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質問力は武器になる

質問というのは、基本的にはわからないことを相手に聞くということなのですが、単にわからないことを聞くということ以外にも、実はいろいろな場面で違った目的で使われています。

質問は基本的には、授業中や会議、商談、セミナーなど様々な場面で、説明を受けた側が説明者に対してわからないことを聞くということなのですが、多くの人が経験したことがあると思いますが、質問の内容で質問者の理解力がわかってしまうだけでなく、その人の性格や知識力、コミュニケーション力など、いろんなことがわかってしまう場合があります。
つまり、質問力というのは、その人の能力そのものなのかもしれません。

国会で与党を追及する野党議員で、するどい質問をする人を見ると「できそうな人」だなと感じますよね。現実に、国会での質問のうまさが、その後の出世にも大きく影響していると思われます。最近話題の民進党の山尾議員が、待機児童問題での質問の鋭さで頭角をあらわしたことも最近報道されていますよね。しかしながら、この人の場合は他の理由で出世できなさそうということではありますが。

テレビの刑事ドラマでは、出世はしないものの他の人とは違う観点を持って、常に鋭い質問で犯人を追い詰めていく刑事だけが、結局は事件を解決できるなど、質問力は真実をきちんと炙りだす力でもあるかもしれません。
また、私自身、最近数十年はおまわりさんと話をしていないと思いますが、若いころバイクに乗っているところをパトカーに止められたりして(悪いことをしたわけではなくです)、おまわりさんにいろいろと質問をされたことがあります。おまわりさんが、いろんなことを聞いてくるのですが、しばらくするとまた同じことを聞いてきて、このおまわりさん、頭悪いんじゃないかとイライラした記憶があるのですが、実は、それはわざとやっていて、受け答えにつじつまが合わないことを見つけるためにやっていると後で聞いた覚えがあります。
テレビのドキュメンタリなどでも、夜の都心を巡回中のおまわりさんが、不審者に声をかけて、いろんな質問をしながら実は麻薬所持者であることを突き止めていくなど、警察官は質問力が職務のために必要なツールなのだと言えると思います。

会社の中で、会議中に発言の多い人が出世する傾向があることは、多くの人が感じるところだと思います。また、出世するタイプの人は、他人の話に対する質問力も備わっていて、するどい質問をします。
一生懸命に書いた報告書を上司に持っていくと、上司からこちらが見落としていた疑問点をたくさん突かれ、宿題をたくさんもらって引き下がってくるなど、思い当る人も多いのではないでしょうか?
上司は人のやったことを批判だけしてりゃあいんだからと、恨み節を言いたくもなりますが、客観的に見ると上司が正しく、自分たちが自分たちの仕事に対して冷静な疑問を持つことなく、つまり、思い込みがたくさん残っていることを解決しないままに報告してしまうというケースがほとんどだと思います。
つまり質問は、仕事の完成度を高めていくためにも使われています。本当は、自分のやったことに自分で疑問を持つことで仕事の質を高めていくべきで、“なぜ?”を5回繰り返せ、という教えがありますが、これは自分自身への質問力なのだと思います。

日本人はセミナーなどがあって質問の時間が設けられていても、大勢の前で質問するのを憚って、おとなしくしている傾向があります。
アメリカの大学で講義を受けたとき、アメリカ人(ヨーロッパ系の人たちも)は、とにかく授業中に発言をしたがる、というか教授がしゃべっているよりも学生たちが発言している時間の方が長いくらいだったという経験をしたことがあります。中国でセミナーの講師をやったときには、質問時間になると次から次へと手を挙げる人がいて、すべての質問を受けられないということもありました。
その同じ内容のセミナーを日本で実施したときには、質問はほとんどありませんでした。
説明をした側からすると、興味がないのではないかという失望と、ほんとうに理解してくれたのかという疑念が生まれます。

質問というのは、実はわからないことを埋め合わせるという目的以外に、相互のコミュニケーションを確立させる、あるいは進展させるという目的があるように思っています。
なので、私自身はどんな種類の説明を受けたときにも、必ず一つ以上の質問をするように心がけています。それが、説明に対するこちらの理解度をフィードバックして、さらに次のコミュニケーションをスタートさせるものだと思うからです。

よく質問の場面で、質問を聞き終わった説明者が、「良い質問ですね。」ということがありますが、この場合の良い質問は、説明者にとって「良い」質問という意味で使われることが多いと思います。つまり、説明者にとって都合がいい場合で、もう少し時間をとって話したかったけど十分に話せなかったことを補足させてもらえるため説明者にとって「良い」質問となったり、あるいは、質問者自身も深く極められてなくて、その質問を機に視聴者に問題提起をしたり、さらなるコミュニケーションを促したりできる場合などもあります。
どちらかというと、質問者の能力を示す意味での「良い」質問ではなく、説明者の都合にはまった「良い」質問ということなのかもしれません。
では、質問者の能力を示す「良い」質問はというと、質問者の考えや理解レベルを簡潔に伝えながら、説明者と質問者双方にとってメリットになる質問ということでしょうか。
説明者は、視聴者の平均的なプロファイルを意識した上で、その視聴者に新たな知識や考え方、行動を起こすための動機を与えるなど、なんらかの目的をもって説明をしたわけです。
同時に、視聴者にもその説明を聞く目的があったはずで、それぞれの目的を意識して、その目的を前進させる質問が「良い」質問ではないかと思うわけです。
抽象的な言い方ですが、他の人の質問を聞いて、それが説明者と質問者の目的から考えて、コミュニケーションを前進させるものなのかという疑問をもってみると面白い見方ができるように思います。

このように見てくると、質問というのは本来の意味以上に、様々な仕事やコミュニケーションの中でかなり重要な意味を持っていることがわかります。

さて、企業がイノベーションを起こすことを考えるときに、顧客価値を上げるとか、真の顧客ニーズだとかいうことが取り沙汰されていますが、ここでも「質問力」が大きな影響を与えてきそうな予感がしています。

前回の投稿で「JTBD(Jobs to be done)法」によって、顧客が行おうとするジョブを見つけることがイノベーションにとって重要だという話をしたのですが、JTBD法では、顧客との直接対話によって本当の顧客のやりたいことを知るべきだと教えています。つまり、まさに良い質問ができるかどうかで、本当の顧客のジョブにたどり着けるかが決まるというわけです。

すごく単純な例で言うと、「うちの製品のことは好きですか?」とか「うちの製品のどこを改善すべきだと思いますか?」という質問が悪い質問の例として挙げられます。
好きですか?と当時者(社)から聞かれれば、そんなに好きじゃなくても「好き」と答えてしまうし、どこを改善すればいいかと聞かれれば、他社の同じ種類の製品との違いくらいしか出てこないというのが普通です。でも、こういう質問による受け答えが、企業活動で実際に行われていて、そんなことから次の製品でこの機能を追加するなどは日常茶飯事に起こっています。
イノベーションを起こすための顧客の真実にどんな質問で迫っていくかについて、JTBD法の中からちょっとだけヒントを提供します。
1. 顧客が成し遂げようとしている進歩(progress)は何か
2. 進歩しようとするために苦労していることは何か
3. 進歩するための障害は何か
4. 今までにどんなことを試してきて、我慢していることは何か
5. どんなトレードオフを感じているか
重要なことは、製品や事業者側からの質問ではなく、顧客サイドに完全に重心を移した上で、上記のようなことを手掛かりに顧客とコミュニケーションして、良い質問によってイノベーションのスタートポイントを掴んでいくことです。

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