日本企業の“ワークスタイル変革”

政府が進めようとしている働き方改革は、長時間残業による過労死や自殺などの問題を解決することは無論のこと、国民一人一人の生活の質の向上や、企業の生産性向上、あるいは生産性向上で余った時間を使った余暇活動による経済効果など多くの問題解決に向けて期待も高まっています。
日本企業にも、“ワークスタイル変革”や“働き方改革”などの言葉が広がって、何かが変わろうとしているという雰囲気が出来上がってきていますが、その実態はどうなっているのでしょうか。
実際の日本企業の“ワークスタイル変革”の進め方からは、従来と変わらない日本流の表面的な解決策をのんびりと進める様子が見えてきます。

ある企業の社長方針の中に「ワークスタイル変革を強力に進める。」という項目があるとします。この社長には社長なりの強い想いがあるのだと思われます。しかし、社長はこの「ワークスタイル変革」という仕事を一人の担当役員に落とします。社長の意をくんだ役員は、ワークスタイル変革プロジェクトグループ(PG)を立ち上げ、各部署からメンバーを集めて、半年間で施策をまとめなさい、というオーダーを出します。
そして、以下のような指示を付け加えます。
1. 他社の状況を調査すること。
2. 各部署の働き方に関する課題を出すこと。
3. 在宅勤務に必要なITシステムを提案すること。
4. ・・・

さて、この企業の数年後は、どのような変化がみられるのでしょうか?

このようなやり方は、この企業だけでなく、大手日本企業にはありがちなスタイルで、過去の様々な課題に対しても同じようなやり方をして、それでも実は大きな変革が出来なかったことを反省することなく、同じやり方で新たな課題に立ち向かおうとしています。
もしかすると、過去にはうまく行った事例もあったのかもしれないのですが、ここには大きな落とし穴があるように思えます。
まず、社長の想いはどこに行ってしまったのでしょうか?
社長方針説明などで、大きな意味での社長の想いは語られているのかもしれません。社長によっては具体的な形まで語られるかもしれませんが、この企業の例でいうと、社長が具体的な形を説明、あるいは指示していれば、PGでの検討などは多くの部分が不要なはずなのです。
社長のぼんやりとした指示が役員に伝わり、役員のフィルターがかかって、末端社員への作業指示に落ちて行っています。

上記は、架空の事例(かなり当たってると思う)ではあるのですが、役員の思い込みや固定概念がすでに入っていることと、何のためにやるのかということが、何気に会社目線になってしまっているという重大な欠陥を抱えています。
他社のレベルはどうかという、日本人特有の横並び思考が一つ目の問題で、なぜ、他社がやれないことをやろうと考えないのか。他社がやれないことこそ、自社でやることに意味があると考えないかということです。

社会からみて、自分たちのやろうとしていることが認められるのか、他の経営陣から反対されないだろうか、会社の社風や方針に反していないか、つまり会社の都合が先入観として優先事項になっているのです。
在宅勤務などもいい例で、今現在のIT環境でも十分に在宅勤務はできるはずなのですが、要するに、ちゃんと働いているかを監視する、PCで作業している時間をトラッキングできるようにするなど、性悪説に立った上で、会社として安心できる環境を作ろうとしているわけです。
誰もが認める仕組みが必要なのだ、というのが言い訳として聞こえてきますが、そんな心配をする前に今の状態で始めてしまえばいい話で、その中で問題点があれば修正していけばいいと思うのです。
在宅勤務だけの話ではありません。在宅勤務は、実は一番目立つ施策で、これが出来ればこの役員のいわゆる成果になるのですが、在宅勤務が本質の問題なのでしょうか。

目線を完全に従業員側に移してみると、従業員はどんな未来を望んでいるのでしょうか?
もちろん、従業員にも思い込みがあります。望んではいても越えられないだろうという常識で、思考が及ばない場合もあるかもしれません。でも、本心で望んでいるワークスタイルはあるはずなのです。現在の職場の課題を出せと言われても、潜在的な、従業員も気付いていないような本質的な望みはそう簡単には出てこないのだと思います。

ここで、以前に別のコラムで紹介したアメリカの中小企業「メンロイノベーション」という喜びを求める会社について、もう一度触れておきます。
メンロイノベーションのリッチ・シェリダン社長は、「喜び(Joy)」ということを経営方針として掲げ、社員と顧客の「喜び」を第一優先にした経営を進めています。
そのために、社長自らがいろんなことを学び、面白いと思うものを実践によって試してみて、いいものだけを残すことで、結果的に社員の残業「0」、顧客満足度も向上、そして継続的な増収増益を達成しています。
ここには常識を覆すような考え方、やり方があふれているのと、社長が陣頭指揮を執りながら、実は独裁にもなっていず、社員全員のやる気が社内に充満するような風土作りにもつながっています。
IT化を進める方向よりも、むしろ手書きの紙ですべての仕事をスタートさせる、進捗管理はポストイットを壁に貼って管理する、社内でのメールでのコミュニケーションは禁止など、技術の進歩とは逆に、いわゆるすべてを基本に戻すようなこともやっています。
一度辞めた人も自由に戻ってこられるということも、この会社の自信の現れかもしれません。
社員にとっていい会社であれば、自然といい人たちが集まってきます。顧客にとっていい会社であれば、自然に受注は増えていくのです。
自分が成長できる会社、顧客の満足や、会社の業績向上を社員がいっしょに喜べる会社、毎日が楽しく、生きがいを強く感じられる会社になっていることが、ワークスタイル変革で本当にやらなければならないことなのだと、この会社が教えてくれているように思います。
この会社、全米でも有名だそうですが、リッチ社長の本「Joy, Inc」が日本でも出版されました。つまり、本当にいいお手本があるわけですが、中小企業と大企業は違うよ、なんて声が聞こえてきそうですね。
トップの想いを実現するということは、大企業も中小企業も同じだと思います。
大切なことは、経営トップが本質の問題を捉えて自らが先頭にたってやるかどうか、だけだと思うのです。
目先の表面的な成果を求める先の日本企業の例とは大きく異なることがわかります。

従業員の願いも多様化しています。
でも、共通して言えることは、その人の人生を進化させたいという潜在的な欲求が心の奥底に眠っているということです。
仕事面でもっと自分を伸ばしたいと思う人、家族との幸せな人生を極めたいと願う人、多くの職場を経験してみたいと思う人、自分の本当の能力を見つけたいと願っている人、いずれ起業したいと思っている人、友達をたくさん作りたいと思っている人、一人静かにモノづくりをしていたい人、多くの人が様々な人生の変化、進化を求めています。
日本においてでさえ、終身雇用という考え方は徐々になくなってきています。
企業と個人がもっと対等になって、企業自体が個人に対して魅力的になっていかないと優秀な人材が離れていく、だから企業自体が自ら努力しつづける、というポジティブ・スパイラルを作っていくことが、社会全体として求められていることで、今の日本企業は、現状に甘んじることなく、この静かな変化を読み取って、今すぐに本質の“ワークスタイル変革”への挑戦をすべきなのだと思います。

企業として、従業員の副業を認める、認めないという議論も、実は進んでいません。
副業としてわが社に来てくれるのは歓迎するけれども、自社の社員の副業は認めない、という企業が多いのだそうです。従業員の立場からすると収入面の問題がありますが、実はそれだけでなく、自分を伸ばしたい、短期間で経験を増やしたい、ネットワークを増やしたいなど、多くの期待があります。一方で、企業にとっても、社員の実力、経験、ネットワーク力が上がることは企業の生産性を上げるためにも歓迎すべきことであるはずです。
しかし、副業によって、自社の仕事を精一杯やってもらえない、機密情報が漏れてしまう、あるいは副業をきっかけに辞めてしまうかもしれないという、企業としての自信のなさが背景にあるのだと思います。ここにも性悪説があるのかもしれません。

検討グループ(PG)を作って、従業員を主体に検討すること自体を否定するのではありません。本当に必要な改革を実行するための障害をクリアしていくためには、全社員の参加が不可欠です。
しかしながら、トップから末端社員までの全社員が一つの方向に賛同して向かって行くためには、中途半端なトップダウンは禁物です。ましてや、中間のマネージメントがフィルターをかけて、組織の限界を引きずったままのプロジェクトチームは、おそらく何も生まないと思います。

半年かけて末端社員に報告書を作らせるやり方でなく、いいと思うことをまずやってみる、という思想で、副業問題、在宅勤務など大きな課題だけに目を奪われることなく、身近な課題として、ITに頼らない本来の人と人のコミュニケーションで会社を活性化させる、社内のみでの競争を促進する人事考課を改めていく、失敗を許す文化に変えてチャレンジすることを奨励する雰囲気を作っていく、チーム力での業績と個人力の育成を両立させる仕組みに変えていくなど、要するに、一つの信じられる大方針に従って、従来の価値観や仕事のやり方をスパッと変える勇気を日本企業が持ってくれることを切に願います。

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kamonk

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