたらす有害性」とか「己の男性性との向き合い方」とかではなく、筋トレや筋肉を批判的に書いた部分だったりする…という、ナチュラルに心が狭いアタシ。

ここからダラッと文句を書きますね。著者のグレイソン・ペリーは同書のp099で「理想的な体型になりたいと、より多くの男性が思っているという事実は、男性性の変化が伺えるので良いことである」と書きつつ、「マイナス面もある」として、「女性を食欲不振や過食症にするのと同じ圧力にさらされている」と。で、プロのボディビルダーやアスリートのような肉体を求めることを「過剰な男性性」と指摘していて、そのこと自体はわからないでもないのです(つーか、女性に対する社会の圧力とはまったく比べものにならないレベルだと思うけど)。ただ、p100で「今日のサービス産業の労働者にとって、ベンチプレスで百五十キロのウェイトを持ち上げる筋力はまず必要ない」なんて書いてるから、ごめんなさい、厭な奴だなと思いました。

というのは、「そんなことすらわからないで、トレーニーたちが筋トレしてると思ってるの?」と。筋トレを長年やっていれば、誰もがある程度は自分の限界を思い知るものですよ。だけど、それでも日々積み重ねながら自分の身体能力を少しでも上げる(もしくは維持する)ことを趣味として楽しんでいるワケでさ。別に「ベンチプレスで150キロを挙げたってデスクワークの役には立たない」なんてこと、十分わかっていて。でも、誰にも迷惑をかけない「小さな自己実現」として楽しんでるんだから、別にいいじゃないですか。ちなみに、もし僕が飲み屋でベンチプレス150キロ挙げられる「サービス産業の労働者」に出会ったら、「必要ない筋力」なんて思わず、普通に「スゴイですな!」と褒めますけどね(※1)。

あと、p101では「モリモリの筋肉はセンスが悪い」と書いているんですが、それも大きなお世話じゃないですか。著者はさぞセンスが良い方のようですけど、「自分の理想の体」を目指す人をバカにする権利はないし、批判すべきなのは「多様性を認めない思想」や「有害な男性性」であって、「過剰な筋トレ」や「過剰な筋肉」に罪はないでしょうよ。なんかね、90年代に入ってから、シルベスター・スタローンやアーノルド・シュワルツェネッガー、ジャン=クロード・ヴァン・ダムなどの筋肉を露出してきたアクションスターたちが、「意識の高い映画ファン」にバカ扱いされてきた歴史がありましたけど、そういうことも思い出して結構ムカついたというね。

って、酷くディスってしまいましたが、確かに世の中には「嫌なマッチョ」がいるから、著者がこういった文章を書く気持ちも理解できなくもないんですよね…。とはいえ、決して誰かをマウンティングしたいために筋トレをしたり、筋肉を求めたりしている人ばかりではないし、なんて言うんですかね、現代社会におけるジェンダー云々の問題提起はとても良いことだけど、それを笠に着て何かを批判するなら、もうちょっと慎重にやってほしいなぁと(せっかく良いことを書いている本なのだから)。まぁ、こういうのってブーメランになりそうなので(汗)、僕も気をつけたいと思います。おしまい。



※1 もちろん「自慢の程度」にもよるけど、それってベンチプレスに限った話じゃない。


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